はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

秘訣

2015-01-16 20:49:52 | はがき随筆
 88歳の頃、病院の番取りにいった。玄関前に数人の雑談をしている待ち人がいて、私もその中に加わった。私を一番年長と思ったのか、その中の1人から「長生きの秘訣は何ですか」と問われ、あまり考えもせず「よか物を食わんこつ」ととっさに言った。人に言えるような特別なことをしているわけでもない私は、美食を追い求める今日を考え合わせると「それはそうかも」と思うようになった。大正~昭和初期の世界を巻き込んだ大不況の時代に粗衣粗食で人となった。3月で94歳になる私に「よか物は食わんこつ」が身についているのかと思える。
  鹿屋市  森園愛吉  2015/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載 

はがき随筆12月度

2015-01-16 17:56:45 | 受賞作品
 はがき随筆の12月度の入賞者は次の皆さんです(敬称略)

【月間賞】1日「ごめんね」西尾フミ子(80)=鹿屋市新栄町
【佳 作】4日「紫尾の里さんぽ」小向井一成(66)=さつま町宮之城屋地
【佳 作】11日「地引き網」新川宣史(66)=いちき串木野市大里


 ごめんね 買い物の帰りに、重いカートにてこずっていると、小学生の男の子が声を掛けてくれた。その好意を断ってしまったことへの悔いが内容です。小学生とのやり取り、その後の後悔が、軽妙な文章に綴られていて、ドラマの一シーンを彷彿とさせるように鮮やかです。
 紫尾の里さんぽ 生まれ育った古里を散歩してみたら、悪ガキの頃が懐かしく思い出されてきた。そこは素晴らしい天空集落なのだが、今や限界集落と化していた。政府の唱える、ふるさと創生もここまでは届かない。あの古里の再生を願っても、詮無いことか、思いは複雑です。
 地引き網 かつて地引き網で賑わった海岸に出てみたら、網元の網舟、伝馬船の旗、引き子、手伝いの小学生らの喧噪が蘇ってきた。しかし今は、網小屋はもちろんのこと、豊潤だった海も砂浜も無くなってしまった。「紫尾の里さんぽ」も同様ですが、故郷が、自然が、そこに済む人が急速に変化し、失われつつあります。懐かしがってばかりではいられない自体が、目前に迫っているようです。
 この他の3編を紹介します。 
 種子田真理さんの「元気で長生き」は、健康で、89歳のご母堂の長寿を周囲は喜んでくれるが、本人は、夫にも友人にも死別し、「つまらない」と言うという複雑な内容です。長寿社会の現在、超高齢者の特に心の問題は新たな課題のようですね。
 宮下康さんの「引き継ぐ思い」は、母親は、毎朝仏壇の供花をきれいに整えて、先祖を供養し、家族の幸せを祈っていた、それが母の死後自分の日課になったという内容です。ある時から、母親の思いが理解されてくる様子がよく表れている文章です。
 岩田昭治さんの「うぬぼれか」は、読みたい本を出版元に直接注文する時の功罪(?)か洒脱に書かれています。いわゆる店売り、ネット通販、直接購入など、本の入手方法も多様になってきていますが、このようにそれぞれを楽しむの自慢の種かもしれません。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

新しい年

2015-01-16 17:49:32 | はがき随筆
 無事迎えられた元旦。1日変わっただけなのに周囲はすっかり静かである。今朝は初雪が降り、野も山も白く輝いている。庭に出ると水仙が凜と咲き乱れ、紅梅の枝先につぼみがかすかに膨らんでいる。松飾りが取れると、再び多忙になってくる。
 考えてみると、苦しみや辛さが人間をより豊かにしてくれる。いつか80年の人生が過ぎていく。残り少なくなった人生を心豊かに生きてゆきたいものである。人に優しく、自分に優しく、そして自然にも優しく接しながら、「今年こそ1歩でも進んでいこう」と明るい気持ちで生きてゆきたい。
  出水市 橋口礼子 2015/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

野ウサギ 

2015-01-16 17:43:24 | はがき随筆
 雪や霰が舞う正月は何年ぶりのことだろうか。今年は楽しみが確実に上演されそうです。私たち野ウサギは満を持して待っていたのです。人の子たちが増え、私たちのエリアが脅かされ始めると、私たちの後を継ぐ者が少なくなりました。しかし、時と共にそばにいたはずの人が居なくなり、それで私たちは潤うはずでしたが、逆に楽しみが薄れ廃れていったのです。それが久しぶりに雪積む原野が出現しそうです。中学校全員での浜辺の松林の中のウサギ狩り。
 お互いが緊張ある時の方が繁栄すると知らされ、雪の中の出番が楽しみなこの冬です。
  いちき串木野市 新川宣史 2015/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載

年賀状雑感

2015-01-16 17:36:35 | はがき随筆
 元旦は年賀状がどさりと届くのがいい。届いた賀状はそれぞれの顔を思い浮かべて、丁寧に見る。添え書きにはその方の人柄がうかがえて、心が弾む。
 作家の池波正太郎さんは5月から師走にかけて、少しずつ宛名を1000枚書かれていたそうた。私などもっと早く準備しておけばよかったと、いつも後悔する。
 定年後、ボランティアや趣味の仲間が加わり、300枚出す。「高齢なので、来年から賀状失礼したい」と友人から届いた。やめ時も大切だが、年に1度のお付き合い。頭と体が元気なうちはまだまだ続けていきたい。
  鹿児島市 田中健一郎 2015/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

我が輩は……

2015-01-16 17:29:25 | はがき随筆
 我が輩は犬。プリンと何やら洋菓子のような名前を付けられておる。
 先祖様は、鳥猟で獲物を回収する水猟犬だったとか。その血が騒ぐのか、猫でも見かけると、猛突進してほえたてる。その時、ご主人に一喝され、サッシをピシャリと閉められる。しがない室内犬の不満が鬱積する。
 しかし、我が輩が体調を崩した時、なりふり構わず病院に駆け込んでくれた。その時以来、信頼の絆が生まれ、べったりなのだ。「今年から高齢者だわ」とこぼすご主人に〝元気なシニアでいて〟と願っておる。皆様も良いお年で。ごきげんよう。
  出水市 伊尻清子 2015/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載