漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「曰エツ」 <いう・いわく>

2015年01月07日 | 漢字の音符
 エツは、口から言葉を発する意。会意以外に音符になることなく、部首の曰部(いわく・ひらび)となるが、部首や漢字の一部となるとき、ほとんど日の形となる(なお、皆・習の下部の白も、曰の変化形とする説もあり、私も便宜的にその説を採用しているが確証はない)。
 曰は音符がないので、本稿では曰が部首となっている字、および曰が含まれて会意になっている音符を紹介させていただく。
 


 エツ・オチ・いう・いわく・のたまわく  曰部  

解字 甲骨文・金文は、口(くち)の上に指示記号の短い横線を加えて、口が動いて言葉を発することを表す文字。意味は口を開いて動かし言葉を発すること。篆文は、口の上の横線が上に曲がった形となり、現代字は、口の中に短い横線が入ったかたち。日と紛らわしいが、曰は真ん中の線が右につかない。曰は部首の曰部となる。音符にはならない。
 なお、曹ソウの字では、甲骨文が口、金文が口の中に短い横線、篆文で口の上の横線が曲がる形の変化も見られる。
意味 (1)いう(曰う)。ものをいう。 (2)いわく(曰く)。いうことには。「曰く言い難し」(言葉で言い表すのは難しい) (3)のたまわく(曰わく)。おっしゃるには。 (4)[国]いわれ。わけ。

     曰を含む音符(会意) 
 ソウ・ゾウ・ともがら   曰部

解字 甲骨文字は、「東(荷物を入れた袋)+東(荷物を入れた袋)+口(くち)」の形。東東は荷物二つで荷物を運ぶ二人を表す。そこに口がついて、荷物を運ぶ人が互いに話をしている形で、ともがら・なかまの意。金文は口⇒甘になり、篆文は曰(いう)になったが意味は話す意で変わらず、同じ職業のなかまの意。後に裁判用語として使われたため、司法関係の役所やひろく役人の意味となった。楷書から簡略化され、曹となった。東が荷物を入れた袋であることについては、音符「東トウ」 を参照。
意味 (1)なかま。ともがら(曹)。 (2)つかさ。裁判官。役人。「法曹ホウソウ」(法律家) (3)軍隊などの階級の一つ。「軍曹グンソウ」 (4)「曹司ゾウシ」とは、官吏や女官の部屋の意。「御曹司オンゾウシ」(堂上家の部屋住みの子息。名門の子弟)
曹を音符とする字 (音符「曹ソウ」 を参照)  ソウ:曹・遭・漕・艚・槽・糟

 サン・セン  曰部 

解字 篆文は「曰(いう)+兟シン(髪挿し)」の会意形声。曰(いう)に先がするどい髪挿しを加えて、言う行為をゆがめること。つまり、そしる・中傷する意となる。しかし、本来の意味でなく、仮借カシャ(当て字)されて、かつて・すなわちの意となる。現代字は曰⇒日に変化。
意味 かつて。すなわち。
朁を音符とする字 (音符「朁サン」 を参照)
    サン:朁・蚕  シン:譖・簪  セン:潜・僭

 カツ・なんぞ・いずくんぞ  曰部

解字 「曰エツ(いう)+匃カツ(もとめる)」の会意。匃カツは死者をだいて、そのよみがえりをねがう形。曰エツは、いう意。両者を合わせた曷は、よみがえりの願いを大きな声で言う形で、「請い願う」意味となる。しかし、本来の意味でなく、「なんぞ」「いずくんぞ」の助字に仮借カシャ(当て字)された。新字体の音符になるとき、下部が、匃⇒匂に変化する。
意味 (1)なんぞ(曷ぞ)。いずくんぞ。 (2)いつか。
曷を音符とする字 (音符「曷カツ」を参照)
     カツ:曷・渇・葛・褐・喝  ケイ:掲  エツ:謁  アイ:靄・藹

