はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いい匂い

2018-06-18 21:33:50 | 岩国エッセイサロンより


2018年6月18日 (月)
  岩国市  会 員   貝 良枝

 「はい、手紙。預かった」と娘は帰宅するなり、メモをくれた。「匂いから、おいしかったです」。私の作ったリンゴのケーキを「これ、絶対おいしいやつじゃないですか。匂いで分かる」と職場の後輩が喜んで食べたそうだ。
 匂いは食べる前から食味を倍増させると思う。1人暮らしの母へ食事を届けるより、そこで作った方が母の楽しみが増すようだ。「何ができよる?」と寝室からニコニコとやって来る。
 匂いからおいしいと喜んでくれたあの子や母、そして娘に今度は何を作ろう。いろいろな匂いが頭の中にたちのぼる。
  (2018.06.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

10年目の一番探し

2018-06-18 21:26:04 | はがき随筆
 女は50歳からと私の一番探しを始め、いろんな事に挑戦して今年10年目。これはと言うものも見つけられずにいる。家族はそれぞれ自分の熱中する事があり、それを羨ましく思う自分がまた悲しくなる。すぐに何にでも飛びついて三日坊主。それが私なのだと、開き直ったりもする。娘からは「自分が無いからじゃない」と厳しい一言。それも正しい。好きな事はある。映画に、花作りに、旅行と、ただみんな深くない。極め方が足りない。好きな事をより学び、深めていき楽しい時間にしよう。自分をよく見つめ直しチャレンジ。女はやっぱり60歳からだ。
 宮崎市 中嶋京子 2018/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

傘寿の同窓会で

2018-06-17 06:25:30 | はがき随筆
 「またその話」と笑う私に、彼は「修学生活で最も感激して忘れられんから」と言う。
 冬の学校行事のウサギ狩りで、長い長い網を山に張っていた。終了後その網を他校に返しに行く先生から「M君手伝ってくれ」と頼まれた。しっかり抱えて隣の学校まで歩いてついて行った――と。しんどい仕事だったろうになぜ感激したのか不思議がると「日ごろ目立たなかった俺が、N先生からは頼りにされている気がしたから」。
 N先生は私の次兄で今94歳。退職後は書道や肥後狂句、野菜作りを楽しみながらの余生を送っている。
 熊本県玉名市 大村土美子(79)2018/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載

みちくさを食う

2018-06-16 10:40:16 | はがき随筆


 「何して遊ぶ?」「う~ん」と真新しい服におおきなランドセルを背負ったピカピカの1年生がみちくさを食っていた。かわいいその姿に、ぼくらのみちくさがよみがえってきた。あっちこっち寄り道しながら道端の草を食べていた。みちくさといえばスイバ(スカンポ)である。若い茎を折って食べていた。味はすっぱいが、腹ペコのぼくらにはおいしかった。ともだちが、これをつけると「ウンメ」と、塩をつけて食べたこともあった。時間がゆったりと流れていた少年時代。〝みちくさ〟の楽しさは今でもぼくの心の奥底に残っている。
  鹿児島県南さつま町 小向井一成 2016/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

のるかな?

2018-06-15 22:30:25 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月12日 (火)

    岩国市  会 員   樽本 久美

 母が入居した老人ホームで、川柳を教えることになった。第1回の川柳教室。「作ったことがないから、できんよ」という78歳の男の人に「私が助けてあげるから大丈夫よ」と言うと「それじゃあ、やってみよう」と。1冊のノートを配り「思うことを何でも書いて」と言うと、始めは「難しいな」とか言っていたが、少しずつ手が動いてきた。
 そのノートを見て、私が「ここは、こういうことですか?」と聞くと「そうよ」との返事。少しヒントをあげると1時間余りで1人3句も作ることができた。
 早速、新聞の川柳に応募した。誰が載るかな。
    (2018.06.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

かたづけ

2018-06-15 22:28:21 | はがき随筆
 空き家になっていた母の家を解体することになった。父が20年前に亡くなってからずっと1人暮らしだった母は、「親は長男が看るもの」と、2年前から弟の住む福岡で暮らしている。
 軽トラを借り、義妹や甥も手伝いに来てくれた。食器棚の茶わん一つにも様々な思いがよぎりなかなか手が進まない。他の部屋を済ませて戻ると、台所はすっかり空っぽになっていた。
 30年余りの両親の暮らしが次々と軽トラに積み込まれていく。すっからかんになった六つの部屋に、母はもう戻れない。
 玄関先には、一回り大きくなったサツキが満開だ。
  宮崎県延岡市 梅田美穂子(61) 毎日新聞鹿児島版掲載

