はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

バスと盲導犬

2008-12-21 00:05:29 | はがき随筆
 落ち葉の舞う中をバス停にたどり着いた私は、盲導犬を連れた「アラフォー」の女性を見た。彼女はバス停の縁にすっくと立ち、じーっと前を向いたままである。ひたすらバスのエンジン音が近づくのを待っていた。
 私はバスの止まる位置がずれはしまいかと心配になった。しかしバスのドアはピッタリと彼女の前で開いた。私はやっと気が付いた。彼女は前もって犬を連れた自分の姿を運転手に見えるようにたっていたのだ。
 生活の知恵とはいえ、彼女の用意周到さに私は、自分の行き当たりばったりの性格と引き比べて、恥ずかしい思いがした。
   鹿児島市 高野幸祐(75) 2008/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載

メッセージ

2008-12-19 13:37:07 | はがき随筆
 11月24日正午、雨に清められながら188殉教者の列福式は始まった。式次第冊子のページがぬれていく。3万人の祈りと聖歌が響き合い心がふるえる。
 イエスの言葉は「神の国はあなたたちの間にある」のだから「信仰を捨てよ」と迫る者たちに殉教者たちは力で向かわず、憎まず、ただ己の信仰を貫いて命を落としたのである。真の平和、神の国はこうして築いていくものではないのか?
 列福式は4時間に及んだ。命をかけた平和へのメッセージを携えて殉教者がわたしの中によみがえるころ、長崎の式場に厚い雲間から光が差しはじめた。
   鹿屋市 伊地知咲子(72) 2008/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は桜香さん

大隅能

2008-12-18 18:11:27 | アカショウビンのつぶやき
 地方では、文化的な催しに触れる機会が少ない。今回、2回目となる「能公演」を楽しみに待っていた。

出演は「観世流梅若研能会・梅若紀年」
演目は「安達原」

まず「能学入門」があり、分かりやすく解説してくれる。さらにパンフには、台本が印刷され、マンガでストーリーが紹介されていた。これなら難解な台本の内容もよく理解できる。初心者にも親切な計らいが見られ好感がもてた。
そして「舞い」「謡い」「お囃子」ともに素晴らしく、あまりなじみのない舞台なのに引き込まれて見ていた。「安達原」の背景となった伝説に登場する「岩手」という女性の哀れな生涯を知ると、鬼女となり果て消えていく姿が哀れでならなかった。

オペラや演劇の壮大な舞台にも感動を覚えるが、日本の古典芸能に触れることも素晴らしい体験だった。

外に出るとクリスマスの街を彩るイルミネーションが輝いていた。

はがき随筆11月度入選

2008-12-18 16:25:47 | 受賞作品
 はがき随筆11月度の入選作品が決まりました。
▽伊佐市大口上町、山室恒人さん(62)の「11月の蚊」(21日)
▽鹿屋市寿7、森園愛吉さん(87)の「親近感の感動」(28日)
▽指宿市十二町、有村好一さん(60)の「農作業」(2日)──のの3点です。
 
