はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

長生きしましょうよ

2018-08-09 17:56:48 | はがき随筆
 近くの田んぼも黄金色に実り始めた。通りかかると年老いた男性が声を掛けてきた。「猪がすぐ横の林にすみ着き、小さな谷を越えて稲を荒らしにやって来る。倒れた稲をスズメが食べつくす。もう手におえない」。訴えずはおれない様子だ。
 腰を曲げて、働く奥さんの姿も長く見ない。「認知症が進み施設に預けた。農業経験もないのに良く働いてくれた」。涙を浮かべながら彼の話は続いた。
 私もこのところ猛暑に投げ出し加減だった。急に我に返った。「ぼちぼち、できるひどのことをやって長生きしましょうよ」。ほんのり笑顔で別れた。
  宮崎市 川畑昭子(74)2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

誤配

2018-08-09 17:41:09 | はがき随筆
 8月3日の朝のこと。いつものように郵便受けに新聞を取りに行ったが、その新聞はいつもの毎日新聞ではなかった。誤って別の新聞が入っていたのだ。
 忙しい時間とは思ったが、8時過ぎに電話してみた。その対応に驚いた。電話してわずか15分後、マンションの部屋まで持ってきてくれたのだ。その中に「連絡電話料」として10円玉まで入っていた。何という対応、何という配慮。これぞ、ザ日本。その日も後から猛暑。それでもその日私の心には爽やかな風が吹いていた。新聞販売店の皆様、ほんとうにありがとうございました。仕事とはかくありなむ。
 熊本市中央区 志田貴志生(70)2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

健気に振り子時計

2018-08-09 17:10:36 | はがき随筆


 リビングの振り子時計を購入したのが、50年以上も前になる。当時は電池時計がはやりかけていたのに動力源のゼンマイ構造が気に入って、時代に逆行するが振り子時計にこだわった。
 あれから半世紀、「ネジ」さえ巻けば狂うことなく、カッチカッチとリズミカルに「時」を刻み続けてきた。近年、正確な「時」を示さなくなった。が、それもゼンマイの劣化のせいだと決め付けている。
 長い間の働きを労いつつ、今は第一線を電波時計に譲って、隠居暮らしを許しているのに、それでも健気にボンボンとアバウトな時刻を打ち続けている。
 宮崎市 日高達男(76) 2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

収穫の楽しみ

2018-08-08 19:08:25 | はがき随筆


 タケノコの皮、卵や枝豆の殻、料理の際に出る野菜の生ごみがレジ袋にたまると庭のあちこちに穴を掘って埋め、その度ごとに土をかぶせているが、1カ月もたつと跡形もなく消えて生ごみは土に返っている。
 生ごみの中からサトイモの茎が伸びて葉が広がり、別の場所でツルが伸びて黄色い花が5個ほど開いているのはカボチャだろうか。生ゴミが肥料になっているのか、元気がよい。
 自宅は路地の一番奥だから雑草だらけの庭も人目につかず気にすることはない。秋風が吹き始めるころに収穫するのが楽しみだ。
 熊本市東区 竹本伸二(90)2018/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

芋の草取り

2018-08-08 18:58:25 | はがき随筆
 終戦後、我が家に旧航空隊跡の畑が2反歩手に入った。両親は非常に苦労して開墾し、芋を作っていた。私たちもその草取りを暑い中行った。たくさんの草と長い畝で大変だった。
 当日はアイスキャンデーを自転車で鈴を鳴らしながら売っていた。遠くに鈴の音を聞くと欲しくて走って行って買った。そのおいしかったことは今でもはっきり覚えている。
 あの畑にはその後行かなくなったが、農地解放でなくなったのか親も教えてくれなかった。今その畑には家や小さな工場が建っている。親に聞いておけばよかったと悔やんでいる。
  鹿児島県出水市 畠中大喜(81)2018/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

