怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

藤沢周平「用心棒日月抄」「孤剣」「刺客」

2025-02-27 18:46:39 | 

以前「市塵」のレヴューで書いたのですが、解説を伊集院静が書いていてパリで読んだ「用心棒日月抄」の素晴らしさを語っていた。

探してみたら我が家の本棚にもありました。早速引っ張り出してきて三部作を読了。やっぱり面白い。

買ったのは94~6年なのですが、この当時は文庫本の文字のポイントが小さい。昔は文字が小さい方が情報量が多くて得した気分だったのですけど今となっては文字の小さいのが苦痛になってしまった。目がすぐ疲れてしまうので間を開けつつ読もうとましたが、面白いので一気読みになってしまった。

藩主暗殺の陰謀を知ったことによって脱藩出奔してしまった青江又八郎。江戸で浪人暮らしとなり、口入屋の相模屋吉蔵で仕事にありつき用心棒家業で糊口をしのぐ。そううまい具合に用心棒の仕事がある訳でもなく時には人足仕事となるのだが、この青江又八郎、剣の腕は確か。陰謀を知られた家老側の刺客を倒しながら用心棒家業を続ける。愛すべき相棒として子だくさんの浪人細谷源太郎も絡んで何とか江戸暮らしを続けていく。

時は丁度赤穂浪士が討ち入りの準備を進めている時で、物語のそこかしこにその赤穂浪士側と吉良側、さらには公儀隠密の暗闘の影が出てくる。いわば外野から見た忠臣蔵の趣もある。

それにしても青江又八郎は強い。用心棒としての活躍だけでなく不意に現れる刺客も幾度も手傷を受けながら何とか打倒していく。当時の医療であれば刀傷を受けるとなかなか回復しないし障害を負うこともあるのだろうけど、次の物語では万全な体調になっている。切り結び打倒した相手の怨霊に取りつかれることもない。命を懸けた真剣勝負なのだがスポーツのような感覚です。まあ、眠り狂四郎でも座頭市でも隠密剣士(例えが古くて申し訳ない)でもバッタバッタと切り捨てているし、須らくいわゆる剣豪小説ですから。でも藤沢周平は単なる剣豪小説ではなく江戸市井の庶民の生活を丁寧に描いていて世話物のテーストも出しているのが魅力です。

一応最初の用心棒日月抄では藩主毒殺の陰謀が露見して青江は無事帰藩し、家老の大富は上意打ちとなり、馬廻り組に復帰できる。赤穂浪士も無事討ち入りを果たした後全員切腹の処分も下された。本来ならこれでこの連作小説は終わりになるのですけど、青江又八郎をこれで退場させるのは忍びないと言うか人気が出て続編を望む声が多かったのか、最後には嗅足組の佐知とか大富家老の甥の静馬が出てきて続編の期待をつなぎます。

続編の「孤剣」では、その大富静馬が持ち去った文書を奪還するために、またしても青江又八郎は江戸の裏店暮らしをする羽目に。軍資金もわずかで例によって相模屋吉蔵のあっせんする用心棒家業に。細江源太郎に加えていささか生活に疲れた様子の米坂が相棒になるのだが、静馬の持ち去った文書を巡って公儀隠密に大富派の残存勢力が加わって三つ巴の争いに。ここに又八郎の協力者として嗅ぎ足組の頭の佐知が大きな働きをするのだが、又八郎との密かな交流もあって魅力的です。

物語はさらに「刺客」へと続くのですが、ここではついにラスボスとして藩主の伯父たる寿庵保方が登場。最早や家老に命じるのではなく自身が藩政奪還に動き出し邪魔者の嗅ぎ足組をつぶしにかかってくる。それを阻止しようと青江又八郎は江戸へ行くことを命じられる。江戸暮らしに慣れているとはいえ相変わらずの裏店で暮らしながらの用心棒家業となる。相模屋吉蔵も細江源四郎も変わらず活躍します。ここでは嗅ぎ足組の頭の佐知が又八郎と密接に連携して大きな働きをする。さすがにこのシリーズもこれで最後と細江も米坂もちゃんと用心棒暮らしから仕官して収まり、又八郎も馬廻り組に戻り妻の由亀との間には子どももでき、最後には黒幕の寿庵保方を討ち果たすのですが、解説には続編を期待する声も。今となってはこれは叶わなかったのですが、シリーズを再読しても十分堪能できました。

 

 


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