はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

やさしい眼差しで

2011-11-18 23:08:39 | はがき随筆


 5月ごろ、直径5㌢、長さ10センチほどの竹のような物をもらった。
皇帝ダリヤの根ということで節の部分を土に埋める。
そのうち肝っ玉母さんが手を広げたように、
堂々と大きくたくましい葉をつけだした。
 茎丈は大空に向かって伸びるは伸びるは、
見上げるほどに成長した。ハッと気づくと、
てっぺんに実を数個つけている。実と思ったのは、
つぼみで11月を待っていたように大輪のピンクの花が咲き出した。
頂上はしなって重たそうに見えるが、思ったより丈夫らしい。
秋風に揺れるダリヤに優しい眼差しで見守られている我が家の空である。
  霧島市 口町円子 2011/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

彼岸花

2011-11-18 23:01:48 | はがき随筆


 毎年、ある日、突然夏草の茂る庭に秋を連れてくる花。
異国の香りともの悲しさが漂うのは「ジャガタラお春」の歌のせいだろうか?
 「敗戦の秋、兄が夢半ば、まっさらの運動靴を枕辺に、十代で逝った。
野辺に咲き乱れる彼岸花を手向けた日を思いだして……」と切ながる人がいる。
 アーチを彼岸花で埋め尽くした谷あいの高校の運動会。
真っ赤な花の根元で、大きな声で甘えた耳の聞こえぬ真っ白い猫の姿がなつかしくよみがえる。
 幾つもの思い出を集めて、彼岸花がメラメラと燃えている。
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度入選

2011-11-18 22:24:20 | 受賞作品
 はがき随筆10月度入選作品が決まりました。
▽肝付町新富、鳥取部京子さん(72)の「秋を探しに」(22日)
▽同町前田、永瀬悦子さん(61)の「親指も」(7日)
▽出水市高尾野町下水流、畠中大喜さん(74)の「熟した柿の実」

──の3点です。

 今月は軽妙な味のある文章が沢山ありました。優れたものを数編紹介します。
 中種子町増田、西田光子さん(53)の「8月の思い出」(21日)は、夫婦で韓国に旅行し、映画館で言葉が分からないまま、館内の人々の笑うところで、ご主人の指示で自分たちも笑ったというおかしな内容です。
 鹿児島市魚見町、高橋誠さん(60)の「ロイド君」(7日)は、夫婦だけの生活で、「両手をついて玄関で送り迎えをしてくれる」のは、三毛猫だけだという侘びしいようなおかしいような内容で、猫の格好が彷彿と目に浮かびます。
 出水市武本、中島征士さん(66)は、中学の田植えの授業で、雨が降ると、女子学生のシャツが肌にピッタリくっつくのがまぶしかった、というのを、現在魚拓の取り方を教えていて思い出したという内容で、連想の妙ここにきわまれりという感じです。
 志布志市有明町野井倉、若宮庸成さん(72)の「千代美」(6日)は、老衰の愛猫が犬小屋で眠っているのを、愛犬が入り口で守っているという内容です。それが親子のように見えてしかたがない。
 肝付町前田、吉井三男さん(69)の「良か晩な~」(15日)は、頂き物の秋茄子の、調理法が羅列してあるだけの文章ですが、すごく豊かな晩酌付きの夕餉にみえてきます。
 次に入選作を3片紹介します。
 鳥取部京子さんの「秋を探しに」は、弟さんが姉さんの真似をして、連休は秋を探しに行った、と言ったら、みんなに笑われてしまった。同じ言葉でも、その言葉が似合わない人がいるものだという内容です。「言葉が似合わない」という表現はすばらしいですね。
 永瀬悦子さんの「親指も」は、親指を怪我して以来その不自由さに困ってしまい、母親に手助けしてもらっている。指も家族も親が有難いという内容で、肉親と手の指との対比が面白い文章にしています。
 畠中大喜さんの「熟し柿の実」は、庭に熟した柿の実がそのままの形で落ちていることがある。それを静かに拾って食べる至福の時が、読んでいる人にも感じられるような文章です。私もかつて物置の籾殻の中から熟柿を取り出した感触を思い出しました。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

孫のいたずら

2011-11-18 22:12:19 | はがき随筆
 息子の悲鳴に、走って外に出た。両手にガラスの破片をいっぱい受けて突っ立っていた。
 4歳の孫が私の部屋に鍵をかけて出てきて、外から開けられないようにしてしまい、息子が外から窓を持ち上げようとして割ってしまったのだ。
 庭や部屋に散乱したガラス片。孫は息子にしかられ、体を丸くして泣きじゃくり、そして寝入ってしまった。
 息子の腕はえぐられ、縫うほどだった。治療費とガラスの取りかえは2万円になった。
 いたずら好きの子ども心には大いに共鳴するが、時にハラハラしながら見守っている。
  薩摩川内市 馬場園征子 2011/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

分を安ず

2011-11-18 22:08:14 | はがき随筆
 人には無くて七癖のことわざの通り、各自さまざまな癖がある。
 自分にも亡き父から受け継いだ癖があると妻に指摘されて、なるほどと思う。 
 山本七平さんが日本人の癖について書かれていたが、それは己の分をわきまえており、それに安んじているとのこと。それは江戸時代には確率されていた日本人の癖というか、生きざまだそうだ。
 自分も昔、プライドも高かったが、時世と共に鼻も低くなり角がとれてきたと思う。やはり身分相応という分を安んじたからであろう。
  鹿児島市 下内幸一 2011/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

母に似て

2011-11-18 22:06:20 | はがき随筆
 靴下を履こうとして母の足に似てきたことに驚く。母の外反母趾はひどく、足の親指が内側に曲がっていた。 「変な足だね」と笑ったことがあったのに今、その変な足に似てきて亡き母を思い出した。
 母の靴は変形していた。足と同じような形に靴の革が伸びていて、そこに足がすっぽり収まった格好。それでも歩くたびに靴擦れで赤くなり痛そうだった。そんな母の思いに比べれば、私の足は幸せだ。「4E」のゆったりした靴で楽に歩けることを思いながら、母似の足をそっと撫でてみた。
  鹿児島市 竹之内美知子 2011/11/13