チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物が繋ぐもの 21

2018年09月21日 08時21分15秒 | 日記
山崎青樹さんの工房は高崎にあった
染の手順の原稿は父斌さんが書いたが
染めはここのところ長男の青樹さんに移っていた

青樹さんの工房の後ろには美しい川が流れていた
「染には水が一番大事」
ということは柿生でも耳にたこが出るくらい聞かされていた
だから家の中に水を引いていたんだものね驚き

高崎の家は樹木が鬱蒼としていて
その木々の一つ一つに木製の首輪
木の名前とこの木からどんな色が生まれるかを媒染の名前まで入れて丁寧に手書きしてある
知らない木が多くてこんなにも自然を見ていなかったかと呆れた

部屋に通されて染めの順序をまず説明してくださり
今まで染めた反物を見せてくれるという
部屋の一角に時代がかったタンスがあり取っ手のある引き出しを開けると
「うわーーー」
美しい色の数々古びたタンスが一気に晴れやかになりコトコト音を立てる取っ手の金具もなんだか嬉しそう

あの伊勢丹で見た万葉の色の反物のすべてが入っているのだという

これは紅花
こちらは鬱金
これは山藍
それは茜
そしてザクロ
一つ一つ染材を美しい墨字で和紙に書いてある

この文字は奥様の手書きと聞かされ色より字を褒める私に奥様は苦笑い
でも嬉しそう

心が踊るような色の数々
メモを書く手が追いつかないほど次から次に反物が出てきて
「わかったわすべての植物に色があるということですね」
これから木々を見上げたときこの樹皮はどんな色を持っているのかしら
この葉っぱからは何色が出るのかしら
そう思って見るだけでも心が植物に向いていく
そのようなものの味方を今までしたこともないので
そういう自分の心の動きが新鮮で心地よかった

また青樹さんの奥様はお茶の味がとても良く
何杯も何杯もお変わりする私を目を細めて美味しいお菓子を勧めてくださる
興奮しているから喉も渇く

無地の反物縞や格子覚えたばかりの
「これ大名縞ですね、こちらは棒縞だあらよろけ縞」
など信濃路の紬で覚えた縞柄や格子名を高らかに言い当てて悦に入る私
シッタカブッタかの極みだけど
試験で満点とったときのように「そうだよ」と言われると有頂天になる

そのうち別の引き出しを開けると模様のある反物が出てきた
「型染めと言うんですよ」
「ほーカタゾメ」
(初めて聞いたぞ何じゃあ)
「見せてあげよう」
と仕事場の方にいざなってくれる

「この祇にナイフで模様を彫っていくんですよ、これは銀杏の葉っぱね」
「はー」
「これを反物の上においてのりの付いた刷毛でこうしてはくとね、ほら穴が空いたところに糊が落ちるでしょう」
その糊が乾いたら上から地色になる色を刷毛でハイていく
「なになになに」
「やってみると理解できるよ」 (つづく)

コメント
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