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ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

女は戦う 〈閉経記〉

2013-10-09 | 読むこと。



夏をいまだに引きずっているような今年の秋、出かけるのが億劫になっていた私を
図書館へ駆り立てたのがこの本、伊藤比呂美さんの『閉経記』です。

『良いおっぱい 悪いおっぱい』、『おなか ほっぺ おしり』などで、
悩み多き子育ての時代のよき先輩であった伊藤比呂美さん。
彼女も私たちと同じように年を重ね、そしてあたりまえのことだけど
全く違った選択(彼女の場合、離婚・再婚)をしながら人生を歩んでこられました。
そして、この『閉経記』に至ります。

私たちの年代の女性なら、誰もが経験するであろう更年期。
若いころはなんとか突っ走ってこれた自分にも、体力の衰えや、今までにない
身体の変化を感じるようになる・・・そんな時期です。
なんとなく不安で不調なこの時期、自分に向き合うだけで精一杯なのに
親は年老いて介護を必要とする高齢者になっていく。
結婚して家族がいたらいたで、例えば子どもの問題にも頭を悩ませなくちゃいけない。
長年見て見ぬふりをしていた夫婦間の微妙なズレが気になりだして
ストレスを感じてしまう・・・
この年代の女性は、大なり小なり似たような状況にいるのではないでしょうか。


この本の帯にはこう書いてあります。

老いと戦い、
からだと戦い、
家族と戦い、
世間と戦い、
平穏な日々は
やってくるのかしら?


まさに彼女の人生は戦ってばかり。
その戦いっぷりを、エッセイの中で小気味よいほど真正面から正直に語られます。
時には「ここまで書いて大丈夫?」とこちらが心配するほど(笑)
この戦いの断片を読み、自分の気持ちを代弁してもらったり共感したりして、
私たちは元気をもらっているのかもしれません。

このエッセイの中でも、比呂美さんは自分の身体のことだけでなく
家族のこと、犬のこと、親の介護のことが書かれています。
介護といっても、彼女の場合ハンパじゃありません。
彼女がいるのはアメリカのカリフォルニア、父親が住むのは熊本。
イギリス人の夫と子どもをアメリカに残し、自分は月1回
介護のためその間を往復するわけです。
それだけでも、精神的・肉体的・経済的にどれほど大変なことか・・・
そのことを雑誌に進行形で書いておられたわけです。
書かずにはいられなかったのか、それとも苦しみながら書いておられたのか、
あるいはその両方だったのか・・・

彼女のことだから、一切きれいごとは書かず、生々しく赤裸々に
家族や介護や自分のことを書かれるわけですね。
だからこそ、その中の文章に同じ経験を持つ私たちは胸を打たれるのです。

たとえば、

 犬には言葉がない。憎まれ口は一切たたかない。口答えもしない。
説明も言い訳もない。ことばがあると思うから、気持ちを伝えたくなる。
たいてい言わなくていいことだ。言ってもしかたのないことだ。
実は、犬には期待もしていない。だから言わない。
 ことばがあるから、あたしたちは親の老いを悲しむ。


これまで老いた親に「言わなくてもいいこと、言ってもしかたのないこと」を
どれほど言ってきたことか。
その時は、言わずにはいられなかった。
何でこんなふうになってしまったの、と言わずにはいられなかった・・・
それが老いた犬なら、「おお可哀想に」と何も言わず介護できたのでしょうか。

このエッセイの途中でお父様は亡くなられます。
お母様のときから続いた遠距離介護が終わりほっとされたかと思いきや、
糸の途切れた凧のようになってしまった比呂美さん。
最後にこう書かれていました。


あたしたちは満身創痍だ。昔からいっしょにやってきた女たちも、新しく知り合った
女たちも、みんな血まみれの傷だらけ。子どもがいりゃ子どものことで、親がいりゃ親のことで、
男がいりゃ男のことで、男がいなけりゃいないということで、ぼろぼろになって疲れはてて、
それなのに朝が来れば、やおら立ち上がって仕事に出ていく。
ふだんは自分が傷ついていることなんか気づいてもない。
 女友達に声を届けたい一心で、あたしは書きつづけてきたような気がしておる。
熊本にいる。東京にいる。カリフォルニアにもベルリンにもチューリヒにもいる。
世界中に散らばっている。港港に女友達だ。まだ会っていない読者も、
ひとりびとりがみんなあたしの女友達だ。声が、届きますように。



この文章が本当に胸にずしんとこたえたのは、もう一冊彼女の本を読んだあとでした。
それは『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』。
その本についてはまた次回に・・・


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5 コメント

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Unknown (まつかぜ)
2013-10-14 18:11:22
こんばんは 

この本のことを知って 図書館検索してみたものの
予約数が多くて とても直ぐには手に出来ないようでした。
様子だけでも見てこようと、本屋さんへ行って
今日、三軒目でようやく1冊見つけました。
この本を必要としている人が 大勢いるわけか、な。
とげ抜き・・・も やはり気になっていて。
レビュー楽しみにしています。
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まつかぜさん (くっちゃ寝)
2013-10-15 14:16:12
こんにちは。

伊藤比呂美さんの本、私は翻訳された児童書を読んだくらいで
最近ほとんど読んでいませんでした。
図書館でも、どのコーナーにあるのか探し回ったくらいで・・・
予約数が多いということは、同世代の女性からかなり指示されているということで、つまりはあれこれ思い悩んでいる女性が
いかに多いことか、ということですよね。

時期的にはとげ抜き・・・が先で、『閉経記』はその後のことになります。
予約待ちの間に、とげ抜きを読まれてもいいかもしれません。
内容は・・・ちょっと異色なので、レビューを読んで判断してください(笑)
今、もう一度読み直しているので、しばしお待ちを!
返信する
訂正 (くっちゃ寝)
2013-10-15 17:30:55
「指示」ではなく「支持」ですね。
間違い、申し訳ありませんでした~
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Unknown (jester)
2013-11-12 09:42:54
わ~~偶然というか奇跡というか、この本、パリに持って行って読んだ一冊でした!
ズンバの話とかでは笑ったけど、父親の話でいろいろ考えさせられました。
自分のブログでも書くつもりですが、私はこれと「犬心」を続けて読んだんですよ~
返信する
jesterさん、お帰り~ (くっちゃ寝)
2013-11-12 23:16:17
おお、なんと奇遇な!
jesterさんもこの本を手に取られましたか。
私たち、こういうことが気になるお年頃になったのでしょうねえ。

伊藤比呂美さんの本は、笑いながら、泣きながら、いろいろ考えさせられます。
「犬心」もおもしろそうですね。
私はご両親の介護のことが気になって、とげ抜きのほうを読みました。

パリの話と本のレビュー、お待ちしております♪
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