SBS 2020/11/17
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オーストラリア北部で2万人以上の人々が話す新しい先住民族言語、クリオール語。その話者数は増加の一途をたどっています。
ノーザン・テリトリーの人里離れたアボリジニの町、ノーコー(Ngukurr)では、この地で使われていた7つの伝統的な言語は現在ほとんど使われなくなったといいます。
これはノーコーだけに限られた現象ではなく、かつてオーストラリア全土で話されていたアーネムランドの何百ものコミュニティ言語が、植民地化によって絶滅の危機に瀕しています。しかし、入植者や宣教師がかつて想像したように、これらの地域の言語が英語に移行したのではなく、新たな言語が、いま、先住民族の家庭や遊び場などで主に使用されているのです。
ノーコーに暮らす1150人の住民のほぼ全員がクリオール語を流暢に話します。クリオール語とは、植民地化によって生まれた新しい先住民族の言語に分類され、オーストラリア北部で使用されているクリオール語は、英語とアボリジニの言葉をただ混ぜたものではなく、独自の語彙、発音、そして文法ルールもあるため、英語を話す人には理解できません。
たとえば、"my brother found Molly in the bush"は"main braja bin faindim Moli jeya la bush"と訳されます。
8月に発表された全国先住民言語報告書によると、北部でクリオール語を話す先住民は推定2万人で、その数は増え続けているようです。
その理由は簡単である、とノーコーのクリオール翻訳者であるグレンダ・ロバートソンさんは言います。
「私たちが話したいように、適切に流暢に話せる唯一の言語だからこそ、成長してきたのです」。
クリオール語がノーザン・テリトリーに広まっているのにもかかわらず、その何千人もの話者のうち、適切な読み書きをできる人はほとんどいないそうです。しかしロバートソンさんは、この状況を変えようとする新しい組織の一員です。
昨年設立された『Meigim Kriol Strongbala(クリオール語を強くしよう)』は、クリオール語の識字率を高め、クリオール語への誇りを築くことを目的とした団体です。
2007年に完成したクリオール語の聖書翻訳に携わった母親のキャロル・ロバートソンさんと言語学者のグレッグ・ディクソン博士とともに、人気のある児童書『Too Many Cheeky Dogs』のクリオール語版『Bigismob Jigiwan Dog』を制作しました。
『Bigismob Jigiwan Dog』は今年の初めにアレン・アンド・アンウィン社から出版され、大手出版社が出した最初のクリオール語の本だと考えられています。
ジョアンナ・ベルさんによって書かれ、キャサリンのアーティスト、ディオン・ビーズリーさんによって描かれた本は、 "おばさんの家"、学校やオーバルを訪問して町を彷徨っている野良犬の物語です。
クリオール語の正統性を賭けた戦い
『Bigismob Jigiwan Dog』の出版は、貴重な教育資源を提供するだけでなく、正統性を訴えてきた比較的新しい言語の後押しともなっています。
「それは英語のものとまったく同じように翻訳されており、本棚に並ぶすべての本と同じように良いのです。学校の子どもたちがそれを実際に見ることができるのは素晴らしいことです」とディクソン博士はSBSニュースに語りました。
10月に開催された「NTライターズ・フェスティバル」で、グレンダ・ロバートソンさんは、この出版物がこれほど大きな反響を呼ぶとは思ってもいなかったと観客に語りました。
「翻訳しても、特に何の役にも立たず、ただ置いておくだけ、と思っていました。まさか本の発表会をして、みなさんの前で話すことになるとは思ってもいませんでした」
Meigam Kriol Strongbalaで働く、娘のシャニア・ミラーさんは、クリオール語は伝統的な言語に比べると、人々の心の中では威信がないかもしれませんが、彼女はそれを誇りに思っていると語ります。
「若い世代にとって、クリオール語は、私たちが流暢に知っている唯一の言語です。元々の7つの言語ではなく、私たちのオリジナル言語ですが、学校のコミュニティにクリオール語を紹介することは非常に重要です」
