山本 兼一 著 「火天の城」を紹介します。
「あの山のいただきに天下にならびなき天守を建てよ」――
七層五重の櫓に南蛮風の意匠を凝らした「安土城」。
それだけの大きさの天守となれば、屋根瓦や壁を含め、建物全体の重さが何万貫になるかしれない。
長い年月にわたって地震や風雪に耐えうるのか。
何万石もの用材の調達、長さを違えた釘を十一万本、屋根瓦は十一万枚・・・。
建築に必要な番匠(大工)が延べ十三万七千七百人。
それ以外の職人を含めれば毎日千人から必要であり、延べ総数が百万を軽く超える。
運搬の人間まで加えれば、六十六州を総動員するほどの人間が必要だ。
「この天主は化け物だ。」
又右衛門はそう思った。
だが、又右衛門は引き受けた。
「ようは自分自身がこの天守を建てたいかどうかである。」
巨大な「安土城」築城を命ぜられた番匠棟梁岡部又右門と息子の以俊(もちとし)は信長の無理難題を形にする為、この前代未聞の大プロジェクトに挑む。
これは、超一流の技術と気概で数々の障害を乗り越え、前代未聞の建築物を作った大工集団の戦国版プロジェクトX。
織田信長の安土城は時代小説で何度も出てくるので知っている方も多いと思いますが、この城を建てる側から書かれた小説はこれが初めてでしょう。
実際の建築の次第、順序がどう行われたか。
材料はどこからどう調達したのか。
建物の細部の工夫をどう凝らしたか。
築城における建築の内面がスリルと緊張に満ちた小説として描かれています。
そして、読んでいる内に「木の心」の深さ、「石の心」の深さが心に染み渡ります。
建築関係の仕事に従事されている方は是非一読を!
2004年 松本清張賞 受賞
2005年 直木賞候補作