毎日新聞 2011年10月16日 0時06分
台湾で先月から、日本統治時代の先住民・セデック族の反乱「霧社事件」をテーマにした映画「セデック・バレ」が上映され、話題を集めている。台湾史上最大の製作費をかけ、前後編合わせて4時間半の大作で、記録的な観客動員となっているという▲台湾中部の霧社で1930年10月27日、武装蜂起した先住民が運動会開催中の小学校に乱入し、日本人の親子ら130人余りを殺害した。台湾総督府は軍や警察を大量動員して徹底攻撃し、先住民の犠牲者は約800人に上った▲当局が強いた過酷な労役や警官の高圧的な態度に人々の不満が爆発したのがきっかけといわれている。生活の糧であった狩猟を制限されたことや、伝統的な習慣を禁じられたことも遠因だとされる▲地元の研究家、トウ相揚さんは「文明の衝突」が原因だと言う。近代化にまい進していた日本と、自然と共生する昔ながらの暮らしを守っていた先住民。価値観も時間軸も全く異なる二つの文明が、支配する側とされる側になったことで、起こるべくして起こったのだと▲10年ほど前、事件参加者の子孫を訪ね歩いて話を聞いたことがある。彼らは「あれは民族の尊厳をかけた戦いだった」と誇りを忘れてはいなかった。だが、今は日本人を恨む気持ちはないと、親切に応対してくれたことが心に残る▲事件からくむべき教訓が異民族を統治することの不合理さや難しさにあるとするなら、それは現代にも通じる。21世紀になっても、世界では民族紛争や少数民族を巡るトラブルが絶えない。「セデック・バレ」の公開を機に、そうした問題を改めて考えるのも意味があるだろう。
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20111016k0000m070115000c.html
台湾で先月から、日本統治時代の先住民・セデック族の反乱「霧社事件」をテーマにした映画「セデック・バレ」が上映され、話題を集めている。台湾史上最大の製作費をかけ、前後編合わせて4時間半の大作で、記録的な観客動員となっているという▲台湾中部の霧社で1930年10月27日、武装蜂起した先住民が運動会開催中の小学校に乱入し、日本人の親子ら130人余りを殺害した。台湾総督府は軍や警察を大量動員して徹底攻撃し、先住民の犠牲者は約800人に上った▲当局が強いた過酷な労役や警官の高圧的な態度に人々の不満が爆発したのがきっかけといわれている。生活の糧であった狩猟を制限されたことや、伝統的な習慣を禁じられたことも遠因だとされる▲地元の研究家、トウ相揚さんは「文明の衝突」が原因だと言う。近代化にまい進していた日本と、自然と共生する昔ながらの暮らしを守っていた先住民。価値観も時間軸も全く異なる二つの文明が、支配する側とされる側になったことで、起こるべくして起こったのだと▲10年ほど前、事件参加者の子孫を訪ね歩いて話を聞いたことがある。彼らは「あれは民族の尊厳をかけた戦いだった」と誇りを忘れてはいなかった。だが、今は日本人を恨む気持ちはないと、親切に応対してくれたことが心に残る▲事件からくむべき教訓が異民族を統治することの不合理さや難しさにあるとするなら、それは現代にも通じる。21世紀になっても、世界では民族紛争や少数民族を巡るトラブルが絶えない。「セデック・バレ」の公開を機に、そうした問題を改めて考えるのも意味があるだろう。
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20111016k0000m070115000c.html