毎日新聞2016年6月4日 東京朝刊
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/5e/70/66192035e1a809d88ec1c571b1c12fc3_s.jpg)
ケイコ・フジモリ氏に法廷で浴びせられた言葉を思い出し、涙を流すグラディス・ルビナさん=朴鐘珠撮影
リマ中心部で5月31日、大統領選決選投票に向けケイコ・フジモリ氏(41)に反対する大規模集会があった。幅広い年齢層から3万人以上が集結した。
「フジモリ家の復権を認めるわけにはいかない」。急進左派のメンドサ国会議員(35)が群衆に訴えた。フジモリ氏の対抗馬として注目された女性議員で、第1回投票は3位で落選。決選投票では、政治思想が相いれない中道右派クチンスキ元首相(77)を支持すると改めて表明した。
政党の垣根を越え反フジモリ派が連帯していることは、父アルベルト・フジモリ元大統領(77)による強権政治の「負」のイメージが今も根強いことを示す。フジモリ氏は「選挙に出るのは父ではなく、私だ」と距離を置く発言をしている。だが、元大統領の内閣で農相だった人物を自身の副大統領候補にしているだけでなく、当選すれば父の他の側近を入閣させる可能性も否定していない。
フジモリ氏の当選を最も恐れるのが、元大統領による数々の人権弾圧の被害者たちだ。
リマ市バリオスアルトス地区で1991年、民家に突入した軍特殊部隊が左翼ゲリラのテロリストと間違え15人を無差別に射殺した。悪名高い「バリオスアルトス事件」だ。元大統領は部隊を指揮したなどとして、禁錮25年の刑に服している。
事件で当時18歳の妹を殺されたグラディス・ルビナさん(48)によると8年前、元大統領が被告席に座る法廷で、傍聴席のフジモリ氏は遺族たちに言い放ったという。「あなたたちをゴキブリのように踏みつぶしてやる」
裁判でフジモリ家の名が汚されたと思ったのか、後継者として国会議員になっていたフジモリ氏はいらだっていたようだった。ルビナさんは記憶をたどりながら、声を震わせた。「選挙で見せる笑顔は別人です。法廷で見せたあの顔、恐ろしくて。大統領になったらどうなるのか」
元大統領を起訴した検事のアベリノ・ギジェン氏(62)も同調する。元大統領の政権下では軍、国会、官公庁、司法機関、報道機関のいずれもが汚職にまみれ機能不全だったという。「人権弾圧と汚職がはびこる時代に後戻りしていいのか。我々は分岐点にいる」
元大統領による人権弾圧のもう一つの例とされるのが、貧困対策として当時の政権が奨励した不妊手術だ。先住民族と貧困層を中心に30万人以上の男女が手術を受けたが、このうち少なくとも2000人が「同意なしに手術を強制された」と名乗り出ている。
ビクトリア・ビゴさん(55)もその一人。96年に公立病院で3人目の子を帝王切開で産んだ際、知らぬ間に卵管を結紮(けっさつ)された。二度と子をつくれない体になっていた。
強制不妊を巡っては誰一人、刑事責任を負っていない。リマの検察庁の前で毎週火曜日、捜査を求めるデモがある。ビゴさんも参加しているが、「ケイコが大統領になったら、捜査が進む可能性はなくなる」と悲観する。
検察庁は捜査を開始するかの判断を5月中に出すはずだった。だが、その時期は最近、決選投票後まで延期された。「親フジモリ派の圧力がかかった政治腐敗のにおいがする」。デモを主催する人権団体幹部の女性弁護士が唇をかんだ。【リマ朴鐘珠】
http://mainichi.jp/articles/20160604/ddm/007/030/094000c
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ケイコ・フジモリ氏に法廷で浴びせられた言葉を思い出し、涙を流すグラディス・ルビナさん=朴鐘珠撮影
リマ中心部で5月31日、大統領選決選投票に向けケイコ・フジモリ氏(41)に反対する大規模集会があった。幅広い年齢層から3万人以上が集結した。
「フジモリ家の復権を認めるわけにはいかない」。急進左派のメンドサ国会議員(35)が群衆に訴えた。フジモリ氏の対抗馬として注目された女性議員で、第1回投票は3位で落選。決選投票では、政治思想が相いれない中道右派クチンスキ元首相(77)を支持すると改めて表明した。
政党の垣根を越え反フジモリ派が連帯していることは、父アルベルト・フジモリ元大統領(77)による強権政治の「負」のイメージが今も根強いことを示す。フジモリ氏は「選挙に出るのは父ではなく、私だ」と距離を置く発言をしている。だが、元大統領の内閣で農相だった人物を自身の副大統領候補にしているだけでなく、当選すれば父の他の側近を入閣させる可能性も否定していない。
フジモリ氏の当選を最も恐れるのが、元大統領による数々の人権弾圧の被害者たちだ。
リマ市バリオスアルトス地区で1991年、民家に突入した軍特殊部隊が左翼ゲリラのテロリストと間違え15人を無差別に射殺した。悪名高い「バリオスアルトス事件」だ。元大統領は部隊を指揮したなどとして、禁錮25年の刑に服している。
事件で当時18歳の妹を殺されたグラディス・ルビナさん(48)によると8年前、元大統領が被告席に座る法廷で、傍聴席のフジモリ氏は遺族たちに言い放ったという。「あなたたちをゴキブリのように踏みつぶしてやる」
裁判でフジモリ家の名が汚されたと思ったのか、後継者として国会議員になっていたフジモリ氏はいらだっていたようだった。ルビナさんは記憶をたどりながら、声を震わせた。「選挙で見せる笑顔は別人です。法廷で見せたあの顔、恐ろしくて。大統領になったらどうなるのか」
元大統領を起訴した検事のアベリノ・ギジェン氏(62)も同調する。元大統領の政権下では軍、国会、官公庁、司法機関、報道機関のいずれもが汚職にまみれ機能不全だったという。「人権弾圧と汚職がはびこる時代に後戻りしていいのか。我々は分岐点にいる」
元大統領による人権弾圧のもう一つの例とされるのが、貧困対策として当時の政権が奨励した不妊手術だ。先住民族と貧困層を中心に30万人以上の男女が手術を受けたが、このうち少なくとも2000人が「同意なしに手術を強制された」と名乗り出ている。
ビクトリア・ビゴさん(55)もその一人。96年に公立病院で3人目の子を帝王切開で産んだ際、知らぬ間に卵管を結紮(けっさつ)された。二度と子をつくれない体になっていた。
強制不妊を巡っては誰一人、刑事責任を負っていない。リマの検察庁の前で毎週火曜日、捜査を求めるデモがある。ビゴさんも参加しているが、「ケイコが大統領になったら、捜査が進む可能性はなくなる」と悲観する。
検察庁は捜査を開始するかの判断を5月中に出すはずだった。だが、その時期は最近、決選投票後まで延期された。「親フジモリ派の圧力がかかった政治腐敗のにおいがする」。デモを主催する人権団体幹部の女性弁護士が唇をかんだ。【リマ朴鐘珠】
http://mainichi.jp/articles/20160604/ddm/007/030/094000c