はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

稲穂実るころ

2007-10-22 07:20:16 | はがき随筆
 稲穂が黄金色になると小柄で丸顔の中学生だった誠を思い出す。「こん頃(ごろ)んガネ(かに)ん味が一番良かど!」と目を細めて話をした。兄弟が多く貧しい家の誠は、ゴミ捨て場にあった子供用自転車を立派に解体修理して乗っている。山太郎ガネも彼の生活の一部なのだ。「じゃっどんガネテゴん餌がなか」と言う。学校下にあるAコープのTさんを思い出して誠を連れていった。「こん子が来たら魚の内臓を分けてくれん?」。朝寝坊の誠が早起きになる時がきた。夕方ガネテゴを仕掛けて早朝引き上げるのだ。時に教室のバケツの底に鈍く光るガネたちがいた。
   出水市 中島征士(62) 2007/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載