はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

昭和は古いの

2019-06-27 22:56:13 | はがき随筆

 中学生の孫の野球応援に久しぶりに行った。気を利かしたつもりで皆にリンゴを差し出すと、娘が開口一番「それって、昭和よ!」と、戸惑う私を尻目に、一言発した。昭和世代の考えることが古くさかったらしい。よかれと思った行為が裏目に出て却下された。

 翌日、気を取り直して個包装の菓子に変更し、事なきを得た。私たちの頃は何でも「ありがとう」の時代だったが、今どきは口が肥えているのか、ぜいたくになったものだとつぶやくのだった。ジェネレーションギャップに驚き、令和の世に、昭和が遠くなったと思い知った。

 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ディス トレイン!

2019-06-27 22:43:57 | はがき随筆

 通勤帰りの列車での出来事。発車まで間があったので、ウトウトしていたら「ディス トレイン!」という大きな声と同時に、目の前に列車の切符を突き付けられた。中国人か、70前後のご婦人である。私は咄嗟のことに頭が真っ白になった。

 切符をよく見ると「延岡-宮崎」とある。やっと状況が飲み込め「イエス」と答えた。ご婦人はにっこり笑って、満足気に隣の車両に消えて行った。

 最近、駅で中国語や韓国語を頻繁に耳にするようになった。確実に国際化の波が私たちの身辺にも押し寄せてきている。心してかからねばと思った。

 宮崎市 福島洋一(64) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載 


ダンゴムシ

2019-06-27 21:51:00 | はがき随筆

 時々遊びに来る5歳の孫のお目当てはダンゴムシだ。レンガの下などにいるのを、砂地に持っていき道や山などを作って行動を見ている。

 調べてみると腐植質を食べるみたいだ。「ダンゴムシは何を食べるのかな」と聞くと「葉っぱがいっぱいいっぱい枯れたのを食べるんだよ」と言ったので「そだねー」と答えた。保育園で教わったのか、知っているなんて不思議な気がした。

 1時間ほどしたら娘が迎えに来た。「またダンゴムシで遊ぼうね」。「いつでもいいよ。待っているね」と答えたら、笑顔で帰って行った。

 熊本県荒尾市 森川郁子(72) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


老いの風景

2019-06-27 21:38:27 | はがき随筆

 5月半ばになって、テレビで気温上昇にともなう熱中症の予報を報じている。私の住まいは、木々に囲まれた山寺である。日中は気温30度くらいまで上昇するが、朝夕は15度前後で肌寒い。最近は冬を越したメジロがすみ着き、早朝からにぎやかである。口笛で鳴きまねをすると一段とさえずる。縄張りをもったウグイスも、他を寄せ付けない威厳をもってかん高い。庭にはケラマツツジの古木が2本、新緑の中に南国特有の情熱的な赤に映えている。この風景の中に八十数年間生きてきた。いまだ経験しない明日へ向かって歩みを踏みしめている。

 鹿児島県志布志市 一木法明(83) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


ばーばのバーバー

2019-06-27 18:54:13 | はがき随筆

 床屋に行かなくなって20年以上が過ぎた。その訳は、行きつけの床屋が廃業したから。「別の床屋に行けば」と妻が。しかし、大きな鏡に映るこの顔を長時間見続けることにもかなりの忍耐力がいる。そこで、妻に切ってくれと頼み込んだ。初めは嫌がっていたが、「床屋代が節約できるぞ」の一言で渋々引き受けてくれた。「後ろはもっと短く」「横はあまり切らんで」と注文が多いので、いつも口喧嘩。最近、切った後の髪を集めてもほんのちょっと。先日切ってくれと頼むと「どこを切るの?」の一言。我が家のバーバーの廃業もそろそろか。

 宮崎県日向市 福島重幸(65) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ありがとう

2019-06-27 18:44:07 | はがき随筆

 話し上手ではない。でも人と話をするのは好きだ。人見知りのところもあるが、ふとしたことなどで、知らない方に話しかけてしまうのである。

 スーパーに立ち寄る。食料品売り場でベビーカーの赤ちゃんが目に入った。小さいからだにくるくる瞳。足をきちんとそろえて行儀がいい。つい「モゼ~(かわいい)」と声をかけてしまった。すると、お母さんから「声をかけていただいてありがとうございます」と感謝の言葉。ありがとうの気持ちを表現できる若いお母さんの笑顔もモゼかったが「ありがとう」の言葉の大切さが心にひびいた。

 鹿児島県さつま町 小向井一成(71) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


昭和生まれ

2019-06-27 17:24:13 | はがき随筆

歩道の角で、私と同じようにつえを持った散歩姿の男性とぶつかりそうになった。

 「あら、失礼しました」と私。その方が「おたくは何年生まれですか?」と問われる。「私は昭和2年です!」「わしは3年ですばい。負けましたばい」。「おたくの方が元気ですたい」と私。「お互い頑張りましょう」。偶然の出会いだった。

 年号も変わり令和となった。外を歩ける幸せに感謝しつつ、若い人たちに迷惑をかけない老人でいなければと、同年代の方を振り返りながら思った日だった。

 熊本市中央区 川口紋子(91) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


昭和生まれ

2019-06-27 17:24:13 | はがき随筆

歩道の角で、私と同じようにつえを持った散歩姿の男性とぶつかりそうになった。

 「あら、失礼しました」と私。その方が「おたくは何年生まれですか?」と問われる。「私は昭和2年です!」「わしは3年ですばい。負けましたばい!」。「おたくの方が元気ですたい」と私。「お互い頑張りましょう」。偶然の出会いだった。

 年号も変わり令和となった。外を歩ける幸せに感謝しつつ、若い人たちに迷惑をかけない老人でいなければと、同年代の方を振り返りながら思った日だった。

 熊本市中央区 川口紋子(91) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載