kenroのミニコミ

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スコットランド・イングランドの旅紀行3

2015-08-05 | 美術

ロンドン2日目には、郊外のウイリアム・モリス・ギャラリーに足を運んだ。W・M・Gは、モリスが10歳くらいから通学生として過ごした学校の近くにあり、のち寄宿生となったそうである。W・M・Gは、モリスの父親が早逝する直前に購入した館であり、モリス一家はその後、金銭的に不自由のない生活をここで送ったという。モリスはのちに私立学校を退学、オックスフォード大学にすすむほんの数年間をここで過ごした。しかし、貴族のマナーハウスに比べて決して広くはない住まいは、モリスの豊かな少年時代を彩ったに違いない。W・M・Gのそばは広大な庭園(公園)。大学の休暇には帰省したこともあるだろう。そして、この家は、モリスの最愛の家族、母や姉の息吹がしみ込んだ住処でもある。

聞くのと違って、展示はこちらのペースで読めばいいのでなんとなく理解できた。モリスがここでどう過ごしたか、モリス芸術はどう花開いていったか。オックスフォードで運命の女性に出会ったモリスは、階級差をこえて求婚する。真黒な髪を持つ美しい女性ジェイン・バーデンである。ジェインはすでにロセッティらのモデルをつとめていて(ラファエル前派のミューズであった)、結婚したのに忙しいモリスや、自身の不運な結婚もあってロセッティは、ジェインと「affair」な関係にあった(そういう風に、説明版にあった)。しかし、モリスはジェインとは離婚せず奇妙な関係を続けたまま、モリス商会での旺盛な活動、のちに社会主義者としての活動もした。そのあたりがよく分かる展示であったし、小さな空間にモリス・デザインがあふれているのが心地よい。モリス・デザインは150年を超えて飽きの来ない豊かで、落ち着いた魅力が身上だ。それは工業化に異議を唱えたモリスが、花や草木など自然界の普遍に美を求めたからで、社会主義者となったモリスが産業革命後の工場労働者の境遇を告発したのとはうらはらに、手のかかる美しいモリス・デザインがブルジョアだけの所有物となり、現在も必ずしも庶民の日常使いのテキスタイルとなってはいないことが微妙かつ複雑な趣と思える。もちろん、モリス・スタイルがダイソーで入手できるのも悲しいが。

W・M・Gのあとはその流れからヴィクトリア&アルバート美術館へ。V&Aは、15年くらい前だろうか訪れたことがあるが、そのときはモリスのこともほとんど知らなかったし、そもそも絵画ではなく工芸品の美術館なので興味が持てず、時間を費やさなかった。しかし、筆者にドイツ中世の彫刻家ティルマン・リーメンシュナダーの魅力を教えてくださった福田緑さん(『続・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』(丸善プラネット 2013年)外 などの著者)の教示により、彼の作品があったから訪れたようなもの。なぜ、V&Aにあるのか定かではないが、旅の行く先々でリーメンシュナイダーに出会える、それを探すのは福田さんのおかげで今やとても楽しみとなっている。

ロンドン最後の日には、午前にナショナル・ギャラリーを訪れたが、企画展はサウンドとペインティングのコラボをしていたが、時間も考えあきらめ、テート・ブリテンへ。T・Bがこんなに広いと思わなかったのは、ロンドンの滞在時間が短いとN・GとT・Mばかり行ってT・Bにあまり行かなかったからかもしれない。たいてい天気も良くないし。

驚いた。T・Bの広さでも、ティモシー・スポールが好演した最近の映画「ターナー、光に愛を求めて」ばかりでもない。企画展にバーバラ・ヘップワース展をしていたことだ。

バーバラ・ヘップワースは、ヘンリー・ムーアと並ぶ英国を代表する抽象彫刻の大家といっていい。しかし、ムーアが柔らかい曲線の母子像で日本国内でも野外などよく見られるのに比べて、ヘップワースの作品はいわば難解である。しかし、今回の企画展で分かったのは、ヘップワースが野外彫刻などをとおして、石と格闘していた姿である。石との格闘。それは石像彫刻家として必然の道だが、ヘップワースのそれはジャン・アルプの影響故フォルムがやさしい。格闘しているのにやさしいフォルム。むしろ純粋、かつ完璧なフォルムを求めるために格闘していたのであり、結果として曲線のフォルムが生み出されたのかしれない。

(以下、船越桂展のブログも認めるつもりなので続く。スコットランドイングランド紀行は一応この項で終わり。(B・ヘップワース Untitled))

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