はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

笑顔で挨拶

2021-02-24 22:21:12 | はがき随筆
 午後3時過ぎ、郵便物投函のため局へ。毎月1回、書林誌と直筆コピー6枚1組に手紙を同封し、兄弟、姉妹、書道生徒さん方に。直筆は自分勉強。本が届いたその夜、楷、行、草、か なを仕上げて、投函のため翌日徒歩で農道を急ぐ。寒風が全身に吹き胸苦しい。 いつまで書けるか、脳と右手に祈る。
  帰路、小中学生が元気いっぱいの姿で自宅へと向かいなが ら、私に笑顔の挨拶。「おりこうさんたちね」と返す。中学の兄ちゃんも「さようなら」と。つい先ほどまでこたつに曲がっていた私に爽快さを振りまいてもらい、元気が湧き上がった。
  鹿児島県肝付町 鳥取部京子(81) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

丑年の初笑い

2021-02-24 22:08:59 | はがき随筆
 コロナ禍の息抜きは温泉に入ることぐらいで、小春日和のある日いつもの温泉へ。平日は人もまばらで貸し切り気分を味わえた。待合室で帰るぞ!と夫の低い声。車に乗るとモオウ!という夫は丑年、私は苦笑しながらどうしたと聞くと、洗い場はがら空きなのに密を避けずに若い人が隣に座り、場所を変わる勇気もなく並んでいたと......。
   私はその姿を想像して笑い転 げた。ところが夫は眼鏡を押し上げ、にやにやしながら若い女性ならまだしもとさらっという。え~その年でよくいうよと
言い返したが、夫は聞こえないふりをしてアクセルを踏んだ。
 鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(79) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載



東京五輪今昔

2021-02-24 21:53:57 | はがき随筆
  1940年、当時小学4年の私は民族の祭典という映画を観た。4年前のベルリン五輪の記録映画でとても素晴らしくて「日本でも五輪ができたら良いな」とちょっと羨ましかった。
 この年は皇紀2600年に当たり皇居前で11月10日に記念式典が天皇皇后ご臨席のもと催されて父も参列した。日本は世界で660年古く建国されたと聞かされてドイツよりずっと素晴らしい国だと得心した。実はこの年東京五輪が開催される筈が戦争のため返上されていたことを全く知らなかった。 東京オリ・パラがコロナで開催が危ぶまれる今、昔を思い出している。
 熊本市中央区 増永陽(90) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載
 

プレゼント

2021-02-24 21:45:41 | はがき随筆
 買い物から帰った高1の孫が 「これ開いて」と包みを渡した。 ピンクのアイピローだった。正月、台所に立ちっぱなしで4人 の男たちの注文に応えた私を見 て、心するものがあったのだろうか、夜はゆっくり休んでの意味だったか。 
 孫が幼稚園児の頃、2人でデパートのアクセサリー売り場に行き「ママに」と物色する姿をスタッフがほほ笑んで見ていた。いま背丈も190近くあり、相も変わらず減らず口をたたいている。
 予想もできない子どもたちの未来、強く生きてほしいと思う。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園征子(79) 2021.2.21毎日新聞鹿児島版掲載

立春大吉

2021-02-24 21:38:20 | はがき随筆
 いい日旅立ち。本日立春だ。 あの日があって今日がある。東京在住の孫が、長野県へ初出張ときいた。
 あの日とは「先へ進めない」 と薬科大へ退学届を出し、実家に戻った日のことだ。娘が孫を私の家へ連れてきた。かねて私は「この子は文系」と感じてい
たので、「俊ちゃん」と名を呼 んで、一発くらわせた。
 入り直した文系の大学で充実 した4年を過ごし、事務職とし て採用され、本日の出張だ。
 孫に手をあげたのは、終生忘 れ得ない。思い出すと涙があふ れる。あの日があって今がある。 2月は彼の岐路だった。
 宮崎市 田原雅子(87)  2021.2.20  毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度

