自身のホームページを見ていると、昨年の同じ時期に『さかもとのおひな巡り』に出か
けていた。3月3日は過ぎていたのにと思ってネットで調べて見ると、今年は3月10
日まで開催されているらしい。その話しを奥様にしてみると『土曜日は予定がはいって
いるけど、日曜日に変更するから』とおっしゃる。つまり連れて行けという事らしいの
で、土曜日は休みを取ってどこかの山を軽く歩こうと思っていたのが、仕方がないので
ご案内する事にした。
でも少しはこちらの希望も聞いてもらって近場の山を歩いてみることにした。昨年はす
ぐ近くの稼勢山と樋口山に登ったが、眺望もなく上り下りも意外と急な場所があった
ので、少し離れてはいるけれど、登山道がしっかりしている山犬嶽に苔を見に行くこと
にした。
奥様には『まだ今の季節だと苔の色は冴えないと思うけれど』と一応ことわりを入れて、
苔を見た後に『さかもとのおひな巡り』に行ってみようということになった。
徳島南部自動車道ができたお陰で、徳島市内を通らずに郊外の津田町まで抜けられるよ
うになったので、勝浦町や上勝町に行くのに随分と楽になった。
津田町から勝浦川の土手を走り、国道55号線を横断して県道16号線で勝浦町に向か
うと、『生名ロマン街道』と書かれたサクラ色の幟が道沿いに立てられていた。
勝浦川の河川敷を黄色く染める菜の花とさくら色の幟が春の訪れを感じさせる。さらに
は白装束で歩くお遍路さんを何人も見かける。『この近くに札所があるんかな?』と二
人で話をしていると、『20番札所鶴林寺』の標識が目に入った。お遍路さんも春の風物
詩のひとつだ。
『道の駅・ひなの里かつうら』の横を通り少しだけ『ビックひな祭り』の話をすると、
奥様の帰りの寄り道のリストに入ったようだ。そうこうしていると助手席でスマホをし
きりに見ていた奥様が『白鳥の河津桜が満開なんやて!』と。『なぬ、この上さらに寄
り道しろと・・・・。』時間的には余裕があるとはいえ、今日はのんびりと思っていた
のに忙しくなりそうだ。
新坂本トンネルを抜け上勝町に入ると路面が濡れている。フロントガラスにも小さな雨
粒がつく。川向の月ケ谷温泉の施設を過ぎる頃には、奥に見える山の頭が白くなってい
る。『霧氷かな?』と前回の梶ケ森で霧氷を見た奥様が言う。『いや、あれは雪やな』。
いつも山犬嶽に登るときは樫原の棚田のさらに下に車を停めて登山口まで下道を歩いて
いたが、それだと舗装路を往復3kmほど歩くことになる。するとYAMAPに最近、
峠の反側の府殿の棚田側に数台置ける駐車場ができていると書いていたので、今日は
そちらに停める事にして、上勝町役場の手前で『スーパー林道』と書かれた標識のある
三差路を右に折れて進むと『スーパー林道起点』と書かれた大きな標識のある橋を渡る。
そこからは集落の中を標高を上げて行くのだが、山道に慣れている私でも慎重になるく
らい道幅が狭い。空からは薄くスライスした鰹節のような大きな粒の雪が降ってきた。
『帰りの下りはこっちの道は怖いな~』と思いながら進んで行くと、どんどん周りの雪
は深くなっていく。
集落を過ぎ杉林の中の道になっても、林床にも雪が積もっている。『これは苔の色どこ
ろか、雪で苔は見られんでどうする?』と聞くと、『せっかくここまで来たんやから』
と意外な返事が返ってきた。先日バレンタインデーのお返しにトレッキングシューズを
買わされ高いお返しになったのだけれど、どうもそのトレッキングシューズの試し履き
をしたいようだ。駐車場は道の両側が広げられ5台以上は停められそうな雰囲気だ。
駐車場からは少し歩くと樫原との峠になる。峠から見える景色は一面の雪景色。さっき
まで春の訪れを感じていたのに一気に冬の気分に押し戻された。
峠から少し登って行くと最終民家があり登山口になる。案内板やその横の地図を入れた
ポストを見ると積雪5㎝弱といったところだろうか。
『犬は喜び庭駆け回る』じゃないけれど、真っ白な雪に奥様のテンションも上がってき
た。降ったばかりの雪なのか、柔らかいパウダースノーのようで、踏むと直ぐに地面が
現れ土色の足跡が付いて行く。
いつものように鳥居を潜り山の中へと入って行く。
前回来た時にもあったスラックラインのベルトがまだ残っていた。ストックを使って乗
ってみるが、足元がフラついて腰が引いてしまう。交代して奥様が乗ると私より体幹が
強いのか歩き出そうとした。やるな~!