ヒロちゃん

2018-06-15 22:14:34 | はがき随筆
 4月2日、ヒロちゃんの孤独死を聞いた。愕然とした。東京の警察署でヒロちゃんと対面。「ヒロちゃん」と呼べば「何だよ兄さん!」と答えそうな表情だった。ヒロちゃんは妻の弟でどこか少年の空気を宿したひとり者の66歳。写真が趣味で三ツ峠から撮った富士山の雪景色の大作をもらっている。ネコが大好きで我が家のクレの通院を聞くと「おれが帰るまでに元気になっておれよ」と言っていたのに……。5月19日の航空券も入手していたのに……。「ヒロちゃん、どこへ行っちゃった?」。ヒロちゃんの死がいまだに信じられない妻と私だ。
  鹿児島県出水市 中島征士(73)2018/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

受け継ぐ暮らし

2018-06-15 21:57:50 | はがき随筆


 「ちょっと待って!」そういうと娘は後を振り返り、採り残しはないかと目を凝らした。
 子どもたちが小さかったころの光景だ。山菜採りの季節になると、ほほ笑ましく思い出す。その娘も今は3人の子の母となって長崎に住んでいる。
 「子どもの頃はツワの煮しめなどが多くて嫌だったけど、今は食べたくなる」と言い、次の休みには家族でワラビ採りに行くという。今春は私も夫と共に山菜を楽しんだ。
 季節を感じ山菜を楽しむ。そんな暮らしが子どもや孫に受け継がれている。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(69) 2018/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆 5月度

2018-06-15 15:07:36 | 受賞作品
月間賞に甲斐さん(宮崎)
佳作は平野さん(宮崎)竹之内さん(鹿児島)、岩本さん(熊本)

はがき随筆の5月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】24日「写真」甲斐修一=宮崎県延岡市
【佳作】2日「弟の涙」平野智子=宮崎市
▽10日「過ぎ去りし日」竹之内美知子=鹿児島市
▽20日「親子になっていく」岩本俊子=熊本県宇土市

 甲斐修一さんの「写真」は、いのちの尊さを感動をもって感じさせてくれる文章です。熊本地震2年の本紙企画に載った幼児救出の写真に対する印象が書かれています。幼児が救出され、それを抱く若い救助隊員たちの表情。そこに達成感と厳粛さと優しいまなざしとを見出したときの感激が描かれています。映像媒体としての報道写真のもつ効果は、たとえば少女殺害事件の可愛い少女の写真のもつ衝撃などからも知られますが、甲斐さんの文章には、報道写真にも匹敵する言語媒体としての文章の力を感じました。
 平野智子さんの「弟の涙」は、家族の中での役割について考えさせられます。父親の死後、母親が文字通り大黒柱として、一家の面倒をみたくれた。母親の老衰につれて、今度は弟がまるで自分が母親の親ででもあるかのように、世話をしてくれた。そして母の死。霊前で、弟は息子に還ったかのように、肩を震わせて声をあげて泣き、自分たちは肩を撫でてあげるしかなかったという文章です。それぞれが背負う役割の重さが実感されます。
 竹之内美知子さんの「過ぎ去りし日」は、咲き誇る庭のツバキの深紅の花を見ていると、二十数年前の御主人と息子さんとの間に起こった、小さな事件を思い出したという内容です。剪定を楽しみにしていた御主人が大事にしていた枝を、手伝っていた息子さんが切り落としてしまったときのことです。どうなるかと心配していると、ご主人の口から出た言葉は「すんだこっじゃ」の一言。思い出の中で御主人はまだ生きておいでのようです。
 岩本俊子さんの「親子になっていく」は、嫁と姑との関係が温かく描かれています。まったくの他人同士が、法律上親子となること自体が考えると不思議なことです。その法律上の部分が時間とともに薄れて、実子以上の話し相手になったという内容です。もちろん、双方の努力がそういう関係を作り上げたのでしょう。しかし、それを「時間ってすごい」と客観視されているところに感心しました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