2021-02-24 17:27:11 | はがき随筆
月間賞に杉田さん(宮崎)
佳作は東郷さん(鹿児島)、楠田さん(宮崎)、黒田さん(熊本)

 はがき随筆1月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】30日「頑張れ蕾」杉田茂延=宮崎市
【佳作】27日「訪れ」東郷久子=鹿児島市
▽29日「炎の力」楠田美穂子=宮崎県延岡市
▽30日「みいつけた」黒田あや子=熊本市

 令和3年1月。新型コロナウイルス感染症が終息する気配はまだ見えませんが、日々の生活も行事も新しい対応で新年を迎えざるを得ませんでした。その中で巡り来る季節の確かさや自然の素晴らしさの投稿が多く、楽しむことができまし た。
 外出もままならない自粛の日々の中、庭の梅の蕾を探す杉田さんの「頑張れ蕾」。寒さが花芽を育てるという。今年の寒波もやがてくる開花を期待させ、ゴマ粒大の蕾が一度きりの舞台を慎重に待つ......。蕾の神秘さや健気さを応援の気持ちを込めてつづられた。蕾も膨らみ、満開の花舞台が楽しみですね。
 東郷さんの「訪れ」もまた庭からの観察。朝日が届く頃花の蜜を求めて来る小鳥たちの様子に魅せられました。「日の光を揺すりながらフェンスへ降りてくる」。美しい表現ですね。小鳥よりも少し大きい鳥を「中鳥」と名付けて見守る、久子さんの自然とのかかわりはかけがえのないものなのですね。
 楠田さんの「炎の力」。友人と夫婦でキャンプに参加したひとときの情景。たき火の揺らぎの変化を見つめながらうたた寝をする筆者。目覚めたときに思いを吐露している夫と友人の会話を思いもかけず聞くという「炎の力」を実感。「まるで言葉を火にくべるかのように。炎はゆっくりと心の奥の塊を溶かす」。満天の星のもと、ぜいたくな良い時を過ごされましたね。
  「みいつけた」。黒田さんの住む熊本の新年は雪の舞う日が続いたと。寒いのにさくら草が大鉢の中でみずみずしい若草色の葉を思いっきり伸ばしている。「おはよう」の声かけをするとまあるい 蕾を見つけた。 葉の間 から外界を見上げている。先の見えない不安な非常時でも、雪雲が 流れ太陽が一瞬顔を出すと冬の居間が温室のようになる。真冬の厳しさのなか春を待つあや子さんの気持ちがまっすぐ伝わってきま す。
 緊急事態宣言で自粛の日々を過ごした私たちのまわりにも四季は巡ります。 芽吹きの春はもうすぐです。
 日本ペンクラブ会員 興梠マリア

◆係から
 杉田さんの月間賞を巡るインタビューが28日 (日) 午前7時10分からのMRT宮崎放送ラジオ番組「潤子の素敵に朝!」で放送予定です。「宮崎ほっとタイム」(水曜午前9時15分から5分間)の中でも、掲載作が朗読されることがあります。
 また、MBC南日本 放送ラジオでも、掲載 作が27日 (土) 午前9 時半ごろから朗読され ます。「二見いすずの土曜ラジオ!」のコーナー「朝のとっておき」 です。



時間

2021-02-24 16:48:59 | はがき随筆
 81歳の虚弱な母が102歳の気丈な祖母を看るのは易しくなかった。5年前、度重なる母の疾患を機と見、頑として私は祖母を老人ホームに預けた。自由人の父に加え近隣には親族も多く、家付き娘の母の労苦は並大抵でなかった。独りになりたいとつぶやく声が耳に残る。
 人生100年時代。日々私は誰かのために時間を費やし、一方で誰かの時間をいただいて生きている。昨年父が大病を経て別のホームに入所した。送り出す側に付きまとううしろめたさを内に込めて、母は離れで安穏にひとりを過ごす。ようやく母 が時間を貰う番だ。
 熊本県八代市 廣野香代子(55)   2021.2.19 毎日新聞鹿児島版掲載

