はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

強気の願い

2012-03-15 14:45:12 | はがき随筆
 ピンポン。誰か玄関に。60代ぐらい? 会話の不自由な見知らぬ男性。驚いて何ごとかと案じたが、それほどでもない。遠方から敷物じゅうたんの販売。必死で強気の願い。だが、ぜいたくはできない。1万8000円、1万5000円と値下げ。その懸命さにまけそうだ。「奥さんは」とうかがう。「大腸がんで腹に袋を」と即答。人ごとでもない。私とてなる場合も。同情心が芽吹く。「1万なら買います」。納得。「どうも」と言葉を残し車の方へ。後を追って、お茶の粗品を差し上げ「お元気で」と激励。満面に笑みを浮かべ再びお礼され発車。
  肝付町 新富 永瀬悦子 2012/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

「定位置」

2012-03-15 14:43:28 | 岩国エッセイサロンより
2012年3月15日 (木)

岩国市  会 員   貝 良枝

壁掛け時計が遅れているのを忘れ、リズムが狂った。電池を替えようと時計を外した。時計はその位置にないのだが、つい見てしまう。「外したんだった」。代わりに目覚まし時計を出してみるが、視線はやはり壁に行く。

 父が元気だったころ「誰が使ったんか」とハサミや金づちなどが定位置にないことを怒られた。確かに、あるべき場所に物がなかったら、仕事の流れを切られたようでイラッとする。

 心の健康のためにすぐに電池を買いに行った。時計は元の位置で何事もなかったように静かに動きだした。

(2012.03.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載