道は杉林の中を続いている。分岐には大きな道標が立っているので、その矢印に従って
歩いて行く。風もなく時折枝から落ちてくる雪の音と、雪を踏みしめる自身の足音が聞
こえるだけで周りは静まり返っている。
この登山道にはミニ88ケ所の石仏が並んでいるが、雪をかぶった大岩の下でじっと佇
んでいる石仏が凍えているように見える。
コケの名所まで来ると登山道から外れて、足元が危うい。本来なら緑の苔で覆われた森
の中のはずだったが、やはりまっ白な雪景色が待っていた。
いつも写真に撮る丸い苔玉の親分が積み重なった場所も、変哲もない雪景色だ。ただ恐ら
くこの山の、そしてこの苔の庭の雪景色を見る事はもう二度とないだろう。
せっかくなので苔玉に被った雪を掃ってみると、若々しい黄緑色が現れた。陽も当たら
ず冷たい雪の下でもなお枯れずに雪解けを待つ姿に、感動すら覚える。
そんな思いにふけっている横で奥様が何やら雪だるまを作ってスマホで写真を撮ってい
る。新しく買ったiphone15。撮った写真を比べて見ると、光の表現やバックのボケ感も
明らかにコンデジより上だった。『凄いやん!』と言うとニンマリする奥様。
iphone15
コンデジ
『今度は苔が緑で一番きれいな季節に来よう!』と約束して苔の庭をあとにした。登っ
てくるときには気づかなかったミツマタが、道の脇で黄色く色づき始めてたのに、かき
氷のように雪をかぶって季節は後戻りした。
車まで戻り峠から下りは樫原の方へ走ると、やはりこちらの方が道幅もあり走りやすか
った。峠から少し下がっただけで雪は無くなり、樫原の棚田には緑が見えた。
上勝町には他にも変わった施設が色々とある。途中にある上勝町ゼロ・ウェイストセン
ターやRISE & WIN Brewingに立ち寄りながら坂本へと向かう。
さあここからは奥様が楽しみにしているひな祭り。腹ごしらえにふれあいの里でランチ
を頂く。千円にしては量も種類もあって『安いよね~』と満足のご様子の奥様。食堂で
は周りは女性ばかり。そんな中で少人数の男性は肩身が狭い。当然おしゃべりの大音量
は女性陣。その横でニコニコ顔で話を聞くだけの男性陣。
食事が終わる頃には小雨が降ってきた。傘を差しながら八幡神社の段差のある不整形な
石段を登って行くと、それまで小雨で少し寒々としていた景色がいっぺんに明るくなっ
た。境内に入る鳥居に早速つるし雛、そして花で飾られた花手水と、ひな人形だけでな
色々な人形や花で彩られている。
メインの石段の雛飾りには、昨年には無かったハートの形の花飾りが施されていた。そ
して拝殿には毛氈が敷かれてひな人形が飾られていたて、何だか去年より随分と賑やか
で派手になった感じがした。
境内では他にも色とりどりの人形が飾れていいたが、木の上から見下ろす『さるぼぼ』
が素朴で一番の好印象だった。
その賑やかな境内とは逆に、旧街道の沿いの民家の軒先に飾られたひな人形は最初の2
軒だけで『この先にはひな飾りはありません』と張り紙がしてあった。何かしら理由が
あるのだろうけれど、神社が派手だっただけに一抹の寂しさを感じた。
坂本八幡神社でたくさん写真が撮れた奥様はここでも満足顔。そして車で次に向かう途
中で時間が押してきているので『もうビックひな祭りか河津桜かのどちらかやな』と言
うと『え~~』と不満げ。ビックひな祭りは個人的に何度も見ているのでパスしたかっ
たが、奥様は納得できないらしい。仕方がないので道の駅の駐車場に車を停める。
すると会場の人形交流館に入る前に、その横の『JA東とくしまよってネ市』でお買い
物をしたいといいだした。『ハイハイ』と言いながら後ろをついて行くが、何を買おう
かと色々と迷っている。勝浦町の名産のミカンの棚の前では。ミカンが入った袋を取り
上げては何度も品定めをしている。女性が買い物をしだすと時間の感覚がなくなるとい
うのを改めて痛感する。
人形交流館に貼られたビックひな祭りのポスターには『元祖!ビックひな祭り』と書い
ていた。恐らく全国には他にもビックひな祭りを謳っている所があるのだろうけれど、
先日来の『日本一低い山』の文字が頭に浮かんで可笑しくなった。
ここでも奥様は熱心に写真を撮っていて、なかなか前に進まない。ここに来る途中で4
00円の入場料がいる話をすると、『え!入場料とるん。』と言っていたのに、『これ
で400円は安いわ!』と手のひらを返した。
ビックひな祭りでも十分に写真を撮ったあとは最後に白鳥町へと向かう。徳島では相変
わらず空は暗い灰色。高速で大坂トンネルを抜けたら瀬戸内側は晴れている事を期待し
たが、狭い範囲で青い空が見えるだけだった。
それでも湊川の河川敷に設けられた駐車場は、もう夕方だというのに車で一杯だった。
警備員に誘導されて駐車場に車を停めて、川の土手の舗装道を歩いて行く。道の反対側
には屋台が立ち並んでいる。北側は青空がのぞいていたが、南側は曇り空。
せっかくのこの桜並木、できたら青空と陽の光が欲しかったが、贅沢は言ってられない、
満開のこの時期に間に合っただけでも良しとしよう。雪の山から満開の桜の咲く郷へと、
一日で季節を跨いだなかなかない珍しい経験のできた日だった。
明日はRISE & WIN Brewingで買った『山犬嶽』の地ビールを奥様とふりかえりの話をし
ながら飲むとしよう。