真夏の夜の夢

2018-08-08 09:20:01 | はがき随筆
 厳寒、猛暑、豪雨、竜巻、よそでは山火事。どれも「数十年に一度」「今までに経験のない」と前置きがつく。だが多発する異常気象を目前にしても、地球温暖化など信用しないと公言する人もいる。要は金をもうけ、豪奢贅沢、便利であれば環境などどうでもいい。そんな人たちは金を食べるし飲めもする。空気として吸える。驚く健啖の化け物。驚がくする方は思考停止し、側杖を食う前に、お先にごめんとおさらばか。弱肉強食。わずなか餌を奪い合う戦争ってなことに? ああ妄想をと笑えるけれど、SFも今では現実ってあります。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(63) 2018/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

肥薩線真幸駅

2018-08-08 09:07:10 | はがき随筆


 「ちょっと寄りませんか?」車で仕事に出た昼休み、同僚がハンドルを切った真幸駅。桜吹雪につつまれていた。熊本県八代から鹿児島県隼人までのJR肥薩線28駅のうち、ただ一つ宮崎県に
ある駅だ。古い駅舎には郷愁がある。遠い日の別れや再会、涙や笑顔、さざめき。
 漢字は違っても私と同名の駅があるとは知らなかった。ホームの駅名標にひらがなで「まさき」とあり、横に「幸せの鐘」がある。幸せ願い鐘を打つ。ちょっとの幸せは一つ。もっとの幸せは二つ。いっぱいの幸せは三つ。乗客でない私はカンカンと小さく二つ打った。
 宮崎市 柏木正樹(69) 2018/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載

孫に納得する

2018-08-08 08:58:58 | はがき随筆
 大阪で6月、大地震があり、驚愕する人々。一瞬の時間差が運命を左右する。私の弟孫が今年大阪でピカピカの新1年生。入学前に私宅を訪問、下車して大喜びでイノシシのごとく庭を走り回る。車道の方は危ないと案じた事も。今では毅然と登校。教室で落ち付きあるかな。
 地震の朝、「行ってきます」と家を出たそのとき地面が揺れ「何これ」と自宅へ急ぎ避難。大声で「怖い」と。時折鹿児島のじいじが「元気で学校行ってるか」。即答「決まってるよ」。「勉強の方は?」「やってるよ」。そのうち孫から叱られる日がくるかもと皆で納得。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子 2018/8/4 毎日新聞鹿児島版掲載

幼子のように

2018-08-03 14:58:19 | はがき随筆
 
  
 いつになく朝、目覚めて外へ出ると朝焼けの瞬間だった。緑の水田が彼方まで広がり空気がひんやりとして清々しい。それが良かったのか、居間へ戻るとしばらくして東側の床の間の4枚の障子に朝日が当たり、そこに庭のもみじの木が映し出されてまるで影絵のようだ。さらに隣の水田のみなもが反射して光がもみじの影と美しく調和している一瞬、木から神々しい輝きを発しているようにみまがう。今まで、気にとめる事もなかった。忙しかった子供たちの弁当作りも遠い夢のようだ。今私は仁時間の束縛もなく幼子の歩みのように朝を楽しむ。
 宮崎県都城市 蔀なおこ(56) 2018/8/3 毎日新聞鹿児島版掲載

とんち話と今

2018-08-02 19:39:29 | はがき随筆


 先日「彦一とんち話しオーキング」に参加した。彦一は江戸末期に八代に実在した人で、墓が八代の寺に今もある。
 予習で図書館に行くと、彦一コーナーがあったが古ぼけた本ばかり。調べると児童本はほとんど絶版で、熊本県出身の児童文学作家、小山勝清氏の文庫本だけが現在も出版されている。
 彦一は一休、吉四六とともに三大とんち人の一人。お殿様や侍や大人たちの理不尽な言動をとんちでやっつけ、庶民をスカッとさせるとんち話は、今の子どもたちには人気がないのか。とんちの知恵はいつの世にも通用すると思うのだが。
 熊本県八代市 今福和歌子(68) 2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