2020年 鹿児島県はがき随筆

2021-02-23 16:23:39 | はがき随筆

年間賞に田中さん(鹿児島市)
 毎日新聞「はがき随筆」の2020年鹿児島年間賞に、鹿児島市の田中健一郎さん(82)の「妻の入院」(1月2日掲載)が選ばれた。救急車で運ばれ心臓手術を受ける妻の緊迫した様子と、案じながらもやがて自宅に戻って一人で慣れない食事の支度をする夫。医療と家事という意外な組み合わせが夫婦の一大事を浮かび上がらせ、独特の余韻を持つ作品に仕上がった。鹿児島県内からの投稿作品を対象に、石田忠彦・鹿児島大名誉教授が選考にあたった。

軽やかな感じ漂う文章

選評
  月間賞と佳作のうちで、宇都晃一さん「閑話休題」、清水昌子さん「コロナの時代に」、塩田きぬ子さん「元気なおばちゃん」、田中健一郎さん「妻の入院」 が印象に残りました。年間賞には「妻の入院」を選びました。
 宇都さんの作品は、床屋で見せられた後頭部のわずかに残っている白髪に、ややユーモラスにご自分の人生を語らせ、残りの人生に対しても瓢然と構え
ておいでのところが、心地よい文章になっています。
 清水さんの作品は、 コロナ禍の時節柄、施設のガラス越しにわずか5分間しか面会できなかった母親の、「もう帰るの」一言は、大げさでなく人生の悲哀を感じさせます。
 塩田さんの文章は、92 歳のご婦人にお店でマスクを差し上げた ら、お礼にたくさんの イモをもらったという内容ですが、帰って行 かれる後ろ姿に人生の手本を感じたと書かれ ています。私たちの生活のなかで、いつ頃までか確かに生活の規範であった礼儀という美 徳を、懐かしく思い起こさせる文章です。
 田中さんの文章を選んだのは文章に漂う軽みのためです。奥様の急性心筋梗塞の手術という大事はむしろさらりと書かれ、その後で筆者に降りかかってきた家事の大変さは、やや大仰に書かれています。このような対比によって、文章全体からは軽やかな感じが漂いますが、それが逆に、 書かれた内容の深刻さを強く印象づけています。このような文章に 漂う雰囲気を、文章の軽みとして評価しました。
 鹿児島大名誉教授 石 田 忠彦

 
「人との出会い大切に」
   田中健一郎さん
 大学卒業後、主に東京や福岡でサラリーマン生活を送った。 はが き随筆の初投稿は、退 職後に古里鹿児島に戻った後の2012年。
身の回りの出来事だけでなく、歌手の並木路子さんや作家の佐木隆三さんら著名人と出会った思い出など、75作品が掲載されている。
 実は毎日新聞の人気コーナー、仲畑流万能 川柳の常連でもある。 「手品で見せたい相 手さがしてる」(1993年)以降、掲載は 通算192句に上る。 今も一日4句を目標に 投稿を続けている。
  はがき随筆の原稿作りのコツは、柔らかい言葉遣いと締めくくりの一文。積極的に多く、の人に話しかけて作品につなげることを心がけている。「人との出会い大切に面白い 話をたくさん聞かせてもらって投稿を続けていきたい」と語る。
【西貴晴】 

 ◆係から
 はがき随筆など毎日新聞への投稿ファンでつくる「毎日ペンクラブ鹿児島」は、会員の投稿作品から選ぶ 第12回ペンクラブ賞に、鹿児島県いちき串木 野市、奥吉志代子さんの「改革は起きる?」 (昨年6月20日掲載) 
▽霧島市、口町円子さんの「カット魔」(9月3日掲載)を選んだ。
 奥吉さんの作品は、働き方改革に絡めて夫 婦の役割分担の様子をユーモラスに描いた。 口町さんの作品は、すき鋏を買った息子と 調髪相手となった孫のやり取りを心温まる家 族の一コマにまとめた。

Tさんのおかげ

2021-02-23 15:35:37 | はがき随筆
 昨秋、急性緑内障を患い、一 段と視力が落ちた。体力も気力 も減る一方。先々の心配をして は落ち込む日が多い......。
 南九州市在のTさんから電話 で「声楽の出張レッスンをお願いしたいけど、家は遠いのであなたの家でさせてほしい」。 
 ドイツ留学帰りの若手テナー声楽家。うっとりするほど艶や.かで伸びやかな歌声。久しぶり に心華やぎ、老い先短いことも 忘れてレッスンを申し出た。コロナ感染予防にマスクをつけて 思いっきり声を出す。 クヨクヨ 気分も吹き飛んでいきそう。芸術性豊かなTさんとレッスンの 度に会える楽しみもできた。
鹿児島市 馬渡浩子(73) 2021/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載 


だんご汁の味

2021-02-23 15:26:08 | はがき随筆
 大分県の佐伯に住んでいた母 は、小雪がちらついていた明け 方に旅立った。 あの日から十七 回忌を迎えた。
 父を見送った2年後に88歳に なった母と、今の私の年齢が重なる。ひとり暮らしをはじめた母を気遣いながら、時折訪ねては食事をするのが楽しみで、料理をしている後ろ姿にほっとしたものだ。
 思えば、戦後の食糧難時代に おなかを満たしてくれただんご 汁は思い出の一品。故郷三池の味という。イリコのだしに根菜類を入れたしょうゆ仕立てで素朴な田舎のだんご汁である。 懐 かしい母の味が郷愁をそそる。
 宮崎県延岡市 島田葉子(88) 2021/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載

2020年 熊本県はがき随筆

2021-02-23 10:06:30 | はがき随筆
年間賞に野見山さん(熊本市)

 毎日新聞「はがき随筆」の2020年熊本年間賞に、熊本市の野見山沙耶さん(20)の「手を握る」(9月20日) が選ばれた。 熊本県内から投稿され20年に月間賞・佳作となった計15点から、熊本大名誉教授の森正人さんが選考した。

書く営みで考えを確かに
 隣国の新型コロナウイルス感染症のニュースで明けた2020年は、世界的な流行が収まらないまま暮れました。類を見ない速さで開発されたワクチンの接種が今のところ唯一の光明で、社会全体が不安と困難に閉ざされています。とりわけ医療・介護の現場で働いている方々の苦労は、並一通りではありますまい。
 はがき随筆の話題も、この感染症に関するものが目につきました。一見無関係であるかのような作品にも、その影を感じることがたびたびありました。また、昨年は熊本県南部が大きな災害に見舞われました。さほど被 害のなかった地域で も、避難や後片付けに 心を砕いた所が多かったようで、その経験を 綴った作品も目に付き ました。投稿者のなかには太平洋戦争を経験された方々もあって、 終戦記念日、開戦記念日の前後には、戦時下を回想する作品にたびたび出会います。
 それらは、選び取った一事をもって鮮烈に印象づけるものあり、深く静かに心にしみわたらせるものあり、それぞれに味わい深いものであったと思います。
 月間賞3編、佳作2編のうちから、熊本県の年間賞に選んだのは、9月度月間賞の野見山沙耶さんの「手を握る」。随筆と呼ぶにはやや重いテーマかもしれませんが、人の命と心、それに医療という仕事に向き合う姿勢が真率に表現されていると感じました。しかも、書くという営みが考えを整理し、より深く確かなものにすることを如実に示す好例。
  森 正人 

