毎日新聞 2014年11月18日(火)
濃く太い眉毛の下からのぞく大きな瞳。名子役と言われた少年は10年の歳月を経て大きく成長していた。近年の柳楽(やぎら)優弥は、番長役やアイヌの若者役など進境著しい。
最新主演作「最後の命」(松本准平監督、原作・中村文則、全国公開中)では一転、トラウマを抱えながらも生きる意味を見いだそうとする繊細な青年・桂人を演じた。「もし、彼が目の前に現れたら『現代っ子』って言ってやりたいですね。渋谷に行ったら、むちゃくちゃいると思うんですよ。自分も現代っ子なんで『お前に言われたくないよ』と言い返されるかもしれませんが」と笑う。
■ ■
幼少期に巻き込まれた集団レイプ事件の影響で、人付き合いを避けながら都会の片隅で仏文学の翻訳を黙々と続ける若い男という役どころだ。
「桂人には自分と同じ匂いを感じます。感情を抑えるところとか、ちょっとためらってしまうところとか共通点を演じるうえで生かしたいと思った。今回は妙に自らに近い性格だったので、いろいろ考えて大変でした」と振り返る。
「自分の生きていることを受け入れる」ようになるまで、桂人は幼なじみで一緒に事件に遭った冴木(矢野聖人)や、精神を病んでいる恋人香里(比留川游)ともがき苦しむ。「生きるとか、死ぬとか、高校生ぐらいの時は敏感ですよね。でも、死しか選択肢がないのはもったいない」
重苦しい空気が作品を支配する。が、長い雨が降った後に<もう一度窓を開け、虹を集めよう>と歌うCoccoの主題歌がラストに流れる。柳楽は「すごく救われた。トンネルを走り回って出口を探していた3人が、差し込む光を見つける。僕の世代や30代の心に響く映画になったらうれしい」と言う。
■ ■
今24歳の柳楽にとっても「激しい波があった」10代後半は、体調を崩したこともある苦しい時期だった。
2004年、14歳にして主演映画「誰も知らない」(是枝裕和監督)で第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を獲得し「重圧」となった。
「高いハードルを求められているのではないかと、自分には考えすぎていた部分がありました。過去に対する後悔は全くありませんが、反省点は山のようにある」
そんな“トンネル”を歩いていた時、一つのフランス語の言葉が自らを支えた。
<私の人生で家族に次いで最も愛を注いでいるものが、俳優の職業である>(原文はフランス語)
この10年来、ずっと自身のホームページに掲げている。
「14歳の時、ひらめいた言葉です。英語で書いていたら『分かりやすいな、この人』と思われてしまうので、フランス語にして僕なりに一ひねり加えたつもりです。格好付けた言葉ですよね。許してください」と恥ずかしがる。
「でも、当時の感性を、素直な気持ちを僕は大事にして忘れたくない。だから、あえて残しているんです。演じることが好きなんです。常に答えがないから」。こう語り、真っすぐ私を見つめる目には力があった。【広瀬登】
http://mainichi.jp/shimen/news/m20141117dde012200003000c.html
濃く太い眉毛の下からのぞく大きな瞳。名子役と言われた少年は10年の歳月を経て大きく成長していた。近年の柳楽(やぎら)優弥は、番長役やアイヌの若者役など進境著しい。
最新主演作「最後の命」(松本准平監督、原作・中村文則、全国公開中)では一転、トラウマを抱えながらも生きる意味を見いだそうとする繊細な青年・桂人を演じた。「もし、彼が目の前に現れたら『現代っ子』って言ってやりたいですね。渋谷に行ったら、むちゃくちゃいると思うんですよ。自分も現代っ子なんで『お前に言われたくないよ』と言い返されるかもしれませんが」と笑う。
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幼少期に巻き込まれた集団レイプ事件の影響で、人付き合いを避けながら都会の片隅で仏文学の翻訳を黙々と続ける若い男という役どころだ。
「桂人には自分と同じ匂いを感じます。感情を抑えるところとか、ちょっとためらってしまうところとか共通点を演じるうえで生かしたいと思った。今回は妙に自らに近い性格だったので、いろいろ考えて大変でした」と振り返る。
「自分の生きていることを受け入れる」ようになるまで、桂人は幼なじみで一緒に事件に遭った冴木(矢野聖人)や、精神を病んでいる恋人香里(比留川游)ともがき苦しむ。「生きるとか、死ぬとか、高校生ぐらいの時は敏感ですよね。でも、死しか選択肢がないのはもったいない」
重苦しい空気が作品を支配する。が、長い雨が降った後に<もう一度窓を開け、虹を集めよう>と歌うCoccoの主題歌がラストに流れる。柳楽は「すごく救われた。トンネルを走り回って出口を探していた3人が、差し込む光を見つける。僕の世代や30代の心に響く映画になったらうれしい」と言う。
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今24歳の柳楽にとっても「激しい波があった」10代後半は、体調を崩したこともある苦しい時期だった。
2004年、14歳にして主演映画「誰も知らない」(是枝裕和監督)で第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を獲得し「重圧」となった。
「高いハードルを求められているのではないかと、自分には考えすぎていた部分がありました。過去に対する後悔は全くありませんが、反省点は山のようにある」
そんな“トンネル”を歩いていた時、一つのフランス語の言葉が自らを支えた。
<私の人生で家族に次いで最も愛を注いでいるものが、俳優の職業である>(原文はフランス語)
この10年来、ずっと自身のホームページに掲げている。
「14歳の時、ひらめいた言葉です。英語で書いていたら『分かりやすいな、この人』と思われてしまうので、フランス語にして僕なりに一ひねり加えたつもりです。格好付けた言葉ですよね。許してください」と恥ずかしがる。
「でも、当時の感性を、素直な気持ちを僕は大事にして忘れたくない。だから、あえて残しているんです。演じることが好きなんです。常に答えがないから」。こう語り、真っすぐ私を見つめる目には力があった。【広瀬登】
http://mainichi.jp/shimen/news/m20141117dde012200003000c.html