はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「ゆ ず」

2012-01-06 15:56:41 | 岩国エッセイサロンより


2012年1月 6日 (金)

    岩国市  会 員   山下 治子

余命を告げられた義父を病院から連れて戻り、年明けまで我が家に泊まってもらった。義父はお正月が近いから帰宅できたと思っている。その日は冬至。何よりお風呂に入りたがる義父をゆずをたっぷり入れた湯に夫が付き添って入った。「足が伸ばせてなんと気持ちいいのお」。義父宅は立派な五右衛門風呂だから足が伸ばせないのだ。ゆずの香りに気づき「気持ちいいのお」と何度も。 

 この時期、私は惜しげもなく風呂にゆずを入れる。義父が植えたゆずは鈴なり。ジャムにコショウにゆずみそ。義父からの忘れられない贈り物だ。

  (2012.01.06 毎日新聞「はがき随筆」)岩國エッセイサロンより転載

市民クリスマス

2012-01-06 15:34:07 | はがき随筆






 先頃開催された「西之表市民クリスマス」。イルミネーション点灯に「オーッ」と歓声が沸く。ホールでは東日本大震災被災地の一日も早い復興を願って黙とうをささげる。その後、種子島中学校吹奏楽部、榕城少年少女合唱団、離島戦隊タネガシマンのステージが展開され、盛り上がる。ラストはテレビ出演などで知られるジャズバンド「リトルチェリーズ」が演奏するのりのいいスイングジャズが会場に鳴り響く。
 司会者の「種子島から元気を発信しよう」の声に会場も拍手で応じ、年寄りにも希望を持たせる楽しい催しであった。
  西之表市 武田静瞭 2012/1/6 毎日新聞鹿児島版掲載
d'写真は武田さん提供

べっこう亀

2012-01-06 15:21:28 | はがき随筆
 太平洋の波が押し寄せる浜辺に、ある朝、ガヤガヤと人の声。何事かと見学に。そこで甲羅が金色に輝くべっこう亀を見た。産卵のため必死で波打ち際から上がってきたのか足跡が残る。安堵の場に穴を掘り、白いピンポン球に似た卵を次々と産み落とす。人々は酒を与えて歓迎。産卵が終わり砂を盛り上げた。亀は向きを変え、近くの川へ滑り、流れに便乗し海へ潜った。数分後、2回海面に頭を出し別れた。やがて、ふ化し旅立つ時、親亀が近くに来ているとか。行く先を知り波打ち際へとたどった子亀たちは無事親亀と巡り会い大海へと泳げたのか。
  肝付町 鳥取部京子 2012/1/5 毎日新聞鹿児島版掲載

さらりと生きる

2012-01-06 15:10:28 | はがき随筆
 生きることが、こんなに悲しいことだとは思わなかった。悲しみは深くなる。老いと死が迫ってくる。目をそらさずに見つめれば生への執念と反対にあきらめの気持が現れ、私を打ちのめす。もし、夫が脳出血で倒れて弱っていく姿を見なかったら、生きることはまだ楽しく輝いていただろうか? 老いと死は見えなかっただろうか? 私は元気だったろうかと考える。
 「あんまり難しく考えるな」
 夫が、よくかけてくれた言葉が私をすくいあげる。新しい年が始まった。私の生まれ年だ。悲しまないで、さらりと生き抜く努力をしようと思う。
  鹿児島市 萩原裕子 2012/1/4 毎日新聞鹿児島版掲載