はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

匂い

2012-03-06 12:10:35 | ペン&ぺん

 三寒四温というのだろう。寒かったり暖かかったりを繰り返しながら、弥生3月を迎えた。
 テレビのニュースや地方版の記事でも、梅や早咲きの桜が咲き、春のにおいを感じさせる。
   ◇
 匂いと言えば、先日「酒の匂いのする水」という言い伝えを本で読んだ。県立短大名誉教授、高向嘉昭さんがまとめた「鹿児島ふるさとの神社伝説」(南方新社刊)に紹介されている。出水市の厳島神社にまつわるものだ。
 昔、下僕が農作業から帰るたびに、ほろ酔いの様子。不思議に思った主人が尋ねると、おいしい水が湧き出る所があり、それを飲んで帰るのだという。翌日、連れだって行ってみると、確かに酒の匂いのする水があふれ出していた。主人は、欲を出して、そこを深く掘ったが、水は枯れ果ててしまった。しかし、下僕が行くと再び水が湧き出した。下僕は厳島大神を信仰しており、のちに富を得て、この神社を建てたという。
 何やら、花さかじいさんと欲深いじいさんの昔話のようで、欲深さを戒める教訓を感じる。何ごとも花を咲かせるには、欲は禁物ということか。
   ◇
 先日、この鹿児島版の「はがき随筆」で、出水市の橋口礼子さんが、「プランターの花々も、じっと寒さに耐えて、春を待っている気がする」と書いていた。あるいは土の中で、あるいは木々の小枝で芽吹きに備えている時がきっとあるのだろう。
 雪深い東北で春の匂いと言えば、長い冬の間、雪の下に隠れていた土の匂いだという話を聞いたことがある。橋口さんも「一日も早く東日本の人々に暖かい春が訪れますように」と随筆を結んでいた。
 3月11日が近づく。東日本大震災から1年になる。被災地に復興の春が訪れることを心から祈りたい。
  鹿児島支局長 馬原浩 2012/3/5 毎日新聞掲載

「スズメよスズメ」

2012-03-06 10:15:38 | 岩国エッセイサロンより


2012年3月 6日 (火)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

 スズメがいない。チュンチュンの鳴き声さえ聞こえない。東側出窓下のブロックは毎年多くのアベックが、日向ぼっこしたり、お互いの羽づくろいをするデートスポットである。

 日当たりが良く、風は当たらない。餌もふんだんな畑が目の前。なのに今年は1羽も姿を見せない。スズメに限らずヒヨもツグミもやってこない。ごちそうのクロガネモチの実はいまだ手つかず。見慣れた小鳥たちがやってこないだけで、あれこれ取り越し苦労をしてしまう。元気なら早く姿を見せておくれ。みんなで一緒に春を待とうや。

 (2012.03.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載