毎日新聞 2011年10月8日 2時30分
今年のノーベル平和賞には、アフリカ初の女性大統領となったリベリアのサーリーフ大統領ら3人の女性が選ばれた。同国の平和活動家、リーマ・ボウイーさん、中東イエメンの人権活動家、タワックル・カルマンさんとの共同受賞だ。「アラブの春」と呼ばれる民衆運動によって世界の意識改革が進む折、アフリカ・中東地域の民主化や女性の地位向上に弾みがつくよう期待したい。
アフリカからの平和賞受賞は、9月に死去したケニアの環境問題活動家、ワンガリ・マータイさん(04年受賞)以来となる。女性の受賞もマータイさん以来で、3人の女性の同時受賞は異例のことである。
まずは受賞者の長年の努力に敬意を表したい。サーリーフ大統領は米国の大学で学び、リベリアで財務相などを務めたが、80年のクーデター後は国外逃亡を余儀なくされた。帰国後も、ドウ軍事政権を非難する発言で禁錮10年の判決を受けるなど辛酸をなめ、「鉄の女」と呼ばれた。米国の解放奴隷の子孫と先住民が宿命的に対立してきた同国にあって親米の姿勢を取ってきた。
授賞理由としてノーベル賞委員会は、06年の大統領就任以来、リベリアの平和、女性の地位向上などに貢献したことを挙げている。また、ボウイーさんは人種や宗教の垣根を越えて広範な女性運動を組織し、リベリア内戦の終結にも尽力したことが評価された。この2人を抜きにしてリベリアの和平や民主化、とりわけ女性の権利拡大は語れない。
やや異色なのはカルマンさんだろう。人権運動や女性の権利拡大に努める点では他の2人と同じだが、カルマンさんはイエメンのサレハ大統領と対立関係にある。独裁政権への抗議デモが続くイエメン情勢に関して、授賞は反政府派を後押しする政治的意味合いを持っている。
授賞理由は「『アラブの春』以前から、女性の権利と平和・民主主義のための闘いで主導的役割を果たしてきた」ことだ。イエメンはアラブの中でも男性優位の部族的な社会である。そんな国でカルマンさんは05年、女性のジャーナリストの組織を設立し、しばしば投獄されても民主化と女性の権利拡大のために闘ってきた。他の2人同様、「非暴力」の闘いが評価されたわけだ。
女性の権利拡大は着実に進めなければならない。アフリカや中東の文化・慣習は尊重するが、女性の地位はまだまだ低い。紛争で多くの女性が命を落とし、性暴力も多発している。受賞の背景にある「アラブの春」は、非暴力を旨としつつ旧弊な社会制度と闘う運動だ。その「世直し」のエネルギーは、女性差別の撤廃にも向けられるべきである。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20111008k0000m070164000c.html
今年のノーベル平和賞には、アフリカ初の女性大統領となったリベリアのサーリーフ大統領ら3人の女性が選ばれた。同国の平和活動家、リーマ・ボウイーさん、中東イエメンの人権活動家、タワックル・カルマンさんとの共同受賞だ。「アラブの春」と呼ばれる民衆運動によって世界の意識改革が進む折、アフリカ・中東地域の民主化や女性の地位向上に弾みがつくよう期待したい。
アフリカからの平和賞受賞は、9月に死去したケニアの環境問題活動家、ワンガリ・マータイさん(04年受賞)以来となる。女性の受賞もマータイさん以来で、3人の女性の同時受賞は異例のことである。
まずは受賞者の長年の努力に敬意を表したい。サーリーフ大統領は米国の大学で学び、リベリアで財務相などを務めたが、80年のクーデター後は国外逃亡を余儀なくされた。帰国後も、ドウ軍事政権を非難する発言で禁錮10年の判決を受けるなど辛酸をなめ、「鉄の女」と呼ばれた。米国の解放奴隷の子孫と先住民が宿命的に対立してきた同国にあって親米の姿勢を取ってきた。
授賞理由としてノーベル賞委員会は、06年の大統領就任以来、リベリアの平和、女性の地位向上などに貢献したことを挙げている。また、ボウイーさんは人種や宗教の垣根を越えて広範な女性運動を組織し、リベリア内戦の終結にも尽力したことが評価された。この2人を抜きにしてリベリアの和平や民主化、とりわけ女性の権利拡大は語れない。
やや異色なのはカルマンさんだろう。人権運動や女性の権利拡大に努める点では他の2人と同じだが、カルマンさんはイエメンのサレハ大統領と対立関係にある。独裁政権への抗議デモが続くイエメン情勢に関して、授賞は反政府派を後押しする政治的意味合いを持っている。
授賞理由は「『アラブの春』以前から、女性の権利と平和・民主主義のための闘いで主導的役割を果たしてきた」ことだ。イエメンはアラブの中でも男性優位の部族的な社会である。そんな国でカルマンさんは05年、女性のジャーナリストの組織を設立し、しばしば投獄されても民主化と女性の権利拡大のために闘ってきた。他の2人同様、「非暴力」の闘いが評価されたわけだ。
女性の権利拡大は着実に進めなければならない。アフリカや中東の文化・慣習は尊重するが、女性の地位はまだまだ低い。紛争で多くの女性が命を落とし、性暴力も多発している。受賞の背景にある「アラブの春」は、非暴力を旨としつつ旧弊な社会制度と闘う運動だ。その「世直し」のエネルギーは、女性差別の撤廃にも向けられるべきである。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20111008k0000m070164000c.html