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ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

源氏物語 <空蝉>

2008-09-04 | 源氏物語覚書
『源氏物語』を読んでて思うのは、
各巻の題名が趣深くていいなあ、ということです。
この「空蝉」という言葉もそう。
蝉のぬけがらという意味がありますが、
季節感があるし、いかにもはかなげで、
日本語の美しさというものを感じさせますね



話としては前の<帚木>の続きです。

伊予の介の後妻のつれない態度に、ひどい女だと恨むもののあきらめきれず、
源氏の君は小君にもう一度機会をつくってくれるよう頼みます。

その女の方はというと、源氏の君からの便りが途絶え、
怒ってあきらめてしまわれたのなら悲しいけれど、
こんな密か事は終わりにしなければ、と思っています。
しかし本心は、自分の仕向けたこととはいえ、
このまま忘れられてしまうなんて辛く悲しい・・・。
揺れ動く女心ですね。

ある夜、とうとう源氏の君は小君の手引きで再び女の下へ訪れます。
その夜は伊予の介の娘(つまり女にとって継娘)が来ていました。
なんと、源氏の君はふたりが碁を打っているところをこっそり覗くんです。
暑い夏の夜、着物もはだけてくつろいでいるところをですよ!


今のご時世だったら犯罪になりかねないこの覗き見も、
この時代はけっこう多かったようなんですね。
高貴な女性は顔を見られるのも恥かしかった時代。
見てはいけない、と思うと余計に男心をそそるのでしょう。
『源氏物語』の中では覗き見のシーンがたくさん出てきます。
(顔も性格もわからないのに、噂だけを信じてその女性の下へ通う、
 というのも今では考えられない話ですが)

この時代、建物の構造から考えても、女性の姿が全く見れない
なんてことはないと思うのです。
あちこち開けっ放しで、風で御簾が揺れたら中が丸見えだし。
これって、女性のほうもわかってて、
ひょっとしたら見られることも意識してたのではないか、とすら思います。
(そしてチラ見した人が、誰それの姫は美しいと言いふらすとか)


覗き見のあと、夜も更けみんなが寝静まったころ、
源氏の君は女の閨に忍び込みます。
ところが女の方は気配に気づき、かけていた薄衣だけを残して
逃げ出してしまいます。
実はこのとき、例の継娘が一緒に寝てたんですね。
とばっちりを受けたのはこの継娘。
源氏の君はてっきりあのときの女だとカン違いして(!?)
あれ、この前とはなんか違うなあ~と思いつつ、
その娘と夜を過ごしてしまうんですよね。

あとで気がつき、まっ、しゃーないかってことで、
その継娘には適当にうまいこと言って取り繕うんです。
当時真っ暗闇とはいえ、なんといいかげんな!
覗き見したとき、ふたりの体格が違うことはわかっていたでしょうに。

それでも、またあの女に逃げられた、と未練たっぷり。
残されていた女の薄衣を持ち帰り、空蝉の歌を詠みます。
それでこの女のことを「空蝉」と呼ぶようになったわけですね。

もしもこの夜、源氏の君の想いに応えていたら、
身分も低い平凡な彼女が、彼にとってこれほど
忘れがたい女性とはなっていなかったことでしょう。
拒み続けたからこそ、思い出に残る女性となったわけですね。


『源氏物語』に出てくる女性の中で、
どの女性が好きか、自分はどのタイプだと思うか、
ということがよく話題になりますが、
私が一番親近感を抱いたのがこの空蝉です。

平凡な人妻が、雲の上の存在のような源氏の君と
一夜を過ごしたんですよ~
忘れられないけど、このままだと辛く惨めな思いをするのは
目に見えてる。
それではプライドが許さない。
辛いけどもうこんなことはすまい、と頑なに拒む空蝉。
そう決心しながらも、やはり心は思い乱れるわけです。

空蝉視点で見ると、この巻は揺れる女心を描いた
せつない物語となっています。
しかし、一方で源氏の君にしてみれば、
せっかく忍んで逢い行ったのに思い人には逃げられ、
カン違いして他の女性と一晩過ごしてしまったという
なんともさまにならない失敗談。
この巻は、意外にそういうドタバタの喜劇的要素もあるんですね。

ふたりのとばっちりを受けてかわいそうなのが空蝉の弟の小君。
姉の空蝉からは源氏の君の手引きなんかして、と叱られ、
源氏の君からは、これだから子どもは役に立たない、と八つ当たりされ、
良かれと思ってしたことなのにね

そうそう、もうひとりかわいそうな子(?)がいました。
カン違いで源氏の君と一晩過ごした継娘、軒端の荻。
後朝の文ももらえず、それっきり。
空蝉と対照的に軽そうな女性として描かれてはいましたが、
文も出さないとは、女性にまめな源氏の君の意外な一面でした。


コメント (2)
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