怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

養老孟司・池田清彦「年寄りは本気だ」

2023-01-20 08:22:07 | 
本のカバーにあるように、養老さんが84歳。池田さんが75歳。もはや怖いものなしの放談です。
一応テーマは環境問題なのですが、当然ながら話はあちらへ飛びこちらへ転がり、そこが面白くて魅力なんですけど。最近の対談を元にしている(発行が2022年7月)ので、コロナ禍による大混乱のこともロシアによるウクライナ侵攻のことも話題になっています。

二人が出会ったのは1986年のあるワークショップ。それ以来の仲なのですが、二人とも昆虫マニアでもっぱら昆虫採集に励んでいる同好の士。もっとも養老さんはゾウムシで池田さんはチョウやカミキリムシが専門。二人が同じ専門でないことが喧嘩もせずに馬が合う理由かもしれない。話のあちこちに二人の生い立ちや学者になってからの様子がうかがえるのですが、池田さん曰く養老さんは東大教授時代は大酒飲みで煙草もパカパカ吸っていたとかで相当なストレスがあったみたいだと言うのですが、東大という象牙の塔で教授を務めるのが養老さんのように自由人には牢獄のように感じられたのでしょう。
それにしても二人とも博覧強記で、当然ながらありとあらゆる本を読んでいる。この本でもいろいろ紹介されているのですが、自然科学はもちろんのこと社会科学、人文科学の本もどんどん出てくるのでびっくりです。経済の分野でも話の中に藻谷浩介とか斎藤幸平に水野和夫とかが出て来て、時には対談したりもしているみたいですけど、面白い人のところには人が寄って来るんですね。
まあ、根拠はあるにしても断定するにはホンマかいなという説も結構言っていて、アルツハイマーの原因については歯周病菌が脳に入ると発症する可能性がある、近衛文麿は青酸カリで服毒自殺と言われているけど最近では殺されたと言う説が強い、岸信介は戦犯として殺されても文句を言えない立場だったのにアメリカと密約を結んでうまくごまかした、東条英機はそこまで頭が回らなかったので殺された、ニホンジカが生息数も増えすぎて生息域も広がっているので木の皮まで食べ木が枯れて昆虫もいなくなり生物多様性の面では外来生物なんかよりよほど問題などなど。生物の適応の在り方を見れば温暖化でたくさんの生物が滅びると言うのは怪しい。温暖化に耐えられない生物は北上し、寒冷化したら南下する。今までの魚がいなくなって取れなくなったと言っても絶滅したわけでなく他のところに行っているだけかも。今まで鮭を狙っていたのにブリが北海道の定置網にたくさんかかっています。
池田さんは時折危ないような発言もあって、生放送の番組には呼ばれないとか。たまに出た時には、後で「番組中不適切な発言があったことをお詫びします」とコメントが出てくることがあると言っています。そう思うとこの本でも「天皇制」についての発言は放送するにはリスクがあり問題視して騒ぐ人もいるのではと思うのですが、放送ではなくて本を読む人はまた言っているぐらいに思っていて嫌ならば読まなければいいじゃんと言うことなのでしょう。
環境問題については最近SDGsが盛んに言われているけど、矛盾しているようなことも多くて、実効性が乏しいと批判的。石油がダメで電気と言っても発電には石油が必要で、風力でも太陽光でも装置をつくるには膨大なエネルギーを使っている。日本の里山というのはサスティナブルでエコな循環があったのだが、あまり顧みられていない。大規模なダムをつくるよりも地味だけど小規模水力発電をたくさん作ったほうがいいと思うのですが、それでは企業は儲からないからダメか…
因みに池田さんの座右の銘は、経済人類学者のカール・ポランニーの名言「愚かな人には、ただ頭を下げよ」
養老さんの座右の銘は、ピーノ・アプリーレの「愚か者ほど出世する」という本に出てくる「どん底まで落ちたら、掘れ」
池田さんのもう一つは自身の言葉ですが「人生は短い、働いている暇はない」
養老さんの名言では「天才とはどういう人かというと脳の壊れている人」要は基準値の範囲内に収まらない人なんです。
もはや二人とも老人なのでもうすぐ死ぬのでどうでもいいと言いつつ、日本と子どもたちの未来には憂慮しているところが多々あり、思いのたけを語っています。
これから生きていく人たちにはそこそこ楽しく生きていってほしいと思い、国際関係でも国内政治でも「だましだまし」いい意味で適当にやっていけるシステムを作らないといけないとか。人間も国も、いい加減な方がしぶとく生き延びる、これはもう年寄りの知恵でしょう。
そうは言っても、私も数えで言えば古稀。自他ともに認める年寄りですが、とみに集中力がなくなり、こんなに本を読むことも出来ず、歳を重ねた知恵もなく、誰も寄ってこない身としては呆然としつつ二人の放談を感心して読むだけです。

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