はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ハトの目覚まし時計

2021-02-07 22:45:57 | はがき随筆
 寒い朝、もう少し寝ようと布 団を引き上げる。仕事をしているときは、どんなに寒くても朝早く起きて、朝食の準備をして、自分を含め3人分の弁当を作り慌ただしく出掛けていたが、今はそれもない。温かい布団でいつまでも寝ていられる至福のひと時だ。 
  ところがその幸せを奪われる。うとうと眠る私に、外からククー、ククーと耳障りな声。 隣家の屋根にいるハトだ。「早く起きろ、早く起きろ」と聞こえる。 ソーラーパネルの下に巣を作りヒナをかえしたらしい。 近ごろ、家の周りを飛ぶハトが増えたような気がする。 
   宮崎市 高木眞弓(66) 2021/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載

妻のチャレンジ

2021-02-07 22:28:02 | はがき随筆
 昨年の2月に起こった妻の突然の事故から我が家の人生は一 変した。術後の妻の心境は不明であるが、彼女の生き方、チャレンジに感謝している。事故後、妻の生活は大きく変わり、自分のありのままを受け入れていることだ。事故後の介護生活から病院通い、更には水頭症の手術後、リハビリ生活が続いている。しかし、妻から一度も不平、不 満を聞いたことがない。その感情がなくなったのか、それとも  すべてを受け入れているのかわからないが、私は、彼女のその生き方に驚く。術後3カ月にな るが、次のステップのリハビリに期待したい。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2021/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載

カラオケ

2021-02-07 22:12:52 | はがき随筆
「独りで家に籠もっていたら ボケるよ」と諭して、娘が介護 老人施設への入所手続きをして くれた。月金曜日の10時から14時半まで通所している。昼食後 のカラオケを趣味にしている20 人余りが歌を楽しんでいる。
 喉の筋トレを心がけている私 もその仲間である。毎回同じ曲を歌っている人もいるが、私は 曲を変えている。
 歌う曲目はNHKラジオの深 夜放送で毎晩3時から始まるに『 っぽんの歌こころの歌という番組を聴いて選んでいるが、ラジ,オのスイッチは付けたままで熟 睡していることが多い。0時ごろの放送なら助かるがなあ。
  熊本市東区  竹本伸二(92) 2021.2.

英語を楽しむ

2021-02-07 21:55:34 | はがき随筆
 再任用で高学年の担任をして いる。今年度から外国語が教科 となった。せっかくの機会だ。英 語をやり直そうと思い、職場の 行き帰りにCDを聞き始めた。 携帯ラジオでラジオ英語講座をき 聞くことも楽しみになった。
 学生時代、カナダからの留学 生と友達になった。一緒に汽車で長崎、熊本を旅行したことが 今でも思い出だ。40代初め、2 年ほどラジオ講座を聞いた。
 そして今回。覚えた (思い出 した)ことは即、忘却のかなた に消えるのが寂しい。 いつまで 続くか分からないが、英語を楽 しもうと思う。
 初御空一生三度の英会話
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(64) 2021/2/2 毎日新聞鹿児島版掲載

朝の祈り

2021-02-07 21:37:14 | はがき随筆
 子どもを学校へ送り出し、仕 事場へ向かう。駐車場に車をと めると、登校中の子どもたちの 動きが慌ただしく見える。
 フロントガラス越し、毎朝、 白い息を吐きながらさっそうと 登校する中学生の姿がある。必 ず同じ場所で立ち止まり、マン ションの上の階へ向かって大きく手を振る。相手は母親だろう か。一瞬口元を緩めると、手袋 を着けた両手に息を吹きかけ、 またすぐに歩き出す。毎朝の儀 式は子どもの祈りか。それとも 親の祈りか。
 明日も「頑張ってこいよ」と 何気ない朝の一言に尊い祈りを 込めて学校へ送り出そう。
 宮崎県都城市 平田智希(44) 2021.2.4 毎日新聞鹿児島版掲載