花育て

2018-08-02 12:41:27 | はがき随筆


 ゼラニウム、松葉ボタン、ベゴニアが色鮮やかに咲き誇ったのもつかの間、長雨に打たれ元気がない。花といえば、母も大の花好き。米のとぎ汁は捨てずに水やりに使っていた。そのかいあってか、花の絶えることはなかった。その頃、足の不自由な母を気遣い、節水も程々にと思っていた。それが、いつしか自分も母と同じことをしていた。笑うしかない。丹精込めて育てた花は期待に応えてくれる。庭の片隅にひっそりとたたずむ青色のアジサイ。葉は水をはじき、時折吹く涼風に花は優しく揺れ、なぜか遠くの施設の母と重なり思いを馳せたのだった。
 鹿屋市 中鶴裕子(68) 2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

茜雲

2018-08-02 12:23:43 | はがき随筆


 82年間、いろんな形・色の雲を見てきた。今日、電車の窓から、どんよりした雲の切れ目の上に輝く茜色の雲を見た。あ、天空は夕陽に染められている。 隣席のお年寄りも気付かれたらしく「素晴らしいプレゼントですね」と言われた。ふたりして空を見上げ、後方に去りゆく茜雲を見送った。
 近ごろは「スマホ」なるものがはやり、若者たちは空を見上げたり風景に眼をやる様子がない。同席していても友達同士めったに会話しない。ただひたすら小さな画面を動かしている。
 日本がすこし心配に思えた短い電車の旅であった。
  宮崎県延岡市 窪田恵子(82)2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

大好きな余禄

2018-08-02 12:17:16 | はがき随筆
 体調不良が長く続いたが、平常に戻りつつある。早朝散歩を何とか継続したお陰かもしれない。東の空、次第に顔を出す太陽。わずかな雲までも真っ赤に抱き込み「ああ今日も灼熱地獄か」とため息が出る。ラジオ体操の後帰宅し、シャワーを浴び朝食。一日の始まり。
 まず新聞を広げ、最初に目を通すのは「余禄」。ニュースに関する記事を、歴史やことわざから引用、分かりやすく解説され、知識に乏しい私でも楽しく読む。日々素晴らしい文章に感嘆する。猛暑の中毎日届けていただく配達員の方にも感謝だ。
  熊本市中央区 原田初枝(88) 2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

仕方ない

2018-08-02 12:09:04 | はがき随筆
 ドン、ペリッ、ドン! ん?
 音を聞いて始めて車を電柱に当てたことを知る。車体は大きな傷とへこみ。生け花の先生の駐車場の間口は車2台分あり、入り口の隅に電柱は建つ。
 私を含め生徒6人と先生で平均76歳。事情を話した。「考え事をしたらだめよ」「電柱は黒ずんだだけでよかった」「人身事故でなくてなりより」「お金持ちはお金を使うようになっているの」。座布団から降りた私は「同情はいりませんのでご寄付をお願いします」と頭を下げると、笑い声があがった。
 ほぼ食費3カ月分の修理代に夫はまたあきれていた。
 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(69) 2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

桃とキリギリス

2018-08-02 11:55:17 | はがき随筆


 庭の桃の木に実がなり始めたので、妻が見に行ったところ。桃の実に細長いものがへばりついていると言う。正体はキリギリスだった。
 桃の実に顔を突っ込み、それは美味そうに食べている。無理に引き離すのも不憫などと思っていたら、駆除するタイミングを逸した。彼はそれをいいことに、桃の木に居座り続け、一週間ほどであらかたの桃に穴を開け尽くすと、隣の藪に消えた。
 彼が穴を開けた桃の一つを切り分けて家族で食べた。甘さは控えめだが酸味があり美味かった。来年のご逗留は遠慮申し上げたいものだと思った。
  宮崎市 福島洋一(63)2018/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載