はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

河内晩柑

2018-06-23 15:11:47 | はがき随筆


 3年ほど前に、熊本で「晩柑」を買ったことをはがき随筆に書いたが、今年はついに、名古屋でも販売されているのを発見した。
 名前は「河内晩柑」。熊本で買うものより粒がそろっていたが、ところどころ黒いしみがあったり、若干柔らかかったりの外観は同じ。みずみずしさとおいしさは変わらずまさに絶品。税抜きで98円の価格では、母のせりふじゃないけど「気の毒っか」。「ジューシーオレンジ」の名称で日本版グレープフルーツといった説明で販売していた。名古屋にも「晩柑」の販路が広がってほしい。
 名古屋市昭和区 佐々木信生(69)2018/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

先生は変わらない

2018-06-22 16:24:04 | はがき随筆
 還暦記念同窓会、中学卒業以来35年ぶりの再会である。地位や貧富など全く関係なく少年少女時代に帰るのである。年次や学校によって違いはあるが度々同窓会に呼ばれる。どの同窓会でもさうであるが、元生徒たちは「先生は昔とちっとも変らない」と口々に言う。白髪、老体の私のことである。
 何十年たっても昔の印象が現実の状態を超えてしまうのであろうか。私もずっと以前、何十年かぶりに旧師に出会ったとき全く同じ印象を持ったことを思い出す。この現象、固定観念とでも言うのだろうか。専門家に教えてもらいたい。
  鹿児島市 野崎正昭(86) 2018/6/22 毎日新聞鹿児島版掲載

旬の竹の子 

2018-06-22 16:17:28 | はがき随筆
 


 自宅の前庭に、斜面の竹山がある。山肌に今が旬の竹の子が土を盛り上げ芽を出している。
 多忙の毎日、掘り出す事を見過ごしていると、夫が夢中になって収穫に余念がない。いつの間にか数日で食べ尽くせないほどに。親戚や知人に食していただこうと、小屋の前に大釜を用意、枯れ木を拾い強い火力でどんどん煮炊き、皮を剥ぎ手間抜きして、即料理が出来るように仕上げる。そしてかねて届かぬ疎遠な所も、満遍なく気配りを。竹山のない民家も多く、大変喜ばれた。のんびり症の夫がこんな気力を要する早技が出来る事に心底驚いて、脱帽する。
  鹿児島県肝付町 鳥取部京子(78) 2018/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

旬を売る

2018-06-22 16:03:13 | はがき随筆


 一年を通して、近くの道の駅や、直売所に、季節の野菜や果実を出している。春が行き、五月晴れの日が続くと、こさん竹や黒竹が顔を出す。薪をたき、湯がきたての筍を店に並べる。
 「初物だけどいくらにつけたらいい」と聞くと「出始めだからこれぐらいではどうですか」と店長が言う。ちょっと高いから20円値引きしてラベルを張る。
 棚に並べる横で、お客さんの手がタケノコの袋を握る。お礼を告げると、調理方法を聞かれる。エンドウ豆との煮しめを勧めた。
 竹林の中で筍を探し、汗を流したことなどもう、忘れた。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(73) 2018/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

友人と公園

2018-06-22 15:51:55 | はがき随筆
 


昨春、クリスチャンの友人が59歳の若さで亡くなった。
 八代は430年前、小西行長氏の統治下で14の教会があったが、江戸幕府の禁教で多くは仏教に転宗、11人が八代麦島城近海で処刑され殉教した。その列福記念公園が家の近くにある。
 3年前その公園のデザインを教会、熊本高専建築科、地域の三者ですることになり、友人に誘われ私も参加した。教会の行事と地域の憩いの場としての機能を持つデザインができた。
 今年初めから工事が始まり先日完成した。今公園は私にとって思い出の地となり、彼女に語りかける場となった。
 熊本県八代市 今福和歌子(68) 2018/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

断捨離できない

2018-06-22 15:43:33 | はがき随筆
 20年前、長男の嫁のご両親との初顔合わせに少し見栄を張り洋服を買った。それから2.3回着たが、だんだん後ろのファスナーが上がらなくなり、やせたら着ようと衣替えのたびにタンスを出たり入ったり。今回やせるのをあきらめ、スカートの丈を膝下で切り、上着の身頃の脇下を20㌢出すことを思いついた。思いのほかよくできていて「まだ太っていいよ」といわんばかりに余裕、余裕。鏡に映った姿はビールだる状態だけど処分しなくてよかった。思い出の品が久しぶりに日の目を見た瞬間。だから断捨離できない。タンスは着ない服でいっぱい。
  鹿児島県阿久根市 的場豊子(72) 2016/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

母を想う

2018-06-22 15:36:20 | はがき随筆
 中学2年の夏休みに母が病死した。46歳という早い死であった。末っ子の私は愛情を受けた期間が兄弟の中で最も短かったわけだが、その代わり可愛がられて最も濃い愛情を注がれたのかもしれないと思っている。娘が母の年齢になり、その子らが中学、高校と進み、平穏に暮らしている様子を見るにつけ、母が残してくれた命の絆は歴然と後世に引き継がれているのだとつくづく思う。当時、今日のように医療体制が整っていれば母ももう少し長生きできたのでは、と残念でならない。既に66年が過ぎたが、今でも心に浮かぶのは、若き母の姿である。
  宮崎県都城市 堀之内明 2018/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