ヘイワナク

2021-02-03 15:47:08 | はがき随筆

  第2次世界大戦の中、昭和20年7月1日の熊本大空襲で我が 家は跡形もなく焼け落ちた。
 8月15日終戦、日本は先行き不明の日々が続く。
 私は翌21年4月小学校入学。 1年生時、学校代表で条幅を書く。「ヘイワナクニ 八サイ (数え年) コヤマタカコ」と力強い字が並ぶ。混沌とした中で国 民は平和を願ったのだ。
 昨年は新型コロナに想定外の 災害と翻弄された1年だった。 状況は違えども平和を願う気持ちは同じだ。
 あれから5年、令和3年の正月、はじめて小学1年生時の条 幅を床の間に、平和を願った。
 熊本市東区 川嶋孝子(82) 2021.2.3 毎日新聞鹿児島版掲載

シャンプー

2021-02-02 22:40:29 | はがき随筆
 若い頃、本を読めとよく言わ れた。でもなかなか一冊読み通 せない私。その悩みを打ち明け ると、少しずつ読めばいいんだ よ、と理髪店のご主人。毎日、 たとえ数行でも、おもしろい分 量だけでいいから、とほほ笑む。 一気にたくさん読もうと焦っち ゃいけない。人によって適量ってもんがあるんだから。続けていけばいつの間にか最後のペー ジにたどりつくさ、と鏡の中で 目を合わせたとき、ご主人はボ トルを持ち上げた。 使うのは少しずつだが、気づくとなくなってるよ、シャンプー。納得できたのは、このとき私にまだ髪が あったからかもしれない。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(51)  2021.2.2 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな幸福

2021-02-02 22:25:08 | はがき随筆
 テレビで宮崎県は幸福度一番 と言っていた。 本当かな?  次 の日「幻の滝見に行かない」の 誘いに、巣ごもり中の私は飛び ついた。気温は8度と上々の山 登り日和だ。
 車から降りた先に、深い森が 見え、その中をひたすら歩くこ と1時間余り。突然目の前に高さ30㍍はあろうかと思われるなだらかな滝が、大岩の上を滑る ように流れている。
 水の音に時々小鳥の声。大き く深呼吸すると、すがすがしい 森の空気が、体中を包み「ワァ ー癒やされるう」と思わず漏れ、 みんなも笑顔。そうかこんなことだったのかと納得した。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(73) 2021.2.1 毎日新聞鹿児島版掲載

90歳の白菜漬け

2021-02-02 22:18:37 | はがき随筆
 どんよりと冷え込んだ寒空の 昼下がりチャイムが鳴った。イ リ ンターホンごしに30年来の友人のお母様のマスク姿が見えた。 隣町とはいえ、90歳になられる その方の足だと20分近くかかる道のりを一人で歩いての来訪だ った。「ご主人様のご容体はい かがですか、白菜漬けが食べごろに漬かりましたので、それとこれもどうぞ」と二つの袋を手渡された。白菜の漬物も、手作 りのあんころ餅もズシリと重かった。1年前、くも膜下出血で倒れ、闘病生活を送っている夫 の大好物。コロナ禍の中、凜としたKさんの優しい励ましが、只々、有難かった。 |
 熊本県菊陽町 有村貴代子(74)   2021.1.31 毎日新聞鹿児島版掲載

冬晴れ

2021-02-02 22:09:08 | はがき随筆
 窓の外に、寒々とした冬の空 が広がる。予報では天気と言っ ていたからほどなく晴れるだろ う。病院で検査を受ける夫を待 つ時間は長く感じる。
 そう言えば朝食抜きだった。 ホットケーキでもいただこうと 喫茶室へ行く。客は私1人。優 しい音色が流れるひとときに心が和む。急きょ変更をお願いし たホットサンド。薄い四角形。 ハムが1枚のサンドは寂しい。 病院の中の喫茶室だから贅沢は いえないが、すぐにご馳走様。 もの想う閑もない。味気ない。 ま、こんなもんかと引き上げる。 検査結果は上々で2人で顔を見 合わせうなずく。冬晴れ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載