 タイ・かえる・かわる  曰部

解字 金文は、二人の立った人の形で、二人が話をしているさまと思われる。篆文は「立立+曰(言う)」の会意。立った二人の人が会話をしている形。二人が引き継ぎをして役割を交替するさまから「かわる」意味をもつ。交替が済んだ方は役割からはずれるので、おとろえる意となる。現代字は、篆文の立立⇒夫夫(おとこ)に、曰⇒日に変化した替になった。立った人から夫(おとこ)に変わっただけで意味は同じである。
意味 (1)かわる(替わる)。かえる(替える)。「交替コウタイ」「両替リョウがえ」「為替かわせ」(とりかわす。ひきかえ。交換) (2)[国]かえ。身代わり。「替え玉かえだま」 (3)すたれる。おとろえる。「隆替リュウタイ」(盛んになることと衰えること)
替を音符とする字  なし

 トウ・くつ  水部

解字 「水(みず)+曰(いう)」の会意。水は流れる水の意。曰エツは言うの意。水の流れるようにすらすら言うこと[大修館漢語新辞典]。現代字は、曰エツ⇒日に変化した。日本では鞜トウ(かわぐつ)に当て、沓を、くつの意で使う。
意味 (1)すらすらと言う。流暢にしゃべる。「沓沓トウトウ」(得意になってしゃべるさま) (2)あふれる。水があふれる。 (3)あう(合う)。まじりあう。かさなる。多い。「雑沓ザットウ=雑踏」(ひとごみ) (4)[国]くつ(沓)。「沓石くついし」(柱をささえる土台石)
沓を音符とする字 (音符「沓トウ」 を参照)  トウ:沓・誻・踏・鞜


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音符「矞イツ」<矛を台座に立てる>と「鷸イツ」「橘キツ」「譎ケツ」

2015年01月06日 | 漢字の音符
 イツ・キツ・ケツ  矛部

解字 「矛(ほこ)+冏ケイ(穴のある台座)」の会意。台座の穴に矛を立てて武威を示した形[字統]。武威を示すことをいう。
意味 (1)ただす。 (2)おそれおののく。

イメージ 
 「矛を立てて武威を示す」
(譎・鷸・橘)
音の変化  イツ:鷸  キツ:橘  ケツ:譎

矛を立てて武威を示す
 ケツ・キツ・いつわる  言部
解字 「言(いう)+矞(武威を示す)」の会意形声。相手に武威を見せつけて作りごとを言うこと。
意味 (1)いつわる(譎る)。あざむく。「譎詐ケッサ」(いつわりあざむく=譎詭ケッキ)「奸譎カンケツ」(わるがしこく、いつわりが多いこと) (2)あやしい。「譎怪ケッカイ」(譎も怪もあやしい意)
 イツ・しぎ  鳥部

シギ科の水鳥(大杓鷸)
解字 「鳥(とり)+矞(矛を立てる)」の会意形声。矛のような長いくちばしを持つ鳥。
意味 しぎ(鷸)。鴫とも書く。シギ科の鳥の総称。くちばしや脚が長く、水辺にすみ、水棲の小動物を餌にする。「鷸蚌イツボウの争い」(シギと蚌どぶがいが争い漁夫が利を占める話)
 キツ・たちばな  木部  

橘たちばな(「季節の花300」より)
解字 「木(き)+矞(矛を立てる=トゲがある)」の形声。広い意味での橘は、枝にトゲをもち葉に芳香があるのが特徴の低木をさす。柑橘属(ミカン(橘子)・レモン・ユズ)・金橘属(キンカン)・枸橘からたち属(=枳殻。カラタチ)の3属があるが、多かれ少なかれトゲがあり、特にカラタチやユズのトゲはよく知られる。実は黄色で酸っぱい味がする。食用になるものが多い。日本では、固有種の柑橘属であるタチバナにこの字を当てた。その実は食用にならないが、きれいな白い花をつけ、その花から清らかな香りが立つので、タチバナ(香りの立つ花)と言われる。
意味 (1)[国]たちばな(橘)。日本固有のミカン科の常緑小高木。樹高2~4m。若い幹にはトゲがある。果実は酸っぱくて食べられない。香りのある白い花をつける。「橘紋たちばなもん」(橘の実と葉を図案化した家紋) (2)[国]姓。「橘氏たちばなシ」「源平藤橘ゲンペイトウキツ」(日本における貴種名族の源氏・平氏・藤原氏・橘氏をまとめた言い方) (3)ミカン類の総称。「柑橘類カンキツルイ」(①ミカン類の常緑樹、特に果樹・果実の総称。②分類上は、ミカン属・キンカン属・カラタチ属からなる)「金橘キンカン・キンキツ」「枸橘クキツ」(カラタチ・枳殻キコクとも書く)

