はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

平成最後の満月

2019-06-19 21:13:47 | はがき随筆

 夕げを終え、久しぶりにベランダへ出た。

 心地よい川風に当たりながら店を仰ぐと、星空が月明かりに消されていた。この日の月が、平成最後の満月だというのを耳にしていた。丸い、きれいなお月さまをイメージしながら、幾度となく見直したが、5年前に「黄斑変性症」が再発し、上弦、下弦の様に歪んで見える。

 目は心の窓、盆のような月を思い浮かべ心が痛む。この日の満月を、忘れな草の1㌻書き止めておこう。

 川面に揺らぐ、星くずのような光に慰められ、再び、空を見上げた。

 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載


巣立ち

2019-06-19 21:04:00 | はがき随筆

 珍しい。地面に降り、とっとと歩く2羽の鳥。よくみると1匹は極小の綿毛。まん丸愛らしい巣立ちの雛。一昨年も落ちていた雛はあれも親鳥が近くにいたのだろう。親鳥が飛び立つと万年青の葉陰にさっと隠れた。

 家の軒に巣はあるのだが不思議に見つけられない。きっと生きる場所は厳重の守秘。今もカラスの影が地面を横切っていった。営巣は難しいことなのだ。

 生き物の織りなす綾は美しくもあるが厳密・厳酷。人間の興味津々なんて迷惑なだけだろうなぁ。でも時々、その可愛い姿を見たくなる。


はがき随筆5月度

2019-06-19 20:35:35 | 受賞作品

 はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)

 【月間賞】25日「朝は山姥」永井ミツ子=宮崎県日南市

 【佳作】13日「さとうさんは何処」露木恵美子=宮崎県延岡市

  ▽8日「仰げば尊し」野崎正昭=鹿児島市

  ▽16日「境界の線」北窓和代=熊本県阿蘇市

 

月間賞に永井さん(宮崎)

佳作は露木さん(宮崎)、

野崎さん(鹿児島)、

北窓さん(熊本)

 

 「朝は山姥」は、白髪を染めることをやめた時の心境が、劇的に描かれています。まず外部からの反応を、白髪に対するものとは触れずに書き、次に白髪染めをやめ自然体に生きることの気楽さで種明し。最後に、しかししかし、寝起きの姿は孫も驚く山姥状態。能楽に序破急という三段構成がありますが、図らずも見事な三段構成の文章です。ご自分の心境に距離を置いたために、文章が成功しました。

 「さとうさんは何処」は、心温まる話題ですが、同時に不思議な話でもあります。五ヶ瀬川の堤防で、祭りの準備に係り数人で菜の花の手入れをしていたら、見知らぬ女性が2日間も手伝ってくれた。その時の写真が届いたので送ってやりたいが、どこの誰やら分からない。「風の又三郎」を連想した、という内容です。意識的なものか、あるいは無意識的なものか、読む者を想像の世界へ誘うところのある文章です。

 「仰げば尊し」は、長年教職に就いていて「仰げば尊しわが師の恩」を聞いてきたが、違和感を感じていた。先日大成した教え子の恩師と言われ、恥ずかしく、恩は撮ってくれと言った。晩年(失礼)にこういう思いに取り付かれるのはつらいですね。しかし、のほほんと生きるよりは、充実した生ではないでしょうか。

 「境界の線」は、人と自然との関係についての意見が述べられています。熊本地震のときのがけ崩れもひどかったが、それよりも人為的な自然破壊がひどいのではないか。考えると地震によるがけ崩れも、その一因は人の自然への対処の仕方にあったのではないか。自然の持つ再生力は果たして無限か。人と自然の調和の限界を人は超えてはいないか。このような問題はアポリア(同時に二つの合理的答えがあること)ですね。

 鹿児島大学名誉教授  石田忠彦

 


旅の中で

2019-06-19 19:27:45 | はがき随筆

 いつもとは違う朝の気配の中、ふと目が覚めた。そうか……ここは北海道。

 ほとんで遠出をしない私を見かねて、息子が連れて来てくれた。遠いから行くことは無理だろうと思っていた北の大地の歴史や自然の探索、食事など満喫させてもらったことに感謝しつつ亡き母のことを思った。

 「家にいるのが一番好き」と日ごろ言っていたため無理に連れ出すことをしなかった。私自身の性格も要因だったのかもしれないが、今更ながら母の気持ちは本当はどうだったのだろうか……という思いが、じわじわと湧いて来た。

 宮崎県門川町 黒木和子(66) 2019/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載