怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

今野敏「警視庁FCⅡ カットバック」

2022-04-22 11:31:36 | 
今野敏の警察ものとしてはちょっと異色な作品で、警視庁フィルムコミッションシリーズの第2作です。
警視庁のフイルムコミッション(FC)室、映画やドラマの撮影の際にロケ現場で様々な便宜を図る部署(本当に警視庁にこういう部署があるかどうかはしりませんが、近年は自治体などでこういう組織があり、大いに活躍しているみたいです)で、長門室長は専任ですが、部下の4人は事案があれば特命と言うことで招集をかけられる。
主人公は、地域総務課勤務の楠木(くすき)ですが、至ってやる気満々の警察官からは程遠い定時に帰りたい仕事嫌いと言うか何事もなく終わればよいと言うお役人気質。拳銃をもって犯人と対峙するのは考えられず、辛いことや危険なことは嫌い。小説の主人公としてはあり得ないようなキャラですが、都合よく長門室長に使われて、いやいやながらも捜査に引きづりこまれながらも長門室長との掛け合いで岡目八目と言うか独特な視点を提供して事件解決に働きます。

舞台は大田区昭和島の刑事映画のロケ現場で大森署管内。あの隠蔽捜査シリーズで竜崎信也が署長を務めていた警察署です。この小説では竜崎は異動していて、後任は美人のキャリア藍本になっていたのですが、貝沼副署長は残っていたし、隠蔽捜査でも独特なキャラで重要な役割を果たしていた刑事の戸高はここでも事件解決に向けて重要な役割を果たしています。
さらに言えば湾岸署の安積係長シリーズで安積といつも張り合う捜査一課の佐治係長も同じようなキャラで出てくるし、田端一課長もおなじみです。
事件の被害者は、現場で殺される役を演じるはずの役者なのだが、ロケ現場に本当の死体として発見される。当然ながら役者、スタッフに事情聴取しながら解決に向けて捜査が進んでいくのですが、捜査幹部たちも銀幕のスターたちには自身のあこがれの気持ちと気遣いが出て微妙に特別扱い。幹部たちがそれを面を出さないように牽制しあっている姿にはふふんとなってしまいます。
映画の辻本監督をはじめとした助監督などの製作スタッフ、ダブル主演の伊達と柴崎、ヒロイン女優の桐原美里の微妙な関係などもいかにもありそうなことばかりで楽しく読めます。映画製作現場では驚くほど多くの人々が働いていて多種多様な仕事をこなしている。時間と金の制約がある中で、スタッフは悪戦苦闘しているのだが、そんな撮影現場の雰囲気がさもあり何と言う形で出て来てミーハー気分を満たしてくれます。もっとも実際の現場がどうなのかは全く知識がないので、本当はだいぶ違うのか知りませんが。
今野敏の隠蔽捜査シリーズとか湾岸署安積係長シリーズの愛読者にとってはおなじみのキャラが出ていて、ハードカバー400ページ余りを楽しく一気に読むことが出来ました。
まだ出ていないと思いますが、早くこのシリーズの3作目を読みたいものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする