はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

失せ物

2021-02-13 22:16:18 | はがき随筆
 今までに何度も家の中で大切なものを失くしてきた。 先程まで確かにここにあったと、何度も、何度も探す。腕時計、指輪、メガネなどである。
 あんなに大事にしていたのにと半分諦めつつも執拗に探す。この前の話。戸棚の整理をしたメガネが出てきた。安物みたいのかと捨てる寸前、でもよく見たら以前紛失した大事なメガネではないか。これがどこから出たのか今でも定かじゃない。失せ物ってこんなものか。今からこんなことが増えるといけない。一日中探す事にもなりかね ない。でもあぁよかった。 しっ らかりしなと自分にカツを。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

越冬ツバメ

2021-02-13 22:07:29 | はがき随筆
 ポーチには20年近く使われて いるツバメの巣がある。早期米 の田に水を張るころ飛来して、 補修し営巣の準備にかかる。春を待ちわびるぼくが、梅、河津桜の開花に始まり、飛び交う姿に春本番を実感する時である。 去年は14羽の雛が巣立った。 時は移り秋の気配を感じるころ2羽のツバメが戻ってきた。南へ旅立つ別れを告げに来たかと想像するといじらしい。ところが、 寒さが増しても旅立つ気配はなく、氷が張る朝は巣の中で寄り添っている。 寒さもだが餌が気になる。温暖化とはいえ冬は冬、 心配の尽きない寒さになった。 だが何もできない。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81)  2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

自問自答

2021-02-13 17:28:58 | はがき随筆
 「今になってどうしたんだ」と自分に問い掛ける。
  墓じまいをして、もう5年が過ぎた。少し早い墓じまいだったんじゃないかな、と自問自答をするようになった。あの頃はあの頃で、やむにやまれぬ思いに悩み、心を痛める日々の末、そうしたのだ。
 しかし、日々過ぎる時間と共に、墓じまいは「後継者がいないから」という理由だけで、自分の心の負担を単に軽くしたかっただけじゃなかったのか、と悩む。
  寺を永遠の安住の地としたのは自分の判断だが、先祖や亡妻も許してくれるだろう。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2021/2/13   毎日新聞鹿児島版掲載

ごくらくごくらく

2021-02-13 17:08:33 | はがき随筆
深々と冷え込んだ夜、寝る前にお風呂に入る。今夜は「ゆずの香り」にしようか。
 ぶくぶくと泡が立ちゆずの香りが漂う。 洗い場で震えていた 体を湯船にゆっくりと沈める。チクチクチクと皮膚を刺激するお湯。ぐっと首までつかる。そ
して、「ごくらく ごくらく」と呟く。
  「おじいちゃんのごくらく」という本の読み聞かせで、「ごくらく」って知ってる? と園児に問うと「うん、お肩をトントンすること」との答え。働いている親世代のつぶやきかな。 
 お風呂が一番「ごくらく」だと思える年になった私である。
 熊本県宇土市 岩本俊子(71)  2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

練炭火鉢

2021-02-13 16:53:45 | はがき随筆
 亡母の暖房は練炭火鉢だった。 私が高校に入学した頃から使い始めて、高齢になるまでずっと使っていた。冬はこたつの横に置いていて、いつでもやかんがシュンシュンと鳴り、湯気が隙間風に流れていた。根菜類を煮込む鍋もよく掛けられていて中の骨付き鶏肉の身が骨からぽろりと取れるのが柔らかくておいしいと亡夫が言いつつ喜んで食べていた。 
  母の形見の赤い練炭火鉢を去年から私が使っている。おせち料理作りにも使った。練炭の火の丸い穴も懐かしく暖かく、母がそばにいるような気がしてくる。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2010/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載


金柑だのみ

2021-02-13 16:46:57 | はがき随筆
 家の前のイチョウが色づき、 金柑の実もうっすらと黄みがか っていた昨年末。一番なりはとっくに鳥に食べられている。
  鳥たちはユズ、カボスには目 もくれず金柑を狙ってくる。負 けじと、軽トラに乗る前と降りる度に金柑の木を一回りして熟 れている実を探し口にする。
 インフルエンザの予防接種を 受けた方がいいと妹に勧められた。受けたこともかかったこと もない。かぜもひかないのは金柑のおかげと信じている。
 「それみたことか」と妹から 言われたくはない。例年よりも木に足を運び食べよう。神だのみならぬ金柑だのみである。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(66)  2021.2.13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆に

2021-02-11 15:48:45 | はがき随筆
 およそ10年前から、はがき随に筆に投稿している。下書きのような原稿は新聞紙面の活字に変換され、立派に美しく映える。印刷のインキの匂いが体に染みつく。感慨無量。友人、知人から激励の言葉を頂き、心から深く感謝。 私の随筆にも賞を頂いた。この賞を糧として切磋琢磨し、文筆に まい進する。一文字、  一文字の選択を丹念に、文法に間違いがないか推敲する。 外出のときや夜半ばでも気がついた言葉はメモに。はがき随筆は私の夢、あこがれ。唯一の生きがいだろう。子や孫への宝物とし家系の歴史に刻まれれば幸いと祈願します。 
  鹿児島県姶良市 堀美代子(76)  2021.2.11 毎日新聞鹿児島版掲載

電子オルガン

2021-02-10 21:30:53 | はがき随筆
 新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛要請が出た。各 施設が閉鎖され、手足をもがれたような思いだ。
 気を取り直し、物置の整理に取り掛かる。廊下の隅には、かつて子供たちが使い、カバーを 掛けたままの電子オルガン。
  それは楽器音痴の私にとっても、憧れだった。長女が音楽教 室に通い始めた頃、厳しい家計を無理して買った。小さな手で弾くおぼつかない演奏を、幸せな気持ちで聴いたものだ。
 処分する前夜、キーをたたいた。「ドーレーミー」。かすれ たような音が「まだ生きているよ」。そんな声にも聞こえた。
 宮崎市 河上久子(72)  2021.2.10 毎日新聞鹿児島版掲載

 睡眠時間

2021-02-10 21:00:02 | はがき随筆
  公私ともに仕事を離れてから は心身の疲れが減ったせいか、 睡眠時間が4時間を切るように なった。せめてあと少しでもと 目を閉じるが効果なきまま数年たつ。
  そこで起きぬけに、前日の新聞に目を通し、切り抜きたい記事の見落としはなかったかと探していると、当日は気付いていなかった記事が必ず1、2カ所 は見つかるから不思議だ。 そこでますます目が覚めてくる。
 いつかテレビで睡眠時間についての講座があっていたが、参考にはならなかった。そのうち、永遠に眠れる時が来るだろうからくよくよしない。
 熊本県玉名市  大村土美子(82)  2021.2.9 毎日新聞鹿児島版掲載




季節感

2021-02-08 12:47:54 | はがき随筆
 サザンカが2月初めに、垣根 いっぱいに赤い花を付けた。 花吹雪も散らしている。木枯らしが吹く寒い季節の到来を、この花は知らせてくれる。玄関先の 駐車場からは東の空がよく見え る。冬の夜、喫煙でそこに立つ と、オリオン座と冬の大三角形の光が年の瀬が近いと告げる。
 そんな折、気象庁が1月から 生物季節観測を見直すと発表。 同観測は桜の開花日、ウグイス の初鳴きなど、季節変わりの動 植物を調べる。動物は全廃し、 植物は34種から6種に減らす。サザンカの観測も廃止に。 近い将 来、星座の変化でしか季節の変わり目が分からなくなるのか。
 鹿児島市 高橋誠(69) 2021.2.8 2021/2/8 毎日新聞鹿児島版掲載


46回目の同窓会

2021-02-08 00:01:57 | はがき随筆
 大学の仲間と、卒業した年に 始めた泊まりがけ同窓会。結婚 したら配偶者も、子供が生まれ たら子供も参加。9人で始めた 同窓会だったが、少しずつ増え、 多い時には35人ほど。食べなが ら飲みながら、明け方までたわ いのないことを話すことも。
 最近は、子供たちも独立し、孫も生まれ、参加者はほぼ夫婦 のみに。高齢者の仲間入りをし た今も欠かすことなく続けてき た45回の同窓会。
 しかし46回目の同窓会を新型 コロナウイルスが阻んだ。 幹事 から送られてきた近況報告に、 「今年は何としてもコロナを終 息させ、開催を」とあった。
 宮崎県日向市 福島重幸(67)  2021.2.7 毎日新聞鹿児島版掲載

ちょっといい話

2021-02-07 23:54:18 | はがき随筆
 仲間と五ケ瀬川の堤防で花を育てているが、たまにそこを歩く知らない人たちからありがとうの言葉や差し入れを頂くことがある。年末のある日、傘寿でボスと呼んでいる仲間に男性が声を掛け、しばらくして缶ビールを片手に戻ってきた。「どちらさま?」の問いにも答えず、 すぐにきびすを返したそうだ。 
 「こんなことをしてくれるのはおば様だけかと......。いい話ですね」「おじ様だっているん だよ。 見てる人はいるんだね...」と感慨深げなボス。 
 年が明け、その人に会うことができ、お礼が言えた。 
 彼は杖をついていた。
  宮崎県延岡市 露木恵美子(69)

柳名

2021-02-07 23:38:07 | はがき随筆
 「仲畑流万能川柳」に投稿を始めてから3年余になります。地元の新聞には、その2年前から投稿をしています。柳名は「愚凡法明」でありますが、この「愚と 凡」の名前の由来についてよく聞かれます。
  浄土真宗の開祖、親鸞聖人は自らを「愚禿親鸞」と名乗っておられます。この名にあやかっ て「愚」の字をもらいました。
 「凡」は凡人とか平凡とかありますが、実は仏教で言う「凡夫」の言葉から付けたもので、愚と同じようにへりくだっていま す。「柳名が謙虚でいいと褒められる」。これは先日万柳に投稿して掲載されたものです。
 鹿児島県志布志市 一木法明(85)  2021/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載

隠れ蓑

2021-02-07 23:16:00 | はがき随筆
 私の中にもう一人の私がいます。厳しい、でも頼りになる私です。その私が耳元でささやきました。「今日のカレンダー見ましたか。一年の計は元旦にあり。一年の計はできましたか。やがてあなたの誕生日ですよ。94歳ですよ」「やっぱり年にはかなわないよ」「またそれを言う。毎年言ってるではありませ んか。 年を隠れ蓑にしてはだめです。正月の駅伝は大好きでしょう。一緒に心を走らせるのですよ。 ワクワクする空気をいた だくのです。丑年はコツコツ頑張ることです。 シャキットして笑顔で春咲く花を見つけなが 」「ハイ分かりました」
 熊本県八代市 相場和子(94) 2021/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載 

修学旅行

2021-02-07 23:02:03 | はがき随筆
 小学生1泊2日、中学生3泊4日の修学旅行は今でも懐かしい残像としてある。
 しかしコロナ禍の中、加世田中学生は4月にある予定が、12月にわずか1泊2日の短期修学旅行とのこと。小生、山のガイ ドは屋久島を中心に10回以上しているが、市内観光ガイドは今回初めてであり、緊張したが9名の生徒を史跡巡りで満足させただろうか?  小生の熱い情熱の説明を感じてくれただろうか? 
 無事に事故なく担任に引き継ぎしたが、約2時間のガイドは走馬灯のように過ぎ去ってしまった。
   鹿児島市 下内幸一(71) 2021/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載