頑張れ蕾

2021-02-02 21:52:59 | はがき随筆
 コロナ禍の下、庭の梅の蕾を探すのはささやかな楽しみである。暮れの頃はゴマ粒大の蕾をやっと見つけられた。
 蕾との会話を日課にし、3週間が過ぎると、小寒になり冷え込みが一層厳しくなった。膨らまないなと思って近寄るとゴマ粒が若干膨らんでいる。
 寒さが花芽を育てるというが、その神秘でたくましく、素朴な営みにしばらく見とれてしまった。一度きりの舞台を慎重に待つ蕾は健気にも見え、ささやかな楽しみは応援の気持ちも加わって日々膨らんでくる。
 今日もまた見上げて探す蕾かな......。
 宮崎市 杉田茂延(69) 2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載



可哀そう?

2021-02-02 21:46:30 | はがき随筆
 芸能人や政治家などの著名な 人の訃報に街頭で感想を求めら れたときに、可哀そうに、と言 う人がいる。死は決して可哀そ うなことじゃないと頑固に思っ ている私にとって、あの答えは 長い間非常に不愉快だった。
 猿から始まる長い歴史の中で、ほとんどの人間の死は捕食動物に襲われ食われることだっ たはず。食われることのない現 代の我々の死に対して、可愛そ うという感想の中には太古のご先祖さまたちの襲われる恐怖の 記憶が残っている証拠かもしれない。 よそさまの訃報に接した ときの私のコメントは、逝って らっしゃいと決めている。
鹿児島県湧水町 近藤安則(67)  2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

移動映画が来た

2021-02-01 21:29:17 | はがき随筆
やいば
映画「鬼滅の刃」が久々の反響である。映画といえば子どもの頃、映画を見る機会の少ない山里に移動映画がやってきた。会場の小学校講堂は村人であふれていた。 僕は中村錦之助のチャンバラが好きだった。懐かしく心に残っているのは「宮本武蔵」である。武蔵が一人で次々に敵を斬る場面にはハラハラドキドキさせられた。ところが一番いいところで突然フィルが ムが切れた。すると、何も写らないスクリーンに向かって「どげんした(どおした)!」と数人が叫ぶ。映写技師が慌ててい たのを今でも覚えているが、 映画は娯楽の花形だった。
鹿児島県さつま町 小向井一成(72)  2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載


さぁ歩こう

2021-02-01 21:12:23 | はがき随筆
 寒くなりコタツの番が多くなった。運動不足解消にと、一日3000歩を歩く目標を携帯に設定した。 脚が悪いので、無理のない範囲で歩く。 1000歩を超えると「がんばっちょる」、3000歩以上で「こんちょうしじゃが」とメールが届き、歩こうとやる気が出てくる。
 畑の周辺を歩いていると、トラクターが次の植え付け準備をしている。土色一面の風景の中、 1カ所だけピンク色の畑が目に 留まった。高齢者の方が育てた  コスモスだった。
 冬になっても鮮やかに咲いている。コスモス観賞をしながら目標達成にさぁ歩こう。
 宮崎県串間市 林和江(64)  2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

みいつけた

2021-02-01 21:03:06 | はがき随筆
 先の見えない不安な非常時の 中で明けた新年は、雪の舞う日 が続いた。
 お隣で生まれたさくら草が、 うちで一番に朝日が届く所にあ る大鉢で、みずみずしい若草色 の葉を思いっきり伸ばしてい る。「おはよう」の声かけをす る。あらっ、まあるい蕾が葉の間から外界を見上げている。 寒いのにー、と思わず叫んだ。
 ちょっとでも雪雲が流れると 太陽が一瞬のすばやさで顔を出 し冬の居間が温室のようにな る。寒気で小枝を震わせていた 柿の古木も威厳を取り戻した。 落ち葉をころがして吹き寄せる ざわめきも春の足音にも似て。
 熊本市東区 黒田あや子(88)  2021/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載