はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

生きてますよー

2007-10-02 23:14:38 | 女の気持ち/男の気持ち
 毎日新聞の「みんなの広場」で、他人からおばあちゃんと呼ばれ不快だったとの投書を読んだ。思わず笑ってしまったが、確かに孫からは「おばあちゃん」でも、他人からは言われたくない。同じ言葉でも意味が違う。
 子のない私たちは、当然のことだが爺、婆と言われたことがない。孫もどきの甥の子供たちも、甥夫婦と同じく「伯父さん、伯母さん」と言う。近所の子供たちには「うえにっちゃん」「おじちゃん」と呼ばれている。したがって、いつも若々しい気分になれてうれしい。
 ところが1人だけ、私を「ばあちゃん」と呼ぶ人がいた。ご近所T家のお姑さんである。
 会えば、「ばあちゃん、元気してたあ」と声をかけてくれる。当初はびっくりした。が、ご自分がお孫さんからそう呼ばれるから自然体で同世代の私にそう言うのだと、あきらめた。
 ゴミ出しの日の朝、私は台所で洗い物、夫は外回りを掃いていた。そこへ通りかかったお姑さんの声。
 「もうだいぶばあちゃんと会わんけど、元気かねえ」
 「あ、ばあちゃんねえ……死にました」
 私のこととは思わず、先ごろ逝った母と勘違いした夫にうれしくなり、飛び出して叫んだ。
 「わたし、生きてますよー」
   北九州市 上西愛子(77) 2007/10/2 
   毎日新聞鹿児島版「女の気持ち」掲載

歌声に抱かれて

2007-10-02 22:58:19 | はがき随筆
 夫が逝ってから一層、不眠症に悩まされてきた私だが、最近、石原裕次郎のCDを聞きながらだと、いつしか眠りに落ちることを発見した。というのも、夫の声と裕次郎の声が似ているのだ。夫はいい声の持ち主であった。お見合いの時に、その声にひかれたような気がする。よく響くすがすがしいこえだった。裕次郎と共にあった私たちの青春。夫とよく「夕陽の丘」を歌った。その時には、裕次郎の声と似ているなど思いもしなかった。だが今、夫だか裕次郎だか分かちがたい声に抱かれて恍惚となって眠りに入ってゆく。
   霧島市 秋峯いくよ(67) 2007/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載