はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

バースデー

2019-06-15 14:16:04 | はがき随筆

 ♪ハッピーバースデートゥミー。ハッピーバースデートゥミー。ハッピーバースデーディアねえちゃん。ハッピーバースデートゥミー。

 5月、体調は〝快晴〟ではないけれどやっとこ87歳。遠くに暮らす弟妹も年を重ねたけれど6人弟妹の長女の私はいくつになってもねえちゃんです。

 戦争中、母と力を合わせて生きてきた日々は、ねえちゃんより母ちゃん代理でした。

 年を追うごとに弟妹の助けを受けるねえちゃんだけど、おっとりぼんやりでまだやり残したとが山積みです。神様もうちょっとだけ時間をください。

 熊本市東区 黒田あや子(87) 2019/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載


ゴメンナサイ

2019-06-15 14:07:32 | はがき随筆

 令和元年5月、姶良市加音ホールの加治木高校吹奏楽部定演。行進曲「春」に始まり、アンコール「桜島」まで、夢の時間。顧問指導力はもとより、生徒たちの才能と若さと努力に、ただ驚くのみである。

 何故か、素晴らしいメロディーは追憶の世界へと誘う。時は昭和20年夏。米軍空襲による母校焼失に遭遇(旧姓加中1年)し命からがらの帰宅。と、思いはスイカ泥夜警へ――。青年団と共にパトロール中、ちょいと失敬した一玉の甘いしたたり。13歳少年の胸はスリルと背徳の念に少々揺れた。夜の星は無言。86歳の今、ゴメンナサイ。

 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載


アマリリス赤く

2019-06-15 12:21:27 | はがき随筆

 

  

  鉢植え、直植えのアマリリスが赤く咲いている。あまりの堂々たる咲きっぷりに、生涯学習でかじった俳句でもひねってみようかという気になった。まずはお手本をと、ネットで検索。

 「向きむきの何れ正面アマリリス」稲畑汀子

 「アマリリス四方に向くも素っ気なし」石田嘉江

 私と同じ思いを持った俳人のいることをうれしく思った。

 アマリリスは2輪で咲いていれば違いに背を向けているし、4~5輪咲いていれば、それぞれ思い思いの方を向いている。おこがましくも一句。「脇見せず振り向きもせずアマリリス」

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


着信にドキッ

2019-06-15 12:11:59 | はがき随筆

 入所の義母や実家の母からの着信音に「何か?」とドキッとする。

 膝を骨折し2ヶ月入院した義母は、認知症がひどくなり退院後施設に入所した。幻覚が特徴の認知症で、義母は夕方になるとソワソワしだす。「男の人が襲ってくる」と言い施設の職員では対応しきれず、落ち着くまで夫が付き添う事になった。

 同時に実家の母は物忘れが多くなり、電話してもすぐ「声が聞きたかった」と同じ話をして心配が募る。

 先の自分を考えてしまう。こうして書く事が脳トレと思い、できる限り続けたい。

 宮崎県串間市 林和江(62) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


目覚まし

2019-06-15 11:28:49 | はがき随筆

 ドスッ。腹に重みを感じて目を開ける。目が開いたのを確認すると、腹から飛び降り部屋から出て行く。時計は6時半を指している。

 「まだ早いよ」と再び目を閉じる。するとペタペタと足音が近づいてきて、私の頭にパンチ。しばらく知らんぷりを決め込んでみるが肉球パンチは続く。

 「分かった。分かった」。体を起こすと、満足そうに私を見て一声「ワン」。「おはよう」と頭をなでると、早く行くぞと言わんばかりに部屋から出て行く。ベッドから立ち上がったところで、やっと目覚まし時計の電子音が響いた。

 熊本市南区 井之上亜友美(26) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


柴犬ゲンちゃん

2019-06-15 11:21:41 | はがき随筆

 「おはよ」「やめ」「またね」。朝昼晩決まって声を掛ける私を、がんぜないつぶらな瞳の彼(彼女)が見つめる。形のよい三角形の耳と顔の真ん中の真っ黒いだんご鼻。胸のあたりには柔らかそうな毛がふわふわと生え「お座り」の正しきポーズ。そう、昨年のカレンダーから切り取った柴犬のゲンちゃん、子犬である。大のおとながトイレに貼ったワンちゃんの写真に話しかけるのかって、自分でもびっくり! これって高齢のご婦人がイケメン歌手の氷川きよしさんにする行為といっしょかも……。幼児返りする70歳である。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


思い出

2019-06-15 11:11:53 | はがき随筆

 川沿いの道を歩く。今時、野バラ、アザミ、クローバーなどの可憐な花たちが心を和ませてくれる。ある日雑木の中に「サルカケの葉」を見つけた。淡い思い出に顔がゆるんだ。

 遠い昔、幼稚園児の頃の息子が、興奮気味に「お母さん! 団子の葉っぱ見つけたよ」とカバン一杯に詰めたサルカケの葉を満面の笑みで見せた。

 前日、隣人たちと一緒に柏団子を作ったそれを覚えていたのだろう。後、また作ったかどうかは定かではないが、その時の息子の顔と声が忘れられない。

 葉を摘み、やさしくなでた。

 宮崎県西都市 河野満子(68) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


元気な歌声

2019-06-15 11:06:38 | はがき随筆

 介護施設に勤めて5年目になる。毎朝元気よく歌っている認知症の方がいる。歌が聞こえてくると一日が始まったと実感する。

 ある朝。いつもの歌声が聞こえてこない。様子を見に行くと、あまり体調が良くないようだ。

「体調悪いですか?」と声をかけるが反応がない。熱もあるようだ。病院へ連れて行くと肺炎と診断されて、入院となった。

 1週間後、出勤すると大きく元気な歌声が聞こえてきた。退院されたのだ。よかった。この方の歌声に元気づけられている自分がいる。

 熊本市南区 佐藤広和(22) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


五輪チケット

2019-06-15 10:54:44 | はがき随筆

 締め切りが迫ってきた。混み合って時間がかかるのは覚悟でパソコンに向かう。

 価格表を見て驚いた。どの競技もメダルがかかる試合はとても高い。開会式のA席なんて言うに及ばず。夢に描いた熱い臨場感がどんどん遠のいていく。

 抽選の確率は高いと予想されている。ダメ元でと5種目も申し込んだ。合計金額に目がくらむ。ふと、年金暮らしの我が身が頭をよぎった。安い席でも我慢せねば。全部外れたら沿道でマラソンを応援して五輪の空気だけでも吸おうか。

 申し込み完了! あゝ、どうか全部は当たりませんように。

 宮崎県延岡市 楠田美穂子(62) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載