北海道新聞 03/12 11:00
北海道博物館で昨年開かれた特別展「アイヌ語地名と北海道」の図録。稚内市内の岬(左側)は「ノツシヤム岬」「ノッシャプ岬」「野寒布岬」と表現が変わっていった
新元号「令和」の典拠となったことで昨年、万葉集に注目が集まりました。掲載されている和歌は、実はすべて漢字を使って書かれています。例えば「梅の花」は「烏梅能波奈(うめのはな)」。中国で生まれた漢字の音だけを使用して、表記しているのです。
同じように、ある言語の音を借りる手法は道内の地名にも用いられています。北海道地図が作られ始めたころ、大半の地名はアイヌ民族から聞き取ったアイヌ語で、表記はカタカナでした。北海道博物館(札幌市厚別区)学芸員の山田伸一さんは「開拓使や道庁によって地名が整理される中で、徐々に漢字で表記されるようになっていった」と説明します。
その過程で、アイヌ語が持つ意味はどんどん失われていきました。例えば、三笠市の「奔別(ぽんべつ)」。アイヌ語では「ポン=小さな」「ペッ=川」という意味です。しかし、ペッに「別」の字を当てたことで、川の意味は分からなくなってしまいました。アイヌ語の漢字化政策について、山田さんは「アイヌ語地名を排除しようという色彩が非常に強かった」と指摘します。
一方、沖縄の地名には、当地独特の読み方が今も残っています。沖縄では「聖域」や「城塞(じょうさい)」を「ぐすく」といい、豊見城市は「とみしろし」ではなく「とみぐすくし」と読みます。道内の地名とは対照的に、読み方と意味がしっかり合致しています。
4月24日には、胆振管内白老町にアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開業する予定です。会場に足を運んだら、道内の地名が持つ意味を考えてみるのもいいかもしれません。(松浦章子)
◇
「ことばの森へようこそ」は、言葉や数字、表現などを題材に校閲部員が執筆するコラムです。新聞表記の方法から、表現の変遷や歴史、言葉が社会に与える影響まで、さまざまな話題を取り上げていきます。原則として毎月第2、第4木曜日に更新します。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/400638
北海道博物館で昨年開かれた特別展「アイヌ語地名と北海道」の図録。稚内市内の岬(左側)は「ノツシヤム岬」「ノッシャプ岬」「野寒布岬」と表現が変わっていった
新元号「令和」の典拠となったことで昨年、万葉集に注目が集まりました。掲載されている和歌は、実はすべて漢字を使って書かれています。例えば「梅の花」は「烏梅能波奈(うめのはな)」。中国で生まれた漢字の音だけを使用して、表記しているのです。
同じように、ある言語の音を借りる手法は道内の地名にも用いられています。北海道地図が作られ始めたころ、大半の地名はアイヌ民族から聞き取ったアイヌ語で、表記はカタカナでした。北海道博物館(札幌市厚別区)学芸員の山田伸一さんは「開拓使や道庁によって地名が整理される中で、徐々に漢字で表記されるようになっていった」と説明します。
その過程で、アイヌ語が持つ意味はどんどん失われていきました。例えば、三笠市の「奔別(ぽんべつ)」。アイヌ語では「ポン=小さな」「ペッ=川」という意味です。しかし、ペッに「別」の字を当てたことで、川の意味は分からなくなってしまいました。アイヌ語の漢字化政策について、山田さんは「アイヌ語地名を排除しようという色彩が非常に強かった」と指摘します。
一方、沖縄の地名には、当地独特の読み方が今も残っています。沖縄では「聖域」や「城塞(じょうさい)」を「ぐすく」といい、豊見城市は「とみしろし」ではなく「とみぐすくし」と読みます。道内の地名とは対照的に、読み方と意味がしっかり合致しています。
4月24日には、胆振管内白老町にアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開業する予定です。会場に足を運んだら、道内の地名が持つ意味を考えてみるのもいいかもしれません。(松浦章子)
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「ことばの森へようこそ」は、言葉や数字、表現などを題材に校閲部員が執筆するコラムです。新聞表記の方法から、表現の変遷や歴史、言葉が社会に与える影響まで、さまざまな話題を取り上げていきます。原則として毎月第2、第4木曜日に更新します。
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