はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

コラボレーション

2011-11-09 14:59:31 | はがき随筆
 神社から見える景色はすっかり晩秋の景色に変わっている。黄金色に輝いていた稲穂も無事に刈り取られ豊年祭を迎えた。静まり返った神社の境内が今日は華やかなステージに変わる。
 歌を奏でる長老たちと勇壮に舞う若者たちの世代を超えた見事なコラボ。その光景は静寂な森の中で一体化する。色とりどりの衣装を身につけた若者たちは豊作に感謝し震災の復興と追悼の気持を込めて棒踊りを奉納する。
 伝統は時代を超えて受け継がれる。互いに打ち合う棒の音が境内と私の心に、いっそう響き渡る。
  垂水市 宮下 康 2011/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

だから困る

2011-11-09 14:29:50 | 女の気持ち/男の気持ち


 生協のカタログにあった植物の特集。
これこれ、早春の玄関を大きな植木鉢一杯の桃色の八重咲きチューリップで飾りたい。
 注文した球根が届いたのは9月半ば。
植えるには早いので球根は保管し、
植木鉢に新しい土と肥料を入れてなじむまで置いておくことにした。
 10月になって球根を手に庭に行くと、
さらさらした土の上に、なんと、
でっかいアリジゴクの巣のようなすり鉢状の穴が無数に開いているではないか。
この大きさ、この形……。しばらく考えて出した答えは、スズメ。
このごろ朝な夕な団体でやってきてはジュクジュクさえずり合うようになった。
あんたたちがここで砂浴びをしてたってこと? 
 うーん、どうしよう。
 試しに砂を平らにならしておき、出かける度に植木鉢をみる。
毎回律儀にボコボコ穴が開いているのが楽しい。
球根に悪い、悪いと思いながら気付けばもう11月だ。
 どっちにも良い顔をしたい優柔不断な私に腹が立つ。
振り返れば、情にほだされて時期を逸することばかりしてきた。
この年まで何を学んできたのだ。
このままずるずるしていたらまともな花は咲かないぞ。
思い出すのだ、過去の数々の失敗を。
 スズメたちよお願いだ、よそにいってくれ。
ごめんね球根たち、私を許して。思いは乱れ悶々とする。
でも実をいうと、私はこんな気弱な自分が嫌いではない。
だから困る。
  北九州市 村上明季音 2011/11/9 毎日新聞の気持ち欄掲載

人生の交差

2011-11-09 14:15:51 | 女の気持ち/男の気持ち
 思いがけないはがきを受け取った。「人違いだったらごめんなさい」し書き出されたそれには、私の級友の消息が記されていた。
 差出人は私の高校の2年先輩で、この春リタイアされて北海道から故郷の阿久根市に戻ってこられたという。北海道埋蔵文化財センターに勤務されていて、そこで部下だった私の級友から私の名を聞いていた。地元の図書館に行った時、何気なく手に取った「文芸いずみ」という出水市民の文芸作品集に私の名をみつけ、もしやと思ってはがきをくださったという。
 旧友とは中学時代からのペンフレンドだ。短大2年の時、大きなリュックサックを背負って北海道を一周した際には、千歳市の彼女の家に泊めてもらった。北大の学生だった彼女に札幌の街も案内してもらった。しかし卒業後はすっかり疎遠になっていた。
 10年ほど前、息子の北大受験に同行したとき、彼女はここで学生時代を送ったのだと久しぶりに懐かしく思い出したが、もう私たちの人生が交差することはないだろうと思っていた。
 生きていれば何が起こるか分からない。生きていて良かった。ここ半年、体調不良で鬱々とした日々を送っていた私は、心底うれしかった。
 彼女は今、遺跡の発掘で大忙しという。暇な私は「返信はいらないから手紙を書かせてね」と、早速メールを送った。
  出水市 清水昌子 2011/11/8 の気持ち欄掲載