紅白のツツジ

2018-06-22 14:00:26 | はがき随筆


 もう10年以上もたつかなあ。植木屋さんが庭にツツジの株を植えてくれたが、これまで全く花が咲いたことはなかった。
 徳川家康は「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」という句を作ったが「咲かぬなら 
咲くまで待とう ツツジかな」とばかりに放置しておいたら、今年の5月になって初めて花が咲いた。それもひと株に咲く花の色は1色というのが常識と思うけど、紅白の2色である。とても珍しくて、毎日庭に出て眺めるのが楽しみであった。
 ツツジ君、いい目の保養をさせてくれてありがとう。待っていたかいがあったよ。
  熊本市東区 竹本伸二(89) 毎日新聞鹿児島版掲載

うちのサクランボ

2018-06-22 12:05:57 | はがき随筆


 居間からガラス戸を通して見える所に沈丁花、ツツジ、紫陽花、サクランボの木を植えている。
 特にサクランボは鳥たちを監視するためと思って植えた。
 そのサクランボの実が赤く色付いた。今日は雨が降っているのに傘をさしてちぎった。
 雨にぬれたサクランボは光っていた。1つ口に入れてみる。上あごと舌で押しつぶす。皮が破れて歯が種にあたる。甘い汁がのどを通る。
 父が桃を食べた時「うーん神様の味付けはうまいねー」と言った。うちのサクランボの「神様の味付け」も最高だった。
 宮崎県日向市 黒木節子(71)毎日新聞鹿児島版掲載

夏休みの思い出

2018-06-22 11:51:23 | はがき随筆


 もう60年も前の話。私は小学校3年と5年の夏。おばの住む東京で1カ月を過ごした。夜店、金魚すくい、銭湯、地下鉄、プラネタリウム、デイズニー映画、そして出来たばかりの東京タワー。群馬の田舎に住んでいた私には何もかも驚きで、銭湯では他人の石けんを使い、ラーメンはその時初めて知った。
 今、70歳にして心から思う。両親からあふれるほどに愛情を注いでもらい幸せな人生を送れたことを。虐待のニュースを耳にする度にそう思うのだ。またお盆の季節がやってくる。花と線香をもって墓参りに行こうと思っている。
 熊本市中央区 志田貴志生(70) 毎日新聞鹿児島版掲載

白百合の香

2018-06-21 21:32:25 | はがき随筆


 今年も白のエラブ百合が咲いた。虫の害にも遭わず、つぼみのまま切って仏壇にあげる。それが一斉に開花して部屋中に百合の香りが満ちて、どこか切ないような、それでいて幸せな気分を堪能した数日だった。
 この白百合が咲く頃に母の命日が近づく。64年前の母の葬儀に白百合が飾ってあったことを鮮明に思い出す。親戚の方が家に咲いたものを持参してくださったものらしい。
 母の年を30年以上も越えて生きていることに感謝しつつ、温暖化で百合の開花が少しずつ早まっていることに今更気づくのである。
  鹿児島県霧島市 口町円子(78) 2018/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載

母の日を過ぎて

2018-06-21 02:19:22 | 岩国エッセイサロンより


2018年6月19日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝

 私が結婚したのは、父が急逝した年の翌春だった。ほどなくして妻から「母の日の贈り物は何にしましょうか」と相談を受けた。
  「母の日」 「父の日」があることは知っていた。だが、両親への感謝の気持ちを贈り物に変えたことはなかった。「心配を掛けず、真面目に勤めることが何よりの親孝行」。それが信条だった。仕事に対する父の真摯な姿を見ていたために違いなかつた。
 初めての母の日の贈り物が何だったか、記憶していない。その後、妻の考えで毎年贈り物は続いた。
 母は20年余り私たちと同居して、最期は望み通り、妻に手を握られて入院先で亡くなった。
 贈り物のことを思い出したのは、母の三十三回忌を母の日の直前に済ませたからだ。長男の務めの一つを済ませたという以上に、今回は思うところがあった。
 私ら夫婦は、祖父母と父の五十回忌を無事済ませてきた。次は母の五十回忌。その時、私ら夫婦は90代半ばになる。長い時間の向こうにある。行えるかどうか何とも言えない。
 今回の務めが「最後の母の日の贈りもの」になるかもしれないと、少し弱気かもしれないが、そう考えずにはいられなかった。参列した身内も知らない母のことを妻は話していた。
 母の日、京都に住む息子と嫁の連名で花が届いた。息子から妻への初めての母の日の贈り物だった。
 わが家の母の日は、2代続いて長男の結婚から始まった。

    (2018.06.19 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

感性が大事

2018-06-21 02:17:18 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月20日 (水)
  山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 はがき随筆大会の帰りに、随友とバスに乗った。途中で3人組のユニークな客に出会う。会話に始まり、することなすこと全てがおかしく笑いながら眺めていた。すると、隣の随友がエッセーが書けそうだねとつぶやいた。そうだ。習ったではないか。この感性が大事なんだ。
 「毎日、のんべんだらりと生きていて、身の回りの出来事や物をただ見ているだけではエッセーは書けません。それらを丁寧に観察し。そこから何かを感じ取る心が必要です」
 感性を磨くことに気づかせてくれた随友に感謝。どんなエッセーを書いたのか楽しみだ。
(2018.06.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

自 作

2018-06-19 20:40:47 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月19日 (火)
  岩国市  会 員   上田 孝

 いろんなものを自作する先輩に1日弟子入りし紙芝居の舞台を作ることになった。師匠の作品がお手本。道具も拝借していざ開始。とはいえ、切る、削るなどの肝心なところは師匠が。私は板を押さえたりの手伝い気分でいたら、糸鋸は自分でやれという。刃をにらみつけ、肩に力が入りながらも何とか切りきった。結局、丸2日かけて完成。
 早速かみさんがボランティアの会で紙芝居を披露したら、仲間から舞台を絶賛されたらしい。師匠のお陰だが、今後、人に見せる時には「これ、作ったんです」と主語抜きで言おうと思っている。
  (2018.06.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)