はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

生きるってこと

2012-03-13 21:27:34 | はがき随筆
 映画「ALWAYS」の踊り子がヌードショー等の看板にも、どきどきする年ごろのことを思い起こさせた。すねかじりながら何事も社会勉強とこじつけ、ショー小屋の前の小さな食堂に入った。踊り子らしき2人が、ラーメンの丼を抱え一心に汁をすすっていた。
 踊り子が腰を振り体をくねらせる見せ場にも、ラーメンをすする格好が目に浮かび、なんの感興もわかない。生きるために食うたけに、体を資本に精いっぱいな彼女らを劣情の対象としてしか見ていなかった自分を恥じ罪悪感を覚え、以来、そんな小屋に足は向かなくなった。
  肝付町 吉井三男 2012/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

もう、すぐ

2012-03-13 21:06:57 | はがき随筆


 「おっ、ウグイスが鳴いているぞ」
 「どれどれ」。窓の外へ耳を傾けるが、もう聞こえない。
 「どんなふうに鳴いていた?」。「ホーホケキョと。もう1羽、ホーだけのがいたぞ」と主人。
 そう言えば昨日、父と歩いた道端にちらほらと白梅が咲きはじめ、紅梅は意外とたくさんの花ををつけていた。
 寒い日々の合間を縫って着実に春の歩みは進んでいた。菜の花の黄色い花もしっかりと咲いていた。
 大好きな花の季節はもうすぐ、そこに。
  肝付町 永瀬悦子 2012/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

海辺の町

2012-03-13 17:39:32 | はがき随筆
 昔から雪道が好きで、危険がない限りよく山へ行った。雪が降ると、今でも血が騒ぐ。ロープウエーに乗り、大雪の西穂高登山口駅で下り、誰もいない恐ろしく白い雪道を歩いたのは昨年の冬のことだった。
 今年、網走の雪原で遊んだ。気が付くと海は海岸線から凍り始めている。水玉の模様に浮かぶ氷の向こうには、流氷群が白く輝いている。氷点下11度、寒風の中で荒涼としたオホーツク海と鉄道の行く手に見える海辺の町に私は見入った。糠のようにさらさらとした雪に覆われた美しい世界を、防寒着の暗い内側からいつまでも眺めていた。
  出水市 中島征士 2012/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝祭

2012-03-13 17:31:31 | はがき随筆
 会場の一画では、農家のお父さんが、間に合わせの使い古しの鍋で豆腐を手作り中。その横ではこれまたお父さんが2人、大鍋でミソ仕立てのしし鍋と格闘中。「栗ぜんざいをどうぞ」「ゆで卵も食べて」。村の小さな産直館は賑やかである。「年越しそばでも買って帰ろうか」。ほどなく餅つきが始まった。またまた農作業で鍛えたがっしり体型のお父さんが、慣れた手つきで杵をふるう。「順番に並んで」。先頭の妻、2番目の私の順で初めての餅つき。ご褒美につきたての餅をご馳走になり、わずか出費100円で笑顔のうちに帰路についた。
  霧島市 久野茂樹 2012/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載

トルコ紀行2

2012-03-13 17:17:00 | はがき随筆


 紀元前10万人余りが生活した都市国家。今は遺跡として残る全貌を目の当たりにすると、石畳の道には人が溢れ、2万4000人を収容する劇場からは絶叫する役者の声が聞こえてきそうだ。エフェスの遺跡は、世界各地からの観光客がそこかしこに佇み、流れてゆく。
 神殿、図書館、浴場、娼館、水道に沿って出水や池があり公衆トイレも残っている。地中海交易の拠点らしい栄華の痕跡は随所に見られる。気が遠くなるような歴史を前にして、石の文化の凄さを思い知らされるし、巨大な石を自在に操った人たちに心打たれ、エフェスを去る。
 志布志市 若宮庸成 2012/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載

つながった夢

2012-03-13 17:11:47 | はがき随筆
 もう3月なのに私は、まだ感激がおさまらない。
 2月19日、私の拙い作詞曲を「グリーンエコー」という混声合唱団が歌ってくれたからだ。加音ホールで歌ってもらえた曲は「川内川」「ふるさとの街」など3曲。
 福島から出水に避難されているある方も「被災前の故郷が浮かぶ」と喜ばれた。
 夢をかなえてくれたのは、はがき随筆の友Mさんに、すぐれた作曲者を紹介してもらったお陰だ。
 はがき随筆、Mさん、作曲者や混声合唱団の縁は、夢と夢を次々とつないでくれた。
  出水市 小村忍 2012/3/8 毎日新聞鹿児島版掲載

地球のために

2012-03-13 17:06:37 | はがき随筆
 中学生T君の英語の勉強をみていたことがある。教科書に環境問題がテーマの章があり、設問に「地球のために何をしたらいいと思うか」とあった。
 私は水を大切に使うしか資源ゴミを分別するというような答えが出るものと思っていた。
 ところが、彼が考えた末に言ったのは「子どもを生まない」。すごい! 人間は地球の癌であると聞いたことがある。癌がなくなれば地球は健康になる。究極の答えだ。
 でも学校の先生の指導要領にそんな答えは載っていないだろうなあ。T君がはなまるをもらったかどうか聞きそびれた。
  鹿児島市 種子田真理 2012/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載

迷翻訳家

2012-03-13 16:53:46 | はがき随筆
 幼稚園で英語を習っていると聞いたので、英語の絵本を買った。遊びに来た孫に読んでやろうとすると私の顔をのぞき込み「ABCはだめよ。ねっ」とかわいい手で私の口をふさいだ。
 それではと適当に訳しながら読んでやった。せがまれて7,8回は読んだだろうか。その都度、話が微妙に違ってくるので孫は私の顔と絵本を見比べながら聞いている。私は笑いをこらえながらも少々やけっぱち。
 ようやく開放されて絵本を置くと、そばにいた息子が手に取った。そして一通り目を通すと私を見てニヤリ。あらら、そんなに違っていた?
  出水市 清水昌子 2012/3/6 毎日新聞鹿児島版掲載

「めん食い夫婦」

2012-03-13 12:43:57 | 岩国エッセイサロンより
2012年3月13日 (火)

   山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 私は面食いだ。祖母の「子供のために旦那さんは男前を選ぶように」という教えに従ったからだ。主人もめん食いだ。こちらは面ではなく、無類のメン好き人間だ。西原理恵子さんの「毎日かあさん」に1日1メンという言葉が出てきたが、まさにそれである。

 子供のころ食べたラーメンが、よっぽどおいしかったのだろうか。大人になった今も食べ続けている。それも必ず自分で作る。私の実家に行っても自分で作って食べるのにはあきれる。

 結婚30年。私の面食いは主人似の娘を2人産み、主人のメン食いは体重20㌔増のメタボ腹を生み出した。
  (2012.03.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載