
初夏の都心。若葉が心地良い葉陰を作る。古い聖堂の開け放たれた窓から、白いカーテン越しに柔らかい日が射す。
純白のドレスにベールをかぶった花嫁をエスコートして、兄が一歩一歩祭壇の前へ進む。口を一文字に結び緊張が伝わる。歩き方がロボットのよう。吹き出したくなるのをこらえたらこみ上げてきたのは涙だった。
亡くなった父にそっくりだ。姪は父が抱いたただ一人の孫。死期を悟った体で、赤子を抱いた。生きていたら喜びをどう語っただろう……。
娘を花婿へ委ねる兄の後姿が遠い日の父と重なって見えた。
宮崎県日南市 矢野博子(68) 毎日新聞鹿児島版掲載