山形で卒業生の6割就農=生源寺 真一解説
山形県立農業大学校で特別講義を行うため、初秋の新庄市を訪れ た。農業大学校は明日の農業を支える若者を養成する専修学校で あり、42の道府県に設置されている。2年間の修業年限で、ほとん どが全寮生を採用している。農業について深く学ぶことと並んで、生 涯の人的ネットワ-クづくりも大切だとの判断からであろう。山形県 立農業大学校は、元気の良さという点で全国有数の存在である。知 事の「日本一の農業大学校を目指す」との掛け声の下、校長先生を 先頭に大小さまざまな新機軸に余念がない。成果も着実に表れてい る。何よりも、卒業生の就農率が高い。今年3月の卒業生の6割近く が農業に進んだ。農業以外の就職先も、ほとんどが農協や農業関 連企業である。まさに明日の農業を支える若者が巣立っている。
政府の支援策重要
農業従事者の高齢化か゜進んでいる。特に深刻なのは水田農業だ。 少数の専業農業や法人経営を除くと、水田農業は昭和一けた世代 の頑張りによって支えられていると言ってもよい。このまま推移すれ ば、現在は生産過剰に頭を痛めている稲作も、供給力が急速に落ち 込む事態も考えられないではない。そこで政府が打ち出しているの が担い手政策である。農業中心で生活する農家や集落営農と呼ば れる組織的な取り組みを経済的にサポ-トする政策を担い手政策と 呼ぶ。日本農業の将来を考えるとき、担い手政策にはもっと力を入れ てよい。けれども、現在活躍中の担い手を支援するだけでは十分と は言えない。担い手の卵である若者を対象に、ひなの段階から一人 前の親鳥になるまでのステップを支援することが重要である。若者を 受け入れた法人経営や集落営農を支援する間接的な手法も考えら れる。もちろん、支援の対象を農家の子弟に限定する必要はない。
将来の若者対策も
考えてみれば、農業従事者の高齢化はここ5年や10年で急に生じ た現象ではない。30年、40年前に若者であった人々の就業先の 選択が累積した結果として、今日の深刻な担い手不足が生じてい るのである。この状態を一朝一夕に変えようなどということは考えな い方がよい。担い手政策に加えて、「明日の担い手政策」を充実す ることで、日本の農業は長期的な持続性を獲得することになる。「明 日の担い手政策」に応えて農業にチャレンジする若者は少なくない はずだ。農業大学校の講堂でそう確信した。熱心に聴講する100人 の学生を前に、東大生に対する日ごろの講義に比べて、私のテンシ ョンも幾分高めだったようである。(しょうげんじ・しんいち=東大教授)