時事通信 2025年02月14日14時00分
企業のキーパーソンに「マンガ愛」を聞く連載企画「働く私の推しマンガ」。第14回は、カシオ計算機専務の樫尾隆司さん(54)です。
【お気に入りの3作品】
1、「ゴールデンカムイ」(野田サトル/集英社)
2、「正直不動産」(原案:夏原武、作画:大谷アキラ、脚本:水野光博/小学館)
3、「ブラック・ジャック」(手塚治虫/秋田書店)
「ゴールデンカムイ」とは
日露戦争後の北海道で繰り広げられる金塊争奪戦を描いた作品です。キャラクターの個性がとてもよく立っていて、そこにひかれました。「不死身」の異名を持つ元日本兵の主人公、杉元佐一はアイヌの少女アシ リ パと組んで金塊の行方を追います。彼らはもちろん、ライバルの鶴見中尉や新撰組の生き残り、土方歳三も魅力的です。
―作品を好きになったきっかけは?
私は20年以上前に、米国に駐在していました。そこで人種やジェンダー、宗教などの違いに対する考え方が、日本とは大きく異なっていることを実感しました。米国の職場では、多様なルーツやバックグラウンドを持つ人々が協力して働いていて、非常に刺激を受けたんです。アシ リ パさんと杉元、さまざまな面で異なる2人が、協力して金塊を目指すストーリーと出会った時、駐在時代の経験が思い出されました。
―どの辺りに共感を?
登場人物たちはそれぞれチームを作って、金塊へのヒントとなる脱獄囚を探します。しかし、金塊は単なる通過点で、その先にはおのおのの本質的な目標、パーパス(存在意義)があるわけです。例えば、アシ リ パさんにはアイヌの土地を守るという強い思いがあります。土方や鶴見のグループにもそれぞれの目指すものがあって、それらがパーパスになります。パーパスはさまざまなルーツやバックグラウンドを持つ人たちが前進するために不可欠なものです。
カシオ計算機は、創業者の樫尾4兄弟がマネジメントしていた時代、非常に強い理念を持った集団でした。しかし、彼らが一線を退いてから10年ほど経ち、それが薄れてしまっていた部分があり、昨年、パーパスを策定して、われわれの進むべき道をもう一度導き出すことを始めました。同じ気持ちの仲間を集めやすくもなりますしね。
―イチ押しの登場人物やせりふがありますか?
マタギの軍人、谷垣が好きです。彼の魅力はいちずなところにあると思います。助けてくれたアイヌへの恩義を忘れない、情に厚い男です。土方一派の脱獄囚、牛山は非常に剛力な人で、終盤の大活躍には本当に感動しました。
せりふでは、単行本のカバーの袖に記されているアイヌの格言「カント オ ロ ワ ヤク サ ク ノ アランケ プ シネ プ カ イサ ム」です。「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という意味ですが、まさに物語の根底に流れる本質的な価値観だと思います。命あるもの、全てに生きる意味、存在意義がある。大好きな言葉です。
「正直不動産」と「ブラック・ジャック」
「正直不動産」は「たたり」によってうそがつけなくなった不動産営業マンの話です。たたりを逆手にとって、正直すぎる営業トークで顧客の信頼を勝ち取るストーリーが爽快です。利益第一主義だった主人公が、お客さまとの信頼関係の大切さを学ぶ姿を通じて、仕事とはなんぞやと考えさせられました。
「ブラック・ジャック」は闇医者が人の命を救う名作です。貧しく、恵まれない人も助ける主人公の生き方に、正義を感じます。
今のお仕事
コーポレートコミュニケーションという部門にいます。企業広告、Web制作、広報など企業ブランディングにつながる発信やコミュニケーション全般を担当しています。
昨年は当部門が中心となって、「驚きを身近にする力で、ひとりひとりに今日を超える歓びを。」というパーパスを策定しました。今後は社内に浸透させることに注力していきたいです。