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音符「臾ユ」<束縛する>「諛ユ」「萸ユ]  と 「曳エイ」「洩エイ」

2015年01月05日 | 漢字の音符
 ユ  臼部

解字 金文第一字は、人が他人から両手でつかまれ束縛される形。第二字は、両手が人の横にきた形。篆文および現代字は、「両手(逆向きのヨ+ヨ)+人」の臾となった。人が束縛される意。また、しばらく・わずかの意に仮借カシャ(当て字)される。
意味 (1)束縛する。「臾曳ユエイ」(束縛して曳きたてる) (2)しばらく。わずかのあいだ。「須臾シュユ」(しばらく。しばしの間)「須臾シュユ(片時)も忘れぬ」

イメージ 
 「束縛する」
(臾・諛)
 「その他」(萸)
音の変化  ユ:臾・諛・萸

束縛する
 ユ・へつらう  言部
解字 「言(ことば)+臾(束縛される)」の会意形声。束縛された状態で話す言葉。自由をうばわれ相手にへつらうこと。
意味 へつらう(諛う)。きげんをとる。「阿諛アユ」(おもねりへつらう)「阿諛迎合アユゲイゴウ」(相手に気に入られるために機嫌を取る)「阿諛追従アユツイショウ」(気に入られようとして、こびへつらう)「面諛メンユ」(その人の面前でへつらうこと)

その他
 ユ  艸部
解字 「艸(草木)+臾(ユ)」の形声。ユという名の植物。ユのイメージは不明。
意味 「茱萸シュユ」に使われる字。茱萸とは、①グミ科グミ属の総称。実は熟すと赤くなり食用となる。 ②「山茱萸サンシュユ」とは、ミズキ科の落葉小高木。和名はカワハジカミ。紅色楕円形の実は「サンシュユ」の名で生薬に利用される。
※なお、茱シュは、「艸(草木)+朱(あかい)」で、あかい実をつける植物の意。

   エイ <ひく>
 エイ  曰部   

解字 臾から分かれた字。臾は人が他人から両手でつかまれ束縛される形で、束縛の意になるのに対し、曳エイは束縛して「ひっぱる・ひく」意となる。形も臾のなかの、人⇒「右はらい+ノ」の形に、両手((逆向きのヨ+ヨ)⇒日に変化した。
意味 ひく(曳く)。ひっぱる。ひきずる。「曳航エイコウ」(船が他の船を曳いて航行する)「曳光弾エイコウダン」(光を曳きながら飛ぶ弾丸。弾道や着弾点がわかるようにした弾)

イメージ 
 「ひく」
(曳・洩)
音の変化  エイ:曳・洩

ひ く
 エイ・セツ・もれる  氵部
解字 「氵(水)+曳(ひく)」の会意形声。水が隙間などから曳かれるように少しずつ流れること。
意味 (1)もれる(洩れる)。もらす。隙間などから外に出てくる。外部に知られる。「漏洩ロウエイ」(もれること。漏も洩も、もれる意) (2)のびる。伸びる。「洩洩エイエイ」(心がのびのびする)

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音符「咠シュウ」<耳に口をよせる>と「揖ユウ」「輯シュウ」「葺シュウ」

