山の遭難記事は必ず開いてみているが、21日(土)の朝、北アルプスの槍ヶ岳と北穂高岳の間の稜線、通称「大キレット」と呼ばれるところで、57歳の女性が滑落して亡くなったという報道。続報で、ガイド2名がついた8人パーティーだったということ。どういうレベルのヒトを募ったどういうツアーだったかはよく分からないが、難所といわれる登山道を6人客を募ったツアーで歩くというのはちょっと聞いたことがないが、事情が分からないのでコメントするのを控えたい。
オイラは2000年ころだから、今から20年以上前とまだまだ若く、いまより格段に体力とバランスを備えた時期に、職場の後輩M君と二人でここを歩いた。山小屋を利用した軽装登山で、上高地をスタートし、常念岳から表銀座に回って、槍穂を巡って岳沢から上高地に下るという3泊4日の旅だった。
夏の晴れた日の朝、ヒュッテ大槍を出発し、槍に登ったあと、大喰岳(おおばみだけ)、中岳、南岳という3000M峰の峰をたどり、この大キレットを下り、北穂高岳への壁のような登山道を登り、その日は何度も鎖をつたって涸沢ヒュッテに下り、翌日奥穂に向かった。山と高原地図の標準タイムで10時間程度要する難所で、当時は山小屋の予約が必要なかったので、疲れたら北穂高岳小屋に泊まればよかったが、二人ともまだまだ元気で2時間下って夕暮れの涸沢ヒュッテに辿り着いてビールで乾杯し、美味しい夕食をいただいたと記憶している。
で、この遭難記事を見て改めて「大キレット」というルートのことを調べたり、他人の書き込みを見たが、かなりの危険度を有した難所であり、「長谷川ピーク」や「飛騨泣き」という滑落したら命の保証がない危険ポイントがあって、THE JAPAN ALPS さんの解説によると、技術レベルE、体力レベル9、難易度★★★★★とよく分からないが何だか恐ろしいルートだった。
「だった」という表現としたのは、多少のガスが湧いていたがオイラたちが歩いた日は、晴れていて、風もなく、岩が乾いていて、危険ポイントには鎖やはしごがしっかりしていて、すこし怖さを覚えたのは、今回滑落事故のあった長谷川ピーク付近の両側が切れ落ちた馬の背と呼ばれるナイフエッジの個所だが、ここも鎖や足場のボルトがあり、これらを利用して慎重に渡って事なきを得た。どうも、いまでもそんな難易度のルートを歩いた記憶がない。
上記の解説では、混んでいて渋滞に注意とあったが、その日は誰にも追い越されなかったし、追いつきもしなかったし、若くて美しい単独行の女性とすれ違って驚いた記憶が今でも残っているだけだ。
「知らぬが仏」とはよく言ったもんだ、そんなに危険ルートだとは知らなかったので、ビビッて体がこわばるということもなかったし、天気にもめぐまれたので、大キレット踏破はいまでもいい思い出として残っている。当時のノー天気精神とイイ天気がそうさせてくれたのだろう。
それと、この「大キレット」は、学生時代に先輩が歩いた楽しさを自慢していたので、オイラもいつかは歩きたいと長い間思っていたが、単独行で歩くのを少し戸惑っていたところ、若くて体力があった職場の後輩が二つ返事でついてきてくれたので、誘った以上臆病なところを見せたくない先輩面で前を歩けたことも怖さを忘れた要因だろう。精神面の支えとなってくれたM君には感謝したい。
下の写真、NHKBSのグレートトラバースの映像からお借りした、蝶ヶ岳からの展望である。オイラたちが20年前に歩いた槍から北穂高までの稜線が一望だ。大きく切れ込んだ「大キレット」よくもあんな奈落の底に落ちるような下りを歩いたもんだ。
もう、とうてい歩くことはないだろうし、歩けないだろうから、いつか蝶が岳に登ってこの「大キレット」の展望を得たいと思っている。天気が悪くても、蝶が岳のテント場に何日も張りついて、その展望が現れる時を待とうと思っている。