 遠山に浮き出たイチョウが金色の象眼のように鮮やかに輝いています。11月は優れた作品が多く、優秀作を選ぶのに苦心しました。
 山室さんの「11月の蚊」</fontb>は、季節はずれの蚊の弱々しい羽音に、団塊世代の老後の不安を重ねた内容です。誰にでも訪れる不安を、身近な昆虫で表現した効果は光っています。太宰治に「哀蚊」という、老婆の悲哀を描いた小説があります。
 森園さんの「親近感の感動」</fontb>は、来日したベトナムの楽団の日本語の歌声に、昭和17年に「駐留」した往事の記憶がよみがえり、懐かしさを感じたという内容です。日本とベトナムとの関係は、植民地・侵略・戦争などと政治概念で把握されますが、人の感情はまた別の次元で働く心模様が表現されています。
 有村さんの「農作業」</fontb>は、荒れ放題の畑地の草刈りの時、なぜかトンボが集まってくる。子供のころ稲刈りする父親の周りにやはりトンボが群がっていた記憶がある。トンボは雑草から飛び立つ小さい虫が狙いらしい。細かい観察によって自然界の不思議と亡父の思い出と労働の心地よさが、見事に表されています。
 優れた物が多かった中から、いくつかを紹介します。
 武田静瞭さん「月下美人」</fontb>(3日)は、ご夫婦で上弦の月の光の下で2輪咲いた月下美人を楽しんだ内容。口町円子さん「指名される」</fontb>(22日)は、お孫さんのお守りで指名されるのはかけっこの時だけ、それでもうれしいものです。上野昭子さん「ありがとう」</fontb>(24日)は、60年前の教え子からの連絡に、重い病をおして出かけ30分だけ会えた内容。鳥取部京子さん「百円の思い出」</fontb>(7日)は、八つの時の夕方のお使いで、それを感心した知らない人に小遣いをもらった時の、その人の手の記憶が描かれています。竹之内美知子さん「バイキング」</fontb>(20日)は、娘さんと満腹するまで食べたバイキングの、罪の意識?から、ご主人の夕食にはサンマを一品増やした話です。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 係から
 入選作品のうち1編は27日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。


おーいお茶

2008-12-18 15:29:57 | はがき随筆
 妻が入院して70日がすぎた。
 2人の子供はそれぞれ家庭を持って遠くに離れ住んでいるので、何もかも一人でしなければならなくなった。しかもまだ現役の開業医で、仕事が急にふえ悲鳴を上げそうになる。
どちらかと言えば亭主関白ですごしてきたので、一人になると一層こたえる。看護師さんの加勢をもらっているからいいようなものだが、そうでなければ大変である。
 「おーいお茶」と言える妻がいることは有り難いことなのだと、今更のようにしみじみ思うこのごろである。しかし負けずに頑張りたいものである。
   志布志市 小村豊一郎(82) 2008/12/18 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はkymbさん

勝ちゃん

2008-12-18 14:14:24 | はがき随筆
 義弟の勝ちゃんは仕事好き、働き者の頑張り屋。夫婦で元気なころは肥育牛を20頭くらい飼っていた。先日、新聞で「わらこずみ」を見た。彼のもきれいなわらこずみ。底辺が大きく円すい形、私たちも時折手伝っていた。その時分は、伊佐の田んぼはわらこずみが林立だったが、今はもう機械こん包になって見当たらない。20年前に嫁が病死してからも、1人でおいしい伊佐米を作っていた。働きずくめの無理からか6年前にアルツハイマーを患い、入院の日まで働いたがついに6月、逝ってしまった。働き者の勝ちゃん。安らかな眠りを、冥福を祈る。
   伊佐市 宮園続(77) 2008/12/17 毎日新聞鹿児島版掲載

エッセイコンテスト

2008-12-16 11:52:46 | アカショウビンのつぶやき










 先日、鹿屋市図書館エッセイコンテストの表彰式に参加した。
「受賞作品をFMラジオで紹介したい」と図書館長にお願いしたところ、了承されたので、昨年度の受賞作品で番組に出演された方々のCDなど資料を持参しお誘いをさせていただいた。

 受賞者は小、中、高校と一般、合わせて28名。72編の作品から選ばれた、いずれも素晴らしい作品ばかりだった。

 このエッセイコンテストは1997年に始まり今年で12回目。
 市教育長のことばの中に
「書く力を伸ばし、みずみずしい感性や想像力を豊かにし、子供から大人まで、活字文化の裾野を広げていこう」とある。
 また図書館長の講評では
「物事をよく見て、じっくり観察し情景が目の前に浮かぶような表現をしよう。形容詞を多用せず自分の言葉で表現する努力や、文章のリズム感も大切にしたい。更に客観的に読んでもらうためにコンテストには、どしどし応募してほしい」と。

 表彰式の後、特選となった児童、一般の受賞者が作品を朗読し、読み聞かせグループの紙芝居などもあり、私も子どもたちと一緒に楽しいひとときを過ごしました。
 
 第1回の図書館エッセイコンテストに1度だけ応募して入選を頂いたアカショウビンですが、そのエッセイがMBCラジオで朗読されたときは感動しました。皆様にもその感動を味わっていただきたいと思っています。
でもこちらはド素人の私が作る作品ですから…申し訳ありません!