「私が最初に話した言語なので、私のアイデンティティの大きな部分を占めています」 ー シャニア・ミラーさん
しかし、言語の歴史が浅い上、残忍な植民地化の歴史が背景にあるがゆえに、誰もがこの新しい言語を誇りに思っているわけではありません。
オーストラリア北部のクリオール語の誕生は、1909年に設立されたローパー・リバー・ミッション(現在のノーコー)にまでさかのぼります。両親から引き離されたアボリジニの子供たちは、ピジン語の英語を使ってお互いにコミュニケーションをとる方法を開発しました。
次の世紀になるとクリオール語は、西オーストラリア州のキンバリーからノーザンテリトリーとクイーンズランドの州境まで、オーストラリア北部全域に広がり、複雑になっていきました。コミュニティでは異なる方言が話されており、また他の言語と同様に、若い世代は言葉を短くする傾向があるため、時間の経過とともに進化してきました。
資金をめぐる混乱
1950年代には、クリオール語を正式な言語として認めてもらうための戦いに言語学者が勝利しています。しかし、クリオール語を話す人々の多くは、伝統的な言語に比べて、クリオール語は二流言語であり、文化的にも重要ではないと考えているようで、クリオール語の普及が原語の衰退を加速させたひとつの理由であると非難する人もいます。
しかし、全国先住民言語報告書では、新しい言語の成長が伝統的な言語の使用に影響を与えているかどうかは不明であるとしています。
ディクソン博士は、クリオール語を受け入れることに抵抗があることを理解しており、特に年長者が伝統的な言語を話している地域では、それらを保護し、復活させるための言語センターの活動を強く支持していると述べています。
その一方で、クリオール語は、オーストラリア北部の豊かな言語構造の中で重要な役割を果たしていることからも、評価されるべきであるとも彼は言います。
クリオール語のこの現状は、「Meigim Kriol Strongbala」 が連邦政府の先住民言語・芸術プログラムの資金提供を受けることができないという「混乱した」状況を生み出しているようです。
ディクソン博士は、連邦政府からの別の資金をコントロールできる地元のコミュニティが、クリオール語を使うことに価値を見出してくれたのは幸運だったと言います。
「その理由の一つは、学校の出席率が非常に低く、地域社会が学校にあまり関与していないことを見て、クリオール語がその価値を高める良い方法であると考えたからです」
クリオール語を含む先住民族の言語は、数十年に渡る教育政策による制限に苦しんできました。ノーザンテリトリーでは、教師が1日の最初の5時間のうちの4時間を、英語のみ使用することを、3年以上、2012年まで義務付けていました。
現在、ノーコーの子供たちは、母国語を使い、読み書きを学ぶことを奨励されています。
「Meigim Kriol Strongbala」は、活動わずか1年目にして、地元の学校で週に数回のセッションを実施し始めており、クリオール語のアルファベットチャートの作成やさまざまな児童書の翻訳などを行っています。
シャニア・ミラーさんは、大手による『Jigiwan Bigismob Dog 』の出版が、コミュニティのより多くの人を自分の物語を書くよう、インスパイアすることを望んでいます。
「もっと多くの物語が書かれるようになれば、このようなコミュニティでの生活がどのようなものかを知ることができるでしょう」
彼女は、オーストラリアの先住民以外の人たち、特に先住民のコミュニティを訪れたり、働いたりしている人たちにもクリオール語を使ってみてほしいと呼びかけています。
「先住民以外の人たちが来ると、いつも『私たち』と『彼ら』という考え方になってしまいます...彼らには私たちの文化を受け入れてもらい、私たちも同じようにして、仲良くしたいです」
ナショナルNAIDOCウィーク(2020年11月8日~15日)では、アボリジニとトレス海峡諸島の人々の歴史、文化、功績を称えています。
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