『源氏物語』は膨大な物語なので、
恋愛においては、不倫あり、少女趣味あり、失敗談ありだし、
政治的には権力闘争に巻き込まれ失脚もします。
また人生においては光と闇の部分が描かれているなど、
多彩な内容でこの一冊でいろんな話を楽しむことができます。
その中でもこの<夕顔>の巻は、なんとホラー仕立て。
この時代では定番の、物の怪が出てくるのですよ~
古典の教科書にも出てきた有名なエピソードですね。
時期的には<帚木><空蝉>の後になるのでしょうか。
源氏の君は17才。
このころ、六条に住む女性のところに通っていました。
この女性、先の皇太子の未亡人という高貴な方で、
7才年上ながらも、教養も深い美貌の才女です。
そう、この方が有名な六条御息所。
『源氏物語』はこの女性がいなければ、おもしろさが半減するのではないか、と
思われるほど重要なキャラクターです。
その六条御息所のところで一夜を明かし、源氏の君が帰るシーンがあるのですが、
ここの描写がすごくいいのです
まだ疲れが残ってて、物憂げに源氏の君を見送る六条御息所。
一方源氏の君は、見送りに来た侍女の中将の君にちょっかいを出すんですね。
といっても、手を出すわけではありませんよ(笑)
和歌のやり取りがあるのです。
でも、その侍女はさらりとかわすんですね~
愛人の侍女に歌を詠む源氏の君もたいしたものですが、
それをさらりとかわす侍女もたいしたものです。
美しい情景とともに、このさりげない戯れが風流だなあ、と思います。
このときの源氏の歌に「朝顔」が出てきます。
これって、「夕顔」との対比なのでしょうね。
ところで若い源氏の君、高貴な女性をようやく自分のものにしたにも関わらず、
他の身元もよくわからない妖しげな女性にメロメロになってしまいます。
ほんとに、これだから男の人って・・・
と思わずにはいられません。
この女性が住んでいるのは、小さな家の建て込んだ五条界隈。
源氏の君にすれば物珍しい所です。
垣根に咲く白い夕顔が縁になってその女性と知り合ったことから、
この女性を夕顔と呼びます。
この夕顔という女性、私はどうもピンときません。
頼りなくて、何考えているのかわからなくて。
でも、男性はこういうなよなよっとして、自分のいいなりになる
謎めいた女性がいいのでしょうね。
私はどちらかというと、六条御息所のようなはっきりとした女性が好きですが。
まあ、そんな夕顔の魅力に源氏の君もぞっこんで、のめりこんでしまうのです。
そしてよせばいいのに、彼女を廃院に連れ込み、ふたりだけの時間を楽しみます。
そして、そこで事件は起きたのでした。
ふたりでいちゃつきながら、一方で源氏の君は
宮中では自分を探しているだろうな~とか、
六条御息所のところへ行ってないけど、恨んでるだろうな~
でも、彼女といるとどうも窮屈で息苦しい。
こっちの方が気楽だし、などと不埒なことを考えています。
そんな後ろめたい気持ちでいるから出てくるのですよ~
そう、枕元にぞっとするほど美しい女が!
うなされて目覚めると、灯りも消え、侍女の右近もひどく脅えています。
暗闇の中人を呼び、ようやく紙燭がきてよく見ると、
なんと夕顔はすでに息絶えていたのでした・・・。
あまりにも急な出来事に動転する源氏の君。
初めて人の死に直面し、それがまた愛した女性なのですから。
やっとのことでお供の惟光を探し出し、
後の始末を惟光が一切引き受けます。
この惟光という人物は、源氏の君の乳母の子どもで、
特に彼のlove affairにはかかせない人物なんですね(笑)
はじめのうちこそ気丈にふるまっていた源氏の君も、
夕顔の死のショックから立ち直れず、彼自身病に臥します。
そのお見舞にやってきたのが友人の頭の中将。
実は夕顔は、雨夜の品定めのとき頭の中将が話した女性、
─おっとりした女性で、頭の中将との間に女の子までもうけたが、
妻の実家から脅かされたため姿を消した常夏─
と同一人物だったのです。
そして、その娘があとで玉鬘(たまかづら)という名で出てきます。
もちろん、このとき頭の中将はそんなことは知りません。
そのころ、空蝉も伊予の介について旅立ちます。
源氏の君は彼女の身代わりにずっと持っていた小袿を
和歌とともに彼女の元へ返します。
この巻で、源氏の君は空蝉と夕顔の二人の女性を失ったわけです。
まあ、何かと評判のよい源氏の君にも、
こういう秘密にしていた恋愛もありましたとさ、というお話。
それにしても、枕元にいた美しい物の怪とは
一体誰だったのでしょうね・・・。