はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

川の流れと共に

2007-10-07 18:46:27 | はがき随筆
 畑でいぶかしそそうに女性が私を見ている。「こんにちは。川ん写真撮いげ来ました」と話すと、安心してくわの手を休めた彼女は橋の名を教えてくださった。「元気そうで、よか顔色ですね。失礼ですが何歳ですか?」と聞くと「82にないもした。今、水害はなかんが、前ん湯之元じゃ大雨んとき、水ぃ浸かっ大変じゃした。いっまっ生きらるっか分からんが、畑作いをしっ、川でん眺めっ暮らしもそ」と語られる。私はキュンとなり「心配じゃしたな。いっまででん、長生きしゃんせ」と言葉が出た。川と共に生きた人生と、土の香りが、彼女から漂っていた。
   出水市 小村 忍(64) 2007/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載

母の味

2007-10-07 14:36:47 | はがき随筆
 子供のころの懐かしい味は、やはり母の手作りのみそ汁だ。9月中旬、風が涼しくなったら1週間にわたるみそ作りのはじまり。蒸した麦と麹を混ぜ、木箱いっぱいに広げ発酵させる。3日ほどすると独特の甘い香りが部屋いっぱい漂ってくる。発酵が進むと表面が真っ白になり、麹の花がつく。この花次第で味が決まるため、母は夜中も起きて布団をかける。最後は大豆をつぶし、塩と混ぜてできあがる。
 「みそが良くできました」と氏神様に合掌する母。小さな手で母と一緒に拝むわたし。あの懐かしい味にもう一度会いたい。
   出水市 橋口礼子(73) 2007/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載