2015年01月03日 | 漢字の音符
 シュウ  口部

解字 「口(くち)+耳(みみ)」の会意。耳に口をよせてささやくこと。
意味 ささやく。現在、単独では使われない。耳に口を「よせる」イメージがある。

イメージ  
 耳に口を「よせる」(咠・揖)
 「形声字」(輯・葺・緝・楫)
音の変化  シュウ:咠・輯・葺・緝・楫  ユウ:揖

よせる
 ユウ・シュウ  扌部 
揖礼
解字 「扌(手)+咠(よせる)」の会意形声。両手を胸の前でよせて組む礼をいう。相手に敬意を表す。
意味 (1)えしゃく。拱手キョウシュともいう。敬意をあらわすため両手を胸の前で組む礼。「揖礼ユウレイ」(両手を胸の前で組む礼)「揖讓ユウジョウ」(①揖礼をしてへりくだる。②おだやかな態度で行なう)「拝揖ハイユウ」(拝礼と揖礼。おじぎをする) (2)地名。「揖保川いぼがわ」(兵庫県の南西部を流れ、たつの市を貫流し姫路市で播磨灘に注ぐ川)「揖斐川いびがわ」(岐阜県西部を流れ伊勢湾に注ぐ川)

形声字
 シュウ・あつめる  車部
解字 「車(くるま)+咠(シュウ)」の形声。シュウは集シュウ(あつまる)に通じ、車が集まること。また、揖ユウ・シュウ(えしゃく)に通じ、集まった車に礼儀があり、友好的なこと。
意味 (1)あつめる(輯める)。あつまる(輯まる)。ひとつにあつめる。「編輯ヘンシュウ」(資料をあつめ書物などの形に整える=編集)「輯成シュウセイ」(=集成) (2)やわらぐ。おだやか。むつまじくする。「輯睦シュウボク」(おだやかで睦まじい)「輯寧シュウネイ」(やわらぎやすらか)
 シュウ  艸部
解字 「艸(草)+咠(シュウ)」の形声。シュウは集シュウ(あつまる)に通じ、茅かやなどの草をあつめて屋根をふくこと。
意味 (1)ふく(葺く)。茅などで屋根をふく。「葺屋シュウオク」(屋根をふく) (2)つくろう。なおす。「葺繕シュウゼン」(修理する。つくろう) (3)つみかさなるさま。「葺葺シュウシュウ」(つみかさなる)
 シュウ・つむぐ  糸部
解字 「糸(いと)+咠(シュウ)」の形声。シュウは集シュウ(あつまる)に通じ、糸をあつめてつむぐこと。また、糸で、つぐ・かがる意などになる。
意味 (1)つむぐ(緝ぐ)。「緝績シュウセキ」(緝も績も、つむぐ意) (2)あつめる(=輯)。「緝綴シュウテイ」(あつめつづる。文をつくる)「緝合シュウゴウ」(あつめ合わせる) (3)つぐ(緝ぐ)。かがる。「緝辺シュウヘン」(へりをかがる) (4)とらえる。「緝捕シュウホ」(逮捕する)
 シュウ・ショウ・かじ  木部
解字 「木(き)+咠(シュウ)」の形声。シュウは集シュウ(あつまる)に通じ、舟に集まっている木製の「かい」をいう。大勢の漕ぎ手で舟をこぐこと。また、舟尾の人が「かい」を水中で操作して進路を変えると「かじ」になる。
意味 (1)かじ(楫)。舟の進行方向を定める道具。「楫師シュウシ・ショウシ」(舟のかじとり) (2)かい(楫)。水をかいて舟をすすめる道具。「楫櫂シュウトウ・ショウトウ」(楫も櫂も、かいの意) (3)こぐ(楫ぐ)。水路で物を運ぶ。「舟楫シュウシュウの利」 (4)あつめる。

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円満字二郎著 『部首ときあかし辞典』 研究社

2015年01月02日 | 書評
 私は漢和辞典を引くたびに失望することがある。部首索引でめざす部首を見つけ、その部首の解説を読むと、実にそっけないのである。例えば、犭へん。「犬が偏になるときの形。犬部を見よ」とか、別の辞書では、「犬が偏になるときの形で、「けものへん」と呼ぶ。犭を含む漢字や、野獣的な性状・行動に関する漢字が集められる」といった具合。犭部の解説に「犭を含む漢字が集められている」とは、おかしいのでは?