忘れられない出会い

2018-06-15 14:35:51 | はがき随筆


 小3の息子と、久住山牧ノ戸登山口から急坂を登り一服していると、50年配の男性が、「よかったら同行させてもらえませんか」と話し掛けてかた。「どうぞ」と3人で山頂に向かった。
 昼食も3人で弁当を囲んだ。男性は、ポケットから写真を取り出し、「家内です」と私に差し出した。そして「もう私は世の中で恐いものはありません。家内を失ったときを思いますと……」と言われた。
 あれからもう随分年月がたったが、時折、男性の姿とあの言葉がよみがえってくる。あの方はどうされているのだろうか。
  熊本市北区 岡田政雄(70)2018/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

私の幸せ

2018-06-15 14:29:03 | はがき随筆
 21歳の一人娘からプレゼントをもらった。ブラブラ揺れるタイプの赤いスイカと黄色のミカンのイヤリング。あまりのカラフルさと可愛さに、これは何かのワナか? とちょっとひるんだが、心の中では欣喜雀躍。
 夫を7年間介護していたときから、ずっと紺か黒のカーディガンに白シャツ、Gパンがわたしのスタイルだった。それをやめさせたのも娘だ。もっと肩の力を抜いて、オシャレも人生も楽しんで! とアドバイスをくれる若い娘がいて幸せと思う。45歳で娘を生んだとき「宝子ですよ」と言われた意味が、今やっとわかった気がする。
  鹿児島市 萩原裕子(65) 2018/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ケーキ作り

2018-06-14 15:18:49 | はがき随筆


 高校2年の孫娘が1泊することになった。訪れる度、勉強の合間を縫っては気分転換にと料理に挑戦している。まんざら嫌いでもなさそうだ。その日は運良く、本人の誕生日でもあった。2人でバースデーケーキを作った。絶好のアシスタントを従え、作業もはかどった。スポンジを焼き、生クリームをホイップし、お決まりのイチゴとろうそくを飾って完成。今どきの子らしく即、スマホで撮っていた。仕事で忙しい娘に代わって、いつまで続けられるのか? 時間の許す限り、一緒に料理を楽しみ、食育に参加できればと願いながら皆でおいしく頂いた。
  鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(68) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

散歩で人生を考える

2018-06-14 15:04:44 | はがき随筆


 散歩している際、いろいろな人とすれ違う度にその人たちの人生のことを考えてしまう。若い人だったらどんな未来を夢見ているのだろう。カップルだったら将来結婚するのかな? 夫婦の場合はどんな風に子どもに接し育てていったのだろう。お年寄りの場合は果たしてこの人は幸せな人生を歩んできたのだろうか。それとも辛い人生だったのだろうか? などなど……。
 空想癖のある私にとって、人とすれちがうということはその人の過去・現在・未来のことを想像することである。それはつまり自分の過去・現在・未来を考えることなのかもしれない。
  宮崎市 谷口二郎  2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

モグラたたき

2018-06-14 14:51:34 | はがき随筆
 友人が病気を宣告され入院した。見舞いに行くと、管につながれた痛々しい姿を目にした。
 医学・薬学の発達で治療効果のある薬剤が開発されているが副作用はつらいようだ。むくみには利尿剤、吐き気やかゆみにも薬が処方される。
 治療薬に抗し次々に現れる副作用にはピンポイントで薬剤が投与される。これを聞くと西洋医学はどこかモグラたたきに似ているようにも思える。
 治療は副作用との闘いでもあるという。頭を出し続けるモグラに苦しむ友人の姿を思い出すにつけ、今後の治療薬の研究開発に希望を託したい。
  熊本市北区 西洋史(68) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

桜に狂う

2018-06-14 12:59:34 | はがき随筆


 今年の桜は最高だった。開花してから散りゆくまで風も吹かず、雨も降らず暖かで穏やかな日がみごとに花を守り抜いた。
 桜の花は日本人にとって、とても特別なものだと思う。家族や友人、恋人と、また同じ職場の仲間と花を見ながら、お互いの育んできた関係性を思い、感じ合うものだと思っていた。
 満開の花見に早く行きたかったが忙しくて行けずにいた。その間、夫は連日あちこちの桜を見て回っていた。帰って来た夫に「明日花見に連れて行って」と頼んだ。夫の返事は「ノー」であった。私の体中の血が逆流し何かが狂い始めた。
  鹿児島県出水市 塩田きぬ子(67) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載