体験から看護師志す
   看護助手として働いていた病院でその男性は服のすそを引っ張り、筆談を求めてきた。身のまわりの世話で多多く接していた高齢の患者。専用のノートには「きつい」「いつ死ねますか」。時には「ありがとう」の言葉も。
 「死なせて」のメッセージ後、危篤となった。男性を見つめ5分ほど手を握り、心が通っていたと思えた。「ちゃんとコミュニケーションはできなかった が、話すだけがコミュニケーションではないと知ることができた」
   現在、看護学校に通 う。国語の授業の一環で随筆に投稿した。医療の道を志したのは留学中の経験だ。 緊急搬送され、会話もままならない自分に親身に接してくれた看護師にひかれた。自身も海外の人を助けられるようになりたいと考えてい る。 【山田宏太郎】






老いとの出会い

2021-02-16 11:07:34 | はがき随筆
  今年の正月は、娘が祖父から もらった羽子板をかざった。それを見た妻が「娘はもう46歳」と言った。日ごろ、娘の年齢など頭にない私は驚いた。
 私が45歳だった頃を思い起こすと、つい数年前のような気が する。もう30年近くも経っている。
 写真家の星野道夫さんは、「誰もが、それぞれの老いにいつか出会ってゆく。それは、しんと した冬の夜、誰かが、ドアをた たくように訪れるものなのだろうか」と書いている。
 私は、娘の年齢を聞いて老い に出会い、「年取るはずたい」 とつぶやいた。
 熊本市北区 岡田政雄(73)  2021.2.16 毎日新聞鹿児島版掲載

二?  ニです。

2021-02-14 23:19:53 | はがき随筆
 カタカナ書きのコンビニ、どう見返してもコンビ二と、1字だけ漢字表記。すぐそばのミニとかアニメは、きちんとカタカナ。一般人はまず気付かないこんなミス、若い頃2年ほど校正の仕事に携わったお陰で、いやでも自動的に飛び込んでくる。 手書き、鉛活字手拾い時代ならいざ知らず、キーボード入力の現代はコンビニ、アニメなどコンピューターが自動的に判断 してカナ出力されるはずなの に、なんで1字だけ漢字になったかがむしろ不思議。首をひね りつつも、まだこのあたりの識別ができるのはありがたいと自 分を納得させた。
 熊本市東区 中村弘之(84)  2021/2/12 毎日新聞鹿児島版掲載


新橋のふぐ

2021-02-14 23:11:42 | はがき随筆
ふぐのおいしい時期になった。福岡では出張者を近くのふぐ料理の店に連れて行くと喜ば れた。値段も手ごろだった。
  本社に転勤し、残業していると、上司から「新橋のふぐ料理店にすぐ来い」と電話があった。 席に着くと先輩3人がいて上機嫌だった。大皿には数枚のふぐ
刺ししかなかった。小一時間もすると、ふぐ雑炊が出てお開きとなった。部長が浮かぬ顔で戻ってきた。〆て7万円也。全員の金を集めても足りずに、翌日払うことにした。「田中君は新橋でえらく高いふぐを食べたそうだ」と評判になった。先輩方 はもうこの世にいない。
 鹿児島市 田中健一郎(82)  2021.2.14 毎日新聞鹿児島版掲載

案山子

2021-02-13 22:33:08 | はがき随筆
 ドライブの途中、何やら人だかりを見つけた。 かかし祭りらしい。珍しいもの好きな私は、案山子の集団にもぐりこんだ。
 コロナで亡くなった志村けんのバカ殿様。テニスのちょっと太めの大坂なおみ。3密はダメとマスク姿の婦人たち。いるいる。趣向を凝らした案山子たち。今ではイベントで目にするが、私が嫁に来た頃は、案山子がおのおのの田んぼを守っていた。 
 友が子供の様子を聞いた時、「ばあちゃんと一緒に案山子を立てに行ったよ」。きゃぴきゃぴ娘の私だったが、予想もしない答えに彼女は驚いていた。 案山子には心が癒やされる。
 宮崎市 津曲久美(62) 2021/02/13 毎日新聞鹿児島版掲載