粘膜の「線毛」の運動低下 ■東京女子医大など研究
細菌やウイルスがのどから体内に入るのを防ぐのに、重要な役割 を果たしているのが粘膜にある微細な「線毛」の運動。この働きをう がい薬が低下させるとの動物実験の結果が最近、発表された。洗 浄や殺菌のために行ううがいが、逆に体の自浄作用を損ないかね ないというのだ。研究を行ったのは東京女子医大第一内科の玉置 淳教授と、ライオン生物科学研究所副主任研究員の小池泰志さん ら。のどや鼻の気道は、入ってくる空気を加湿・加温する粘膜で覆 われている。その表面にじゅうたんの毛並みのように無数にあるの が線毛だ。線毛の上には粘液層があり、入ってきた細菌やウイルス はここに付着。その後、「健康な状態なら、線毛が一斉に運動するこ とによってベルトコンベア-上を動くように体外へ排出される」(小池 さん)という。繊毛の動きが遺伝的に弱い人などは感染症にかかり やすいという。研究チ-ムはうがい薬の作用を調べるため、ウサギ の気管の粘膜を使い、線毛運動を評価する方法を開発。5種類のう がい薬を使い、実際の使用濃度でそれぞれ線毛にたらして運動の 変化を調べた。その結果、運動の活発さは薬をたらした時点を1と すると、5-7分後までにすべての薬で0・6-0の範囲で低下した。 水道水でこうした変化はほとんど起きなかった。研究チ-ムが原因 として着目したのが塩分濃度。「うがい薬は水で希釈するため、塩分 濃度が生体内より低くなる。これが浸透圧の差となって線毛運動に も影響を及ぼすと考えた」と小池さん。希釈後の塩分濃度を生体内と 同じにするため、うがい薬の溶媒としてアルコ-ルの一種プロピレン グリコ-ルを使用したところ、線毛運動の低下は抑えられた。殺菌効 果は変わらなかったといい、小池さんは「うがい薬も、塩分濃度を適 切にすれば線毛運動と両立できる」と話す。