はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

祥月命日

2019-06-25 17:57:40 | 岩国エッセイサロンより

   岩国市   会 員   片山清勝

 わが家の祥月命日は全て奇数月。3月は母、5月は祖父、7月は祖母、9月は父だ。祖母、祖父、父そして母の順で亡くなった。祖父母と父の五十回忌、母の三十三回忌はいずれも済ませた。
 私たち夫婦の金婚式は過ぎた。妻は父と祖父母に関して、母から聞いたことしか知らない。それでも命日に、それぞれの好物を供えてくれており感謝している。
 命日には近くに住む姉妹たちがお参りに来る。命日以外でもそうなのだが、姉妹は妻と日頃のあれこれを話す。その会話は、実家の嫁というより実の姉妹のよう。目をつむって聞いていると、母娘の会話のようにも聞こえることがある。長男としてうれしいことだ。
 命日が近くなると、私は毎月している墓掃除を命日前に済ませることが役目。仏壇の掃除はいつもだが、妻が支度する仏花などがそろえば、ほこり払いや具足磨きなどから始める。
 4枚の遺影は仏壇の横のかもいに掛けている。この家に引っ越してきて二十数年。一番いい部屋に飾っているが、居心地はどうなのだろうか。額を拭きながら、わが家の様子をどんな思いで眺めているのだろうかと思う。
      (2019.06.17 中国新聞「明窓」掲載)


探し物

2019-06-25 17:56:32 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月14日 (金)

    岩国市  会 員   林 治子


 「探し物はなんでしょうね。どこにあるんでしょうね」。昔、テレビドラマの主人公が口ずさんだフレーズが思わず口をついて出てくる。ただいま探し物の真っ最中。月一で通う教室で使う色紙。いくら探しても見当たらない。
 偶然訪ねてきた友が「なにしとるん」。「探し物」と返事。「あんたのことじゃけん、認知症言われたらかなわんと必死になっとるんと違う? そうゆう時はしばらくほっとくのよ。思わぬ所から出てくるもの」と慰めてくれた。とうとう聞に合わず店へ走る。
 ほっとしたけど途端に探す気力もうせ、まだ見つかっていない。
    (2019.06.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


抜いた歯へ

2019-06-25 17:55:49 | 岩国エッセイサロンより

   岩国市  会 員   片山 清勝


 ヂクッとした痛みが始まり、延び延びにしていた抜歯と義歯を入れる治療を始める。まず抜歯、診療台が後ろに倒されはじめ、ちょっとした覚悟をして目を閉じる。だが、あっけないほどの短い時間で、苦痛もなく処置が終わったのは歯科医の腕か。 
 抜いた歯が思ったより小さくて驚いた。「歯の健康は全身を守る」というが、小さな姿で七十数年ものわがままな食べ方を受け入れ、健康を守ってくれたのか。感じたことのない「ありがとう」の強い気持ちが自然に湧き出た。
 私より先に寿命がきた歯に、残りを守る8020を誓う。  
   (2019.06.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


最後の同窓会

2019-06-25 17:54:32 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月11日 (火)

    岩国市   会 員   吉岡賢一 

 きっかけは、中学校卒業から35年が過ぎて50歳になった節目に開いた同窓会だった。「人生の小休止」と銘打ち、同級生は282人のうち92人、恩師は担任と専科を合わせて13人と、多くの方に参加いただいた。
 同窓会はその後、3年から4年置きに開き、還暦、古希を経て今回、喜寿の記念同窓会を迎えた。50歳の「人生の小休止」から数えて8回目となる。
 ただ、回数を重ねるたび参加される恩師の人数が減った。同級生も年々、案内状発送枚数の減少に比例して参加者も少なくなった。
 「来し方行く末」をさかなに談笑するお膳立て役の幹事団も、最初は20人近くいた。それが1人またI人減り、とうとう7人になった。エネルギーもパワーも減退する中での人数の減少である。今後の開催を約束できないため、案内状には「今回が最後となる」ことを明記した。
 同窓会を振り返れば、多くの人間ドラマがあった。印象深いのは、主人を亡くした奥さまから「写真で参加します。皆さまと一緒に乾杯を」と会費とともにすてきな写真を送ってもらったことだ。「天国からの出席者」として紹介した。
 さまざまな思いを秘めて開催する私たちの中学最後の同窓会。自分のことは自分でできる人は元気なのだと訴えたところ、思いのほか多くの方が参加してくれた。
 まだまだ先のある人生、今回の出席率によって「最後の同窓会宣言」を撤回できれば、うれしい。

      (2019.06.11 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)


見ていてね

2019-06-25 17:53:43 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月 7日 (金)

   岩国市  会 員   横山 恵子


 亡き父は退職後、庭の一角を耕して畑にした。「畑作りは土作りじゃ」と言って堆肥を作り、大根やトマト、つくね芋にも挑戦。亡き母の好物の文豆は毎年作った。
 しかし7年前、突然の事故で急死。畑が広く感じられた。傷心の日々の中、戸棚の隅に文豆の種を見つけた。秋にまいたら翌春、実がなった。小粒の豆がいとおしく、込み上げるものがあった。
 今年は豊作。早速豆ご飯を仏壇へ。父の後ろ姿を思い出しつつ、試行錯誤の野菜作り。空からはらはらしながら見ていた両親も「おーやっとるなー」と少しは安堵しているだろうか。
   (2019.06.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


確かな歩みに

2019-06-25 17:43:00 | はがき随筆

 京都の通信制芸術大の仲間と卒業後、京都で年1回の美術展を行い5年目を迎えた。「これまでの五年、これからの五年」と題した寄稿で、私は多くの人に見てもらいたいので、公募展に挑戦し続けたいと書いた。

 仲間の中には自分の病気、家族の介護や別れ、子育て奮闘中など、さまざまな状況に置かれている。そんな中でうまれた作品たち。また、京都近隣の仲間たちの支えがあっての美術展。遠方の私は、出品することで感謝の気持ちを表したい。

 25年は続けようの思いを込めた「KIRARI25」展。20年後、生きてまだ描いていたい。

 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載


飛行機雲

2019-06-25 17:31:30 | はがき随筆

 夜明けの空は見事な青のグラデーション。思わず「きれい!」見とれてしまう。4本の飛行機雲に1本の線が交差する。珍しい。雲の行方を追う。

 旅の日の胸の鼓動が高鳴る感をしばらく忘れている。さまざまな人間模様を引き受けた空飛ぶ鉄の大きな機体。地上から見上げ何をか思う。今ごろ機内はリラックスタイム? 会話する人、目を閉じて音楽にききいる人。あの日の私は、うつむいてずっと涙をこぼしていた。辛い時間にようやく耐えた。

 あれからもう随分時間が過ぎた。残された飛行機雲のはるか先、飛行機はいったいどこへ。

熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載