今年を振り返る

2008-12-16 11:47:34 | はがき随筆
 来年還暦を迎える私にとって今年は50代最後の年でした。一人娘に孫が生まれ、めでたくジイジになりました。何と言っても一番は毎日新聞への投稿デビュー。「はがき随筆」「男の気持ち」「みんなの広場」「毎日俳(歌)壇」と取り上げていただきました。加齢のせいか対人関係がおっくうになっていた私に、自己表現の新たな手段が見つかったのです。精神的に自信を失いかけていた時でしたので、まさに救いの神でした。MBCラジオのインタビューにも出演させていただき、あの人この人に感謝の年でした。心から、ありがとうございました。
   霧島市 久野茂樹(59) 2008/12/16 毎日新聞鹿児島版掲載

散歩に思う

2008-12-15 21:03:29 | はがき随筆
 木々はすっかり葉を落とし、風に吹き寄せられた落ち葉はまだ色を残している。冬を越せば木々にはまた若葉がもえ、落ち葉は土に還り次の命をはぐくむ。自然の摂理の中では、冬は希望の種を宿している。
 しかし人の世では──。連日、内定取り消しだの解雇だの、背筋が寒くなる話が聞こえてくる。突然職を失った人々にこれからどう希望を抱いて暮らしてゆけというのだろうか。他人事ではない。我が家の次男坊もただ今就職浪人中。「多分4月には採用されるはずだ」というが、採用決定の通知を見るまでは生きた心地がしないこのごろ。
   出水市 清水昌子(55) 2008/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

ジョウビタキ

2008-12-13 18:45:17 | はがき随筆
 台所の小窓から菜園が見える。朝げの始末をしていると「チッ」。声をかけられたような気がした。外に目をやるとインゲンの支柱に小鳥がとまり、こちらをうかがう丸い瞳に会った。アタマをピョコッと下げ人なつこいジョウビタキだった。
 もしかしたら去年、菜園を縄張りにしていたあのジョウビタキかもしれない。そう思うとひとしお可愛く「いらっしゃい。遠路お疲れ様」と訪問を喜んだ。
 翼に白斑をつけた美しい冬鳥は「紋付き鳥」とも呼ばれる。我が菜園で飛び交う姿をまた楽しませてもらえるかもしれないと、うれしくなった。
   出水市 年神貞子(72) 2008/12/13 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はmakato524さん

私の先生

2008-12-12 16:28:22 | はがき随筆
 小3の時転校してきた美恵子さんにその日、私は三角定規を貸してあげた。友だちになりたかったのだ。長い年月を経て彼女は今、私の習字の先生である。とある文化教室の広告に彼女の名前をみつけ10月、早速見学に行ったところ、書道誌の手本まで手がけている師範だったので驚いた。彼女の指導は聞いていて楽しい。リズミカルな筆運びでぐーっと伸びたり縮んだり、まるで器械体操のようで心地よい。子どもたちも魔法の言葉に乗せられて真剣だ。私のくせ字も次第に品のある字に変身するのだろう。この年で良い先生に巡り会えて感謝、感謝だ。
   鹿屋市 田中京子(58) 2008/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載

葉っぱのフレディ

2008-12-11 12:09:10 | アカショウビンのつぶやき





 数日前の激しい風雨に見舞われた朝、起きてみると台所がやけに明るい。
 冷たい雨と風に一晩中吹きさらされた、もみじが一夜にして裸になっていた。

 台所の窓を覆うように、大きく茂ったもみじは夏のあいだ、強い西日を遮ってくれる。少し暗くなるのが難点だけれど、少々の暗さなんて我慢がまん…。下には、びっしりと色とりどりの落ち葉が積もり、踏むのが惜しいほど。

