コレステロールを下げるため、1カ月前から歩数計をつけて散歩を始めた。ルートはその日の気分でいろいろ変わる。ある日、丘の上の団地を越えて我が家と反対側に下り、岩徳線の西岩国駅の方に向かって歩いた。
駅近くの踏切を渡っていると、すぐそばに転轍機があった。モーターを遠隔操作して、列車の進行方向を右に左に変える装置である。立ち止まって眺めると、プラットホームを挟むように線路が転轍機の所で二つに分岐している。
自然に自分の来し方に思いが至った。私の人生にも人並みに何度か岐路があった。生まれこそ選べなかったが、受験校の選択、専攻する学部学科、就職先、結婚相手。この辺りまでは自分の意志で決めることができた。
でもその後は、ほとんどが他力で決まったように思う。自分の意志とは関係なく職場が替わり、転勤をくり返した長いサラリーマン生活。そして定年退職を迎えた。
今は、どちらに進むか迷うほどの人生の大きな岐路に立つこともない。転轍機のないぺんぺん草の生えた廃線を、ゆっくりと歩いているような毎日である。それが妙に心地よい。
ところでこの日の散歩、確かに岐路はなかったが、果たして何㌔歩いたことやら……。
山口県岩国市 工房主宰 沖 義照(65歳)
2008/1/6 毎日新聞鹿児島版「男の気持ち」欄掲載
写真エッセイ&工房「木馬」
駅近くの踏切を渡っていると、すぐそばに転轍機があった。モーターを遠隔操作して、列車の進行方向を右に左に変える装置である。立ち止まって眺めると、プラットホームを挟むように線路が転轍機の所で二つに分岐している。
自然に自分の来し方に思いが至った。私の人生にも人並みに何度か岐路があった。生まれこそ選べなかったが、受験校の選択、専攻する学部学科、就職先、結婚相手。この辺りまでは自分の意志で決めることができた。
でもその後は、ほとんどが他力で決まったように思う。自分の意志とは関係なく職場が替わり、転勤をくり返した長いサラリーマン生活。そして定年退職を迎えた。
今は、どちらに進むか迷うほどの人生の大きな岐路に立つこともない。転轍機のないぺんぺん草の生えた廃線を、ゆっくりと歩いているような毎日である。それが妙に心地よい。
ところでこの日の散歩、確かに岐路はなかったが、果たして何㌔歩いたことやら……。
山口県岩国市 工房主宰 沖 義照(65歳)
2008/1/6 毎日新聞鹿児島版「男の気持ち」欄掲載
写真エッセイ&工房「木馬」