『ラスト・イニング』
あさのあつこ
『バッテリー』大ファンの長女は、その番外編ともいえるこの『ラスト・イニング』が出てるらしいと私がメールした、その帰りに早速この本を買って帰ってきました(本屋に一冊だけ残ってたようです)。
長女が読み、次女が読み、「お母さん、読む?」と聞かれて、ちょっと考え込んでしまった私。
実は、それほど『バッテリー』が好きなわけではありません。
おもしろかったけど、どこかひっかかるところがあって、おまけにスポーツ小説なら森絵都の『DIVE!!』に勝るものはないと思っていたし。
で、長女の友達のところをまわっていったのでした。
先日そのことを思い出し、長女に聞いたらもう手もとに戻っているとのこと。
『バッテリー』では、屈折したキャラとして描かれていた瑞垣の視点で書かれたこの『ラスト・イニング』。
ちょっと、かまえて読み始めたのですが・・・。
読み出すと止まりませんでした
あさのあつこさんは、やはりうまい。
う~ん、なるほどこうきたか、と唸りながら読み終えてしまいました。
思春期のゆらめきやあやうさを、等身大で描けるから若いファンが多いのでしょうね。
もやもや、いらいらするばかりの、思春期特有の自分たちでさえ言葉にできないような思いを、代弁してくれているのでしょう。
『バッテリー』では天才的なピッチャー巧と、彼とバッテリーを組む豪を中心とした物語でしたが、これはその巧の一球に魅せられた、そしてそのため自分の進路さえ変えてしまった門脇と、その門脇のそばで常に屈折した思いを抱き続けた瑞垣の物語です。
『バッテリー』の瑞垣を私はあまり好きではありませんでしたが(長女は大ファン)、彼の視点から読むと、彼の屈折した思いが手にとるようにわかって(本人にはいやなことでしょうけど)、巧や豪よりずっと近しいものを感じます。
彼と似たような思いを私も持ったことがある、きっと誰もがそう感じてしまうのではないかしら。
その思いをこんなふうに小説にできるなんて、そして読者をぐいぐい読ませるなんて、やはりすごい。
たいした文章力です。
個人的には『バッテリー』よりずっと読み応えがあったなあ、と思います。
あさのあつこさんの作品では『No.6』もおもしろいですね。
友情とも愛情とも違う、ふたりの少年の強い絆。
そういう微妙な関係を書くのがうまい作家さんです。