はがき随筆の12月度の入賞者は次の皆さんです(敬称略)
【月間賞】1日「ごめんね」西尾フミ子(80)=鹿屋市新栄町
【佳 作】4日「紫尾の里さんぽ」小向井一成(66)=さつま町宮之城屋地
【佳 作】11日「地引き網」新川宣史(66)=いちき串木野市大里
ごめんね 買い物の帰りに、重いカートにてこずっていると、小学生の男の子が声を掛けてくれた。その好意を断ってしまったことへの悔いが内容です。小学生とのやり取り、その後の後悔が、軽妙な文章に綴られていて、ドラマの一シーンを彷彿とさせるように鮮やかです。
紫尾の里さんぽ 生まれ育った古里を散歩してみたら、悪ガキの頃が懐かしく思い出されてきた。そこは素晴らしい天空集落なのだが、今や限界集落と化していた。政府の唱える、ふるさと創生もここまでは届かない。あの古里の再生を願っても、詮無いことか、思いは複雑です。
地引き網 かつて地引き網で賑わった海岸に出てみたら、網元の網舟、伝馬船の旗、引き子、手伝いの小学生らの喧噪が蘇ってきた。しかし今は、網小屋はもちろんのこと、豊潤だった海も砂浜も無くなってしまった。「紫尾の里さんぽ」も同様ですが、故郷が、自然が、そこに済む人が急速に変化し、失われつつあります。懐かしがってばかりではいられない自体が、目前に迫っているようです。
この他の3編を紹介します。
種子田真理さんの「元気で長生き」は、健康で、89歳のご母堂の長寿を周囲は喜んでくれるが、本人は、夫にも友人にも死別し、「つまらない」と言うという複雑な内容です。長寿社会の現在、超高齢者の特に心の問題は新たな課題のようですね。
宮下康さんの「引き継ぐ思い」は、母親は、毎朝仏壇の供花をきれいに整えて、先祖を供養し、家族の幸せを祈っていた、それが母の死後自分の日課になったという内容です。ある時から、母親の思いが理解されてくる様子がよく表れている文章です。
岩田昭治さんの「うぬぼれか」は、読みたい本を出版元に直接注文する時の功罪(?)か洒脱に書かれています。いわゆる店売り、ネット通販、直接購入など、本の入手方法も多様になってきていますが、このようにそれぞれを楽しむの自慢の種かもしれません。
(鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)