 円満字二郎氏の『部首ときあかし辞典』では、「部首<犬>が漢字の左側、いわゆる「へん」の位置に置かれたときの形。基本的には<犬>と同じだが、漢字の数は<犭>の方がはるかに多いので、そのぶん、部首として表す意味も広がりを持つ(要旨)」とした上で、犭の持つ意味ごとに解説を加えている。以下に箇条書きすると、
(1)犬を表す。「狗」(いぬ)、「狆ちん」(犬の種類)
(2)犬を使って狩りをする。「狩しゅ」「猟りょう」「獲かく
(3)犬がほえあう。「獄ごく」(原告と被告が言い争う)
(4)一部の哺乳類を表す。「猫ねこ」「狐きつね」「狸たぬき」「猪いのしし」「狼おおかみ」など
(5)人間としてふさわしくない行動。「犯はん」「狡猾こうかつ」「猛もう」(暴力的)など
(6)(5)が転じて、社会の乱れが極端になった状態。「猖獗しょうけつ」(悪いものの勢いが盛ん)
(7)意味合いがよくわからないもの。「独どく」「狭きょう
と分けて説明しているので、大変分かりやすい。因みに、(7)の「意味合いがよくわからないもの」として挙げている 「独どく」 「狭きょう」 は、私が「漢字の音符」で意味がよく分かるように解説しているので、ご覧いただきたい。

 さらに、最も所属の多い部首のひとつである草かんむりでは、草が表すさまざまな形を分けて説明している他に、草と関係のないものとして、「若じゃく」(巫女のかたち)「蔑べつ」(目の眉毛の変形)「萬まん」(サソリを表した字)などを分けて挙げている。
 また、<言ごんべん>では、言葉を表す以外に「相手の所にいく(行って言葉を交わす)」意として、「訪ほう」「謁えつ」「詣けい」、さらに、言葉を論理的に使うことから「頭脳のはたらき」を指すものとして、「計けい」「試」「認にん」「識しき」など、言葉離れした項目を設けて(この設せつも言葉離れしている)説明している。

非常に少ない部首の本
 漢和辞典での扱いが象徴しているように、日本ではこれまで部首に関する本は非常に少なかった。阿辻哲次氏の『部首のはなし(1)(2)』(中公新書)は、気軽に読めておもしろいが本格的なものでなく随筆といっていい。私は図書館で『漢字講座 全10巻』(1988~1999年刊 明治書院)を借りて全部目を通したが、部首について書いた論文は一つもなかった。
 部首を本格的に取り上げにくいのは、部首そのものが持つ整合性のなさにある。部首は意符とされることが多い。確かに氵(さんずい)は水をあらわし、木へんは木をあらわしているが、一方、部首一いちは、数字の一は意味を表すが、上・下・丁・七など、横に一本線が走っているだけで、どこも行き場所のない字が、ここに放り込まれている。部首二は、意味をもつのは数字の二だけで、そのほかは上下に横棒がある、五・亜・互・亘などが放り込まれている。(しかし、どこも行き場所のない、これらの個性的な字こそが、音符なのである)。こうした意符を表さない部首は大変多いのである。

 部首についてのそんな状況のなかで本書は、意符としての部首だけでなく、部首に放り込まれた異端の字についても目配りしており、部首について書かれた本格的な唯一の本と言えるだろう。索引も充実していて、本の中で取り上げた漢字はすべて音訓索引で引けるようになっている。欲をいえば、参考文献の欄をつけて欲しかった。本書は部首に興味のある人には、手許においておきたい一冊であろう。
(円満字二郎著『部首ときあかし辞典』2013年刊 本文366P 索引48P 研究社 2000円+税)
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