亡くなった尾崎豊の曲に「BOW」というのがあって、その詩の一部に、
「鉄を食え飢えた狼よ、決してブタには食いつくな」というくだりがある。
俺は数ある尾崎の名曲の中でもこの詩のこの部分が一番好きや。
ブタ=「世の中のモラル」、狼=「自由な人間」、鉄=「社会の虚像」
のメタファーで、誰もがやすやすと食べられるブタを食べて、ちっぽけな
自由を手に入れ、本当の自由を失っていく。本来人間はもっと自由で
あるべきで、それを手に入れるためには、社会の虚像と戦い、人間とし
てのプライドを守らなければいけない、と尾崎は言っているように思う。
そういえば、以前勤めていた会社で初めて社会人になってしばらくは
俺もずっとこうやったような気がするな。自分が正しいと思ったことは絶
対に押し通したし、意見の合わない上司にはたてついてばかりいた。
仕事さえすれば文句ないんやろという態度で、うぬぼれも強かったな。
一番ひどいうぬぼれはこういうのがあった。
あまりに上司のいうことが納得できなかったので俺はその上司をバカ呼
ばわりしまった。しかもそれは上司といえば上司やけど、会社の専務。
そのあと、直属の上司を通じて、専務が本社までくるようにとおっしゃら
れてるから行くようにという指示を受けたんやけど、その時の俺ときたら、
やっと専務も俺の言うことを理解して、こないだはよく意見してくれたと
褒めてやろうというつもりやな、と思ってて、本社に意気揚々とでかけ
ていった。その時、専務に「誰に物を言ってるんだお前は!!」と言わ
れて始めて、あれ、この人怒るために俺を呼んだんかいって、気がつい
たくらい。
それでも、正しいことを言った俺には何の落ち度もないと思ってたから、
まったく謝りなんかしなかったしね。
まぁ、でもその後あまりの態度のデカさに進退伺いをつきつけられてね、
子供もいたし、家族を守る責任もあったから、色々な人に相談して
結局その専務に頭を下げて謝った。俺、悔し涙を流したのはその時
が初めてやったわ。
結局それからも十年近くその会社でお世話になったんやけど、その専
務は俺の在職中に定年を迎えられて、先に会社を去って行かれたな。
でも仕事を変わり、年を重ねて日本の社会の仕組みを知れば知るほ
ど、ようそんな無茶してたなぁと思うようになってくる。もちろんその時の
ことを後悔なんかしてないけど、やっぱり若気の至りやったなぁとは思う。
それでもやっぱり今でも俺の心の片隅にはBOWがあり、それを貫き
通した尾崎を尊敬してる。だからとことん不自由を感じたら俺はやっ
ぱり鉄を食うつもりや。
そう、ブタなんか食べてたまるか。だってダイエット中なんだもん。