漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「此シ」<背をむける> と「雌シ」「觜シ」「嘴シ」「眦シ」「髭シ」「貲シ」「疵シ」「茈シ」「紫シ」「些サ」「砦サイ」「柴サイ」

2024年09月19日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 シ・これ・この  止部 cǐ


 上は此、下は北
解字 甲骨文から現代字まで「止(シ)+ヒ(背をむけた人の形)」の会意形声。ヒは北ホク(二人が背を向けた形)の右辺と同じで、背を向けた人を表す。これに発音を表す止(シ)をつけた此は、背をむけた人の意。しかし、もとの意味でなく、之と同声のため「これ・この」を示す助字に仮借カシャ(当て字)された。
意味 (1)これ(此れ)。この(此の)。ここ。近くの事物をさす語。「此岸シガン」(この世)「此処ここ」「此方こちら」 (2)かく(此く)。このように。「此くの如し」

イメージ 
 「この・これ(仮借・当て字)」
(此・些) 
 「背をむける」(雌・觜・嘴・眦・髭・貲)
 「形声字」(疵・茈・紫・砦・柴)
音の変化  
  シ:此・雌・觜・嘴・眦・髭・貲・疵・茈・紫  サ:些  サイ:砦・柴

この
 サ・いささか・すこし  二部 xiē
解字 「ニ(ふたつ)+此(この)」の会意形声。この二つのもの。すくない。すこしの意。
意味 いささか(些か)。わずか。すこし(些し)。「些細ササイ」(細かく小さい)「些事サジ」(つまらない事)「些少サショウ」(すこし)

背をむける
 シ・め・めす・めん  隹部 cí
解字 「隹(とり)+此(背をむける)」の会意形声。オスの鳥に背をむけて交尾するメスの鳥。
意味 (1)めす(雌)。「雌鶏めんどり」「雌雄シユウ」 (2)かよわい。「雌伏シフク」(しばらく他人の支配に服してたえる)⇔「雄飛ユウヒ
 シ・スイ・くちばし・はし  角部 zī・zuǐ 
解字 「角(つの)+此(背をむける⇒逆向き)」の会意形声。角に対し、もう一つ逆向きの角が合わさる意で、猛禽類のように角が向きをかえて合わさっている形の鳥のくちばしをいう。
意味 (1)くちばし(觜)。はし(觜)。鳥のくちばし。「觜距シキョ」(鳥のくちばしと、けづめ。戦うときの武器にたとえる) (2)くちばしのような形。「觜鼻シビ」(くちばしのような鼻。とがってみにくい鼻)「砂觜サシ」(=砂嘴) (3)とろきぼし。二十八宿の一つ。「觜宿シシュク」(とろきぼし。オリオン座の北部) 
 シ・くちばし・はし  口部 zuǐ
解字 「口(くち)+觜(くちばし)」の会意形声。觜(くちばし)に口をつけ、くちばしであることを、分かりやすく示した字。

イカルのくちばし(「京都市動物園ブログ」より)
意味 (1)くちばし(嘴)。はし(嘴)。鳥の口さき。「嘴太鴉はしぶとがらす」(口先の太いカラス)(2)人の口。「嘴尖シセン」(口達者)「嘴頭シトウ」(①口先、②ものの言いぶり)(3)くちばしのような形。「砂嘴サシ」(沿岸流や波浪によって運ばれた砂が海岸から鳥のくちばしのように突き出た地形をいう)
眥[眦] シ・サイ・まなじり  目部 zì
解字 「目(め)+此(背をむける⇒反対側)」の会意形声。目もとの反対側にある目尻をいう。
意味 (1)まなじり(眥)。眦とも書く。目の尻。目尻をいう。「目眦モクシ」(まなじり)「眥(まなじり)をあげる」(緊張した面持ちで目を見張ること)「眥(まなじり)を決する」(眼を大きく開き、決意したときのさまにいう)「眥裂髪指シレツハッシ」(眥は裂け髪は上を指す。眼を大きく見開き、髪の毛が逆立つ。激しくいきどおる)(2)にらむ。「睚眥ガイサイ」(睚も眥も、にらむ意。にらむこと)
 シ・ひげ  髟部 zī 
解字 「髟(髪の毛)+此(背をむける⇒反対側)」の会意形声。髪の毛に背をむけたほう(反対側)のあごの近くに生える毛。
意味 ひげ(髭)。あごの近くに生えるひげ、とくに口ひげをいう。「髭鬚シシュ」(口ひげと、あごひげ)「髭根ひげね」(ひげのように生える根。イネやムギなどの根をいう)
 シ・あがなう  貝部 zī
解字 「貝(財貨)+此(背をむける⇒反対側)」 の会意形声。財貨で罰を反対側(罰を受けない)にすること。後漢の[説文解字]は「小さい罰、財を以て自ら贖(あがな)うなり」として、財貨を払って罰を受けないようにする意が原義。転じて、財貨で官職を買う意や、さらに財産・資材の意で使う。 
意味 (1)あがなう(貲う)。金品を代償として出し罪をまぬがれる。「貲贖シショク」(貲も贖も、あがなう意)(2)金品で地位や官職を買う。「貲郎シロウ」(金銭をおさめて官職を買い役人になった者)(3)財産。資産。たから。「貲財シザイ」(=資財)「貲産シサン」(=資産)

形声字
 シ・きず  疒部 cī
解字 「疒(やまい)+此(シ)」 の形声。シは刺(さす)や、茨(いばら)に通じ、イバラのとげなどに刺された傷をいう。
意味 (1)きず(疵)。きずあと。あやまち。欠点。「小疵ショウシ」(少しのきず。わずかな欠点)「瑕疵カシ」(過失)(2)やまい。病気。「疵厲シレイ」(病気)(3)そしる。悪口をいう。「疵毀シキ」(そしる)
 シ・サイ・むらさき  艸部 zǐ・cí
解字 「艸(くさ)+此(シの音)」の形声。シという名の草。

茈草シソウ(紫草)※写真は中国ネットから。 
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1766583189285753022&wfr=spider&for=pc
意味 (1)むらさき(茈)。植物の名。ムラサキ科の多年草。根は太く乾燥すると暗紫色になる。紫色の染料として用いる。「茈草シソウ」(紫草) (2)「茈胡サイコ」とは、多年草の名。「三島茈胡 ミシマサイコ」とも。薬草となる。
 シ・むらさき  糸部 zǐ
解字 「糸(いと)+此(シ)」 の形声。シは茈(むらさき草)に通じ、この根を乾燥させ煮出した液に漬けて紫色に染めた糸。
意味 (1)むらさき(紫)。赤と青の中間色。「紫雲シウン」「紫衣シイ・シエ」(紫色の僧衣。日本では以前、天皇が高僧に下賜した)「紫煙シエン」(タバコの煙)「紫電シデン」(①むらさき色の電光。②鋭い光、また刀の光)
 サイ・とりで  石部 zhài
解字 「石(いし)+此(サイ)」の形声。サイは寨サイ(とりで)に通じ、石を積んで出来たとりでをいう。
意味 とりで(砦)。敵をふせぐ小さな城。「山砦サンサイ」「砦柵サイサク」(敵を防ぐ柵)「城砦ジョウサイ」(とりで)
 サイ・しば  木部 chái
解字 「木(き)+此(サイ)」の形声。[説文解字]は「小木散材(細かな木や役立たない材木)。木に従い此サイ聲(声)」とする。
意味 (1)しば(柴)。山野に生える雑木。また、それを切ったもの。「柴門サイモン」(柴で作った門。粗末な家)「柴戸サイコ」(①柴で作った戸。②あばら屋)「柴山しばやま」(小さな雜木の生えている山)「薪柴シンサイ」(まきと、しば。たきぎ)(2)木の柵。へだてる。「柴柵サイサク」(やらい。とりで)「柴断サイダン」(ふさぎへだてる)(3)姓。「柴しば」「柴田しばた」(4)地名。「柴又しばまた」(東京都葛飾区の地区)
<紫色は常用漢字>

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