はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

涼との同体

2008-08-23 07:26:37 | はがき随筆
夏の特集(下)-4
 以前、県立出水養護学校に勤務した時「分け隔てなく息をしている」ことに気付いた。
そして、互助互愛の精神で日々の生活を営んでいることにも気付いた。一つの学びであった。
 今、古稀である。生かされていることに感謝の念を深く持ち続けることの大切さを知る。また、学び続けることによって小さなことへの実践ができる。「涼」のさわやかさを感じ取れる。涼の言葉のあやは、一所懸命働かせることのできる心の感興である。そう思うと、詩や随筆の創作が生き生きとしてくる感がある。涼との同体、今日もますますという日である。
   出水市 岩田昭治(68) 2008/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

涼を得た書道展

2008-08-23 07:19:01 | はがき随筆
夏の特集(下)-3
 黎明館を囲む木から、暑さをあおるようにセミ時雨が降る。
 館内はクーラーがほどよく効いていて、人心地がつく。目当ては毎日現代書道巡回展。鹿児島では初めての開催なので、楽しみで胸が躍る。会場は書道展特有の厳粛な空気が漂い、鑑賞する人たちの目が輝く。
 M氏の芸術書「雲」に見とれていると、年配の女性が「あなたも気に入りましたか」と話しかけてきた。「ハイ。雲を薄墨でにじませ、ふんわりと流す構成がすごいですね」と私。展示された244の練達の作品は私の心を洗い、暑さを吹き飛ばす涼風になった。
   出水市 清田文雄(69) 2008/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

追憶

2008-08-23 07:11:28 | はがき随筆
夏の特集(下)-2
 中学時代の夏のひとこま。縁先の竹すだれと風鈴の澄んだ音色にひとときの「涼」を求めて、家族と語り明かした懐かしい思い出がある。
 夏草が伸び、ぽっぽっと白や黄色のかれんな花たちが月明かりに照らされて、荒れ気味の庭もそれなりの風情があった。
 数十年の時を経て、生まれ育った地域の家並みも生家も昔の名残はうせ、今風に様変わりした情景は、うれしくもあり一抹の寂しさもあった。
 遠い日、縁先のすだれと風鈴の音色に心身を癒された心の豊かさと、亡き父母を恋うる。
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2008/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

怨霊

2008-08-23 07:03:58 | はがき随筆
夏の特集(下)-1
 父の通夜の晩のこと。私は一人ぼんやりとした明かりの中で居間にいた。ガラス越しの廊下に目をやると誰か立っている。私は「どうぞ」と戸を開け、お茶でもと台所に立つ。戻ると誰もいない。湯飲みを持ったまま背筋が寒くなった。頑健だった父も後半は複数の病を患い、母が献身的に支えた。私は弟夫婦に任せきりで、みることを余りしなかった。何度かの入院、衰弱していく父。電話が鳴る度に心配していたが、別れは突然きた。母に言葉も残さずに。ただ、一人娘の私には「会いたい」と口癖のように言っていたという。あれは父の怨霊か……。
   出水市 伊尻清子(58) 2008/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載