朝日新聞 2016年6月15日15時44分 広部憲太郎

完成間近のiPad用電子書籍を持つ山本命さん=三重県松阪市小野江町
北海道の名付け親として知られる幕末~明治期の探検家、松浦武四郎(1818~88年)は、優れたジャーナリストでもあった。生まれ故郷の三重県松阪市(旧三雲町)にある松浦武四郎記念館には、「記者」の原点とも呼べる史料が所蔵されている。
中でも記念館の学芸員、山本命(めい)さん(40)が「告発の書」と評するのが「近世蝦夷(えぞ)人物誌」だ。江戸末期、幕府の依頼で蝦夷地を歩き回る中で、支配していた松前藩によるアイヌ民族への弾圧を見聞きした。
《アイヌ民族に男女問わず強制労働をさせ、病気になっても手当せず、言うことを聞かない者は縄で縛りせっかんし、梅毒をうつされる女性もおり、妊娠すれば堕胎させ、二度と子どもを産めない体になる女性も多い……。》
報道写真が皆無だった時代に、自作の絵まで使った「人物誌」の描写は克明だ。だが、藩に命を狙われてまで完成させた本は、幕府の圧力で封印され、刊行されたのは没後の1912(明治45)年だった。「命を狙われながら、現代人でもここまで筆を取れるだろうか」と山本さん。
そんな武四郎の信念を広く伝えようと、山本さんは地元の市立三雲中学校の全面協力で、昨夏からiPad用の電子書籍を制作中だ。同校は全生徒にiPadを貸し出すIT教育校として有名だ。今秋から総合学習での活用を目指す。山本さんは「中学生は勉強や部活で忙しく、記念館に来る機会はどうしても減る。時代にあった学びの入り口を作りたかった」と言う。
電子書籍は40ページほど。記念館ホームページに載っている武四郎の生涯や功績を元に、端末をタッチして解答するクイズを折りまぜるなどゲーム性も重視した。英文も載せて、海外への発信も視野に入れる。
技術面で支える同校教諭の楠本誠さん(44)は「iPadさえ持てば、生徒のそばには記念館がある。移動時間にiPadをぱっと見て、関心が持てるアイテムにしたい」。公開後も内容を何度も更新できるのが、電子書籍の利点。動画を流したり、スゴロクなどを取り入れたり、楠本さんの構想は広がる。
IT教育で先端を走る楠本さんも武四郎にあこがれる。「飛行機もない限られた環境のもとで、広く日本中を歩いて多くの人たちと会い、アイヌ民族の人間性を大切にした。創造力を持って前に進む姿勢は見習いたいし、生徒に伝えたい」(広部憲太郎)
http://digital.asahi.com/articles/ASJ653T3VJ65ONFB00B.html?_requesturl=articles%2FASJ653T3VJ65ONFB00B.html&rm=322

完成間近のiPad用電子書籍を持つ山本命さん=三重県松阪市小野江町
北海道の名付け親として知られる幕末~明治期の探検家、松浦武四郎(1818~88年)は、優れたジャーナリストでもあった。生まれ故郷の三重県松阪市(旧三雲町)にある松浦武四郎記念館には、「記者」の原点とも呼べる史料が所蔵されている。
中でも記念館の学芸員、山本命(めい)さん(40)が「告発の書」と評するのが「近世蝦夷(えぞ)人物誌」だ。江戸末期、幕府の依頼で蝦夷地を歩き回る中で、支配していた松前藩によるアイヌ民族への弾圧を見聞きした。
《アイヌ民族に男女問わず強制労働をさせ、病気になっても手当せず、言うことを聞かない者は縄で縛りせっかんし、梅毒をうつされる女性もおり、妊娠すれば堕胎させ、二度と子どもを産めない体になる女性も多い……。》
報道写真が皆無だった時代に、自作の絵まで使った「人物誌」の描写は克明だ。だが、藩に命を狙われてまで完成させた本は、幕府の圧力で封印され、刊行されたのは没後の1912(明治45)年だった。「命を狙われながら、現代人でもここまで筆を取れるだろうか」と山本さん。
そんな武四郎の信念を広く伝えようと、山本さんは地元の市立三雲中学校の全面協力で、昨夏からiPad用の電子書籍を制作中だ。同校は全生徒にiPadを貸し出すIT教育校として有名だ。今秋から総合学習での活用を目指す。山本さんは「中学生は勉強や部活で忙しく、記念館に来る機会はどうしても減る。時代にあった学びの入り口を作りたかった」と言う。
電子書籍は40ページほど。記念館ホームページに載っている武四郎の生涯や功績を元に、端末をタッチして解答するクイズを折りまぜるなどゲーム性も重視した。英文も載せて、海外への発信も視野に入れる。
技術面で支える同校教諭の楠本誠さん(44)は「iPadさえ持てば、生徒のそばには記念館がある。移動時間にiPadをぱっと見て、関心が持てるアイテムにしたい」。公開後も内容を何度も更新できるのが、電子書籍の利点。動画を流したり、スゴロクなどを取り入れたり、楠本さんの構想は広がる。
IT教育で先端を走る楠本さんも武四郎にあこがれる。「飛行機もない限られた環境のもとで、広く日本中を歩いて多くの人たちと会い、アイヌ民族の人間性を大切にした。創造力を持って前に進む姿勢は見習いたいし、生徒に伝えたい」(広部憲太郎)
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