 今朝は暖かい日差しのなかで、わずかに枝に残ったフレディたちが、風に吹かれながら散りゆくときを静かに待っている。
 私の大好きな絵本「葉っぱのフレディ」を思い出しながらカメラを向けると、またひとひら真っ赤な葉っぱが風に舞いながら足下に落ちてきた…。

感動の日

2008-12-11 10:00:42 | はがき随筆
 生前評価されなかった画家には興味があるが、神髄を理解する能力は僕にはない。だが奄美に移り住んでから描かれた作品からは精魂のようなものを感じる。あばら屋で一人ひたすら描くが売れるものではない。それでも絵の具が続く限り描く。波に削られ不規則に積み上げた本のような岩に立つアカショウビンの赤いくちばし、鋭い目を見る時、田中一村を目の当たりにしたようで涙が出そうな感動を覚える。島々を思わせるように水に浮かぶ常設館を振り返る時、一村はもちろん、世に出してくれた人、その間保存管理してくれた人たちに頭が下がる。
   志布志市 若宮庸成(69) 2008/12/11 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はBird Watchingさん

マナーアップ

2008-12-10 23:42:11 | かごんま便り
 「鹿児島の運転マナーは良くないねえ。ウインカー(方向指示器)を出さずに曲がる車が実に多い……」。県東部在住のWさんの述懐である。繰り上げ定年の後、温暖さにひかれ関東から移り住んで10年余。当地に来て唯一、気に入らないのがこの点なのだという。
 街中をぶらつく時に改めて観察してみた。確かに、合図を出さずに右左折する車がちらほら目に付く。いきなり曲がってくる車のドライバーを見ると、携帯電話を片手にハンドルを握っている人も少なからずあった。
 運転マナーといえば、以前から気になっていることがある。徒歩や自転車で横断歩道を渡る際、きちんと手前で止まらずじわじわ近づいてくる車の多さである。スピードを緩めるのはましな方で、中には早くどけと言わんばかりに眼前に迫る車もある。柄の悪そうなドライバーを想像して運転席を見ると、意外なことにごく普通の善男善女ふうだったりする。
 JR鹿児島中央駅の近くでこんな光景を目にした。横断歩道の信号が青になり、大きな荷物を持った観光客らしき老夫婦が渡り始めた。すると1台の右折車が猛然と突っ込んできて、あろうことか老夫婦にクラクションを浴びせかけた。驚いた2人は走って何とか渡り終え、車はほとんど減速しないまま走り去った。
 これは極端な例だが、当地のドライバーは歩行者や自転車などの交通弱者に対する配慮が乏しいように思う。地元の人は意識していないかもしれないが、転勤族などに聞くと同様の印象を持つ人が少なくない。士族が多かった土地だけに、かごや馬に乗った人が歩行者より優先という気風が染みついている、なんてことはないと思うが……。
 間もなく年末年始の交通事故防止運動(10日~1月10日)が始まる。スローガンは「年末年始マナーアップで事故防止」だそうだ。かくありたいものである。
 鹿児島支局長 平山千里 2008/12/8 毎日新聞掲載

郵便局の傑作

2008-12-10 17:44:21 | はがき随筆
 種子島郵便局の玄関横に来年の干支、牛のオブジェが立っている。竹や稲、木の葉、サトウキビ、空き缶などを活用し、いかにも手作りといった感じだ。局員OBの作だそうだ。アマチュアとは思えぬほど見事な出来映えである。西之表港から市街地に向かう道路がT字路にぶつかるが、その正面で出迎える。
 カメラを向けていたら、車の人が何を写しているのかといった目を向けて通り過ぎる。古き良き時代に思いをはせながら歴史の街を歩き、目にとまったものがあったら歩を止め、改めて眺める……そんな楽しさを思い起こさせてくれるオブジェだ。
   西之表市 武田静瞭(72) 2008/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は武田静瞭さん提供