西村京太郎トラベルミステリー「愛と死の飯田線」は最近読んだ推理小説である。中央アルプスを挟んで高速幹線であるJR中央西線とローカル飯田線の列車速度の違いを利用した不在証明(アリバイ)が出てくる。
飯田市座光寺の援農ボランティア終了の翌日に、小説に触発され愛知県豊橋市と長野県辰野町を結ぶ全長195.7kmのJR東海の飯田線で、豊橋経由で岡崎に帰宅することにした。
早朝に援農仲間のナガイさんが、信州木曽路と伊那谷を結ぶ大平街道の中央アルプス小盆地のほぼ中間地にある「いろりの里」大平宿の途中の名水100選・飯田市羽場「猿庫の泉」に水汲みに行くというので寄り道し、飯田駅に身柄を届けて下さる。
飯田駅9時21分の電車に乗り、9時46分に終着の天竜峡駅に到着した。途中の伊那八幡駅から時又駅の間に『天竜舟下り』があり、天竜川の激流を小舟で下ることが可能である。そして『天竜ライン下り』は天竜峡駅から唐笠駅の間の泰阜ダム湖を遊覧するのである。
10時発の豊橋行きの電車に接続しているが、天竜峡を散策したいので、次の電車にする。発車時刻は12時36分であるから、2時間36分の余裕がある。鉄路が錆びる程の長時間の接続時間がある寂びた鉄道である。
探勝遊歩道が有り、一周2.5kmで40分である。駅から時計回りに歩き、不老不死の神仙郷に由来する姑射橋を渡り、途中の吊橋「つつじ橋」が重度の高所恐怖症の為に渡れず、逆戻りすることにした。心に橋から落下する自分の映像が鮮明に現れ、動悸が高まり、震えがきて、冷や汗が噴出し、自身で恐怖を造り出す精神病である。
駅に戻り対岸を歩き「つつじ橋」に辿り着いた。常人の倍の時間を消費するが、観光協会の企画のスタンプラリーの押印箇所を踏破し、ご褒美のミニタオルをゲット出来たのである。
豊橋行き普通電車は313系の最新鋭の電車で、寒冷地対策なのだろうか、乗降客が少ない為なのだろうか、ボタンを押さないとドアが開かず乗降が不可能な造りである。各駅に停車しないなら、特急電車と変わらない快適な豪華列車である。豊橋着が15時54分だから3時間18分の乗車時間になる。
途中の名物駅は長野県の田本駅と静岡県の小和田駅である。田本駅は断崖絶壁の秘境駅。ホーム背後にはコンクリート製の巨大な擁壁がそびえ、ホーム下は天竜川の渓谷である。駅へのアクセスは、人ひとり通れる程度の山道のみが存在する。車道に出るには、その獣道を延々と15分ほど登らなければならない。
秘境中の秘境として知られている小和田駅。平成5年6月の「皇太子殿下・小和田雅子様御成婚」の時、その駅名からマスコミに注目され、恋成就駅と命名され、大勢の人が訪れるなど大変なブームになった。昭和31年に完成した天竜川下流の佐久間ダム建設にともない、駅前一帯はダム湖と化して、集落や道路のほとんどが水没することになり、無人地帯となった。静岡・愛知・長野の三県の分境に近い位置にある。
飯田市への交通アクセスは、名古屋から中央道高速バスが早くて便利で安いのであるが、石油が枯渇した暁には鉄道が見直される。利用客が増加すれば、列車本数が増え、急行や快速電車が走るようになると、時間短縮される。その時が、意外に早く到来する予感がする。鉄路は光り輝き、錆びる事が無く、飯田線に哀歌が流れることも